5-3話
とりあえず謝って誤魔化そう。日本人は謝って誤魔化す、これ重要。
「いえ、たまたま俺の口に「『天ぷらキング』より数段落ちる味と勇者ヨシオ様は言っているわ」」
せっかく誤魔化そうとしたのにシャム姫が火に油を注いでいるよ!
「『天ぷらキング』ですか!ここ最近いい気になっている異国風の店ですね。なるほど、千年以上伝統を誇るこの城の料理がぽっと出の『天ぷらキング』よりも下だと言うわけですね」
『天ぷらキング』のところ、確かに俺も同意したけど、元々はシャム姫が言った言葉だよね!ね!ね!もしかして、前回とか前々回のこととかまだ怒っているのかな?まだお仕事モード抜けてないのかな?
「い、いや、好みは色々とあるし・・・」
「ヨシオ様が見本として美味しい料理を作ればいいのではないでしょうか?」
「え、俺が?」
さらに俺を追い込むシャム姫であった。
「確かに!昼食の後、厨房で料理対決をするのはいかがでしょうか?そして姫様に食べてもらい判断するのはいかがでしょうか」
畳みかけるようにタベタリーナが逃げ道を塞ぎにかかる。
「料理長タベタリーナがOKなら、私も興味あるし、決まりね。何より異国の料理も調理法も興味深いわ!」
シャム姫の余計な発言が発端となり、すでに断れない雰囲気を作られてしまいタベタリーナとの料理対決となってしまった。俺は勇者でしたよね!料理人ではないですよね!はっ!もしかして召喚条件の『都合が良い人材』の中に料理人も含まれているってこと?
◇ ◇ ◇
俺達は昼食後、レストランの厨房に来ている。料理長タベタリーナとの料理対決のためだ。二つの厨房には、それぞれ調味料や材料がすでに準備されている。
「異世界の調理を見せて頂ける機会なんてそうそう無いですからね。非常に楽しみです。ここにあるものはご自由にお使いください。また、必要なものがありましたら何なりとお申し付け下さい。作る料理はそちらで決めて下さって結構です。負けた後で不満を言われたくないですからね」
タベタリーナはニコニコ顔でそう言った。しかしコメカミにはまだ青筋があるのを俺は見逃さなかった。
「ありがとうございます。それでは改めて、先程私が食べたオムライスで勝負するのはいかがでしょうか?」
「オムライスですか?なるほど、さすが勇者様です。オムライスは料理の基本ですからね」
『二人とも準備ができたようね。それでは始めましょう!出でよテツニン・タベタリーナ!挑戦するのは勇者ツツゴウ・ヨシオ!』
いつの間にかシャム姫がマイクを持っている。そしてノリノリで対戦者紹介を始めている!どっかの料理番組のようだ。
『無制限一本勝負!始め!』
もはや格闘技である。
二人は同時に調理に取り掛かった。俺は下準備から始める。まずは野菜の切れ端を鍋に入れて水から煮込むのだ。昆布が無かったので乾燥した海藻らしきものを投入した。一方、タベタリーナはいきなり料理を作り始めるようだ。よほど自信があるのだろう。
「宮廷料理は美しさが全て!まず、ライスをフライパンでしばらく温めます。次に、そこに細かく刻んだトマトを投入し、混ぜたらすぐ火を止めます。温めすぎると美しいトマトの赤色が濁った感じになりますから」
『トマトはご飯に色をつけるために入れたのですか?』
シャム姫がレポータをやっているよ!さすが、バラエティーが慣れしている。
「ええ、色と、そして香りも重要です。ライスを一旦取り出します。次にフライパンに玉子を割り入れてかき回し、カリカリになるまで焼きます。完全に水分を飛ばすことが重要です」
『なぜカリカリに?もしかして半熟だとお腹を壊すのですか?』
「半熟、いや生の玉子を食べても病気にはなりません。カリカリにするのは色のためです。十分に焼くと明るい黄色になりますから」
『なるほど、さすが若干25歳で城のレストランの料理長にまで上り詰めた新進気鋭の料理人タベタリーナ!美しさへのこだわり、半端ではありませんね』
俺は相変わらず野菜を煮込んでいる。あ、煮立ってきたから海藻を取り出そう。
「そして、先ほどのご飯をカリカリ玉子の上にのせ、包んで皿の上に盛り付けます。仕上げに刻んだトマトをソースとして上からかけ、パセリと塩を振りかけて出来上がりです。どうですか?」
『早い!その上、美しい!さすが料理長!』
「色のバランスがとても大切なのです!しっとりとしたトマトご飯を包んだカリカリの玉子!そしてその上のトマトソースとパセリと塩!」
『つまり赤色と黄色のコントラストに緑色のアクセントを意識したわけですね!さらに岩塩が光を浴びて宝石のように輝いています!』
「もしかして、この世界では写真を見せ合うサイトとかありますか?ていうかネットとかありますか?」
俺はこっそりとシャム姫に尋ねた。
「ええ、魔動ネットって言うのがありますよ。女子の間ではツーチャンっていう写真を見せ合うサイトが人気よ。他にインストキログラムっていうもあるけど、そっちのサイトは一部の変人だけが使うものね」
や、やはり!これはインスタ映えのみを考慮した料理だ!