22-4話
マッチョイケメンに囲まれた異世界逆ハーレム生活をスジークは目指している。スジークの話によると、政略結婚とは関係ない、単なる趣味の話のようだ。一妻多夫が認められているとはいえ、両親であるラブ公爵は理解できず頭を痛めているらしい。
そもそもスジークは元の世界ではマッチョ好きのOL筋肉好代さんだ。ここは細マッチョと太マッチョだらけの異世界、さらにアニメでしか見たこともないようなイケメンがそこら辺にいる異世界。彼女にとっての楽園。だからと言って欲望に負けてはいけないと思う。
「スジーク、いや筋肉好代さん。この異世界があなたにとって理想的な世界であることは確かだ。しかし、このままでは男に溺れたダメ人間になってしまう! あなたはそんな人じゃないはずだ! お願いだ目を覚ましてくれ!」
俺はスジークの目を見ながら真剣に説得した。スジークはぽつんと呟いた。
「プリンセス娘の上位三人と婚約予定のくせに」
「そ、それはシャム姫様の意向でもあり、人類が生き残るために必要なことなのです!」
そうなのだ。確かに三人とも素敵だ。でも、これは魔王に勝つための組織づくりの一環。私的な感情など挟んでないったらないのだ。
「そのうちの一人は小学生だよね」
「うぐぅ、それは色々と事情がありまして」
小学生のマンチカンには怖いお兄さんオタが沢山ついている。俺は彼らに命を狙われていたので、マンチカンと取引した。結果、彼女の要望を受け入れる形で婚約し、資金を提供する代わりに俺は難を逃れた。
「そういえばエルフって超美人だよねー。国内だけでは飽き足らず他国の他人種にも手を出した人がいるとか」
「ぐはぁ・・・し、しかし、それもエルフ国およびダークエルフ国との戦略的提携というか、しかもまだ手は出していないし・・・」
エルフ族の知識と戦力は魔王と戦ううえで必要不可欠なのである。まあ、ラグドールは馬鹿だけど馬鹿ほど可愛らしいというし、ジェーンはお色気たっぷりだし、いや、そうではなく、二人とも王の実子であり、重要な仲間なのだ!
「箸休めに一般人である村長の娘とも婚約したらしいわね。美人や可愛い娘ばかりだと飽きるから普通の娘も必要なのかしら」
「そ、それは、何となく流れで・・・」
スジークが半目で俺を見ている。言いたいことはわかっています。
「『おまえが言うな!』ですね。すみませんでしたぁ!!!」
ほぼ土下座の態勢だ。
「他にもあるし。これまで故郷の文化や知識を持ち込むことでこの異世界が壊れてしまわないかと心配していたわ。だから、私が持ち込んだのは高級温泉旅館だけ。それだけに留めていたのに。誰かさんは、ケチャップ、マヨネーズ、フリスビー、薬品・・・・やりたい放題ですよね。私が心配していたことは何だったのかしら」
「ほんと、すんませんでした」
地面にめり込む勢いでの土下座だ。
「という訳で、私はヨシオを見習ってこの異世界をエンジョイすることにしたの。まずはマッチョイケメンに囲まれた異世界逆ハーレム生活の第一歩としてこの館から始めることにしたの。やがて拡大し、一大レジャーランドを作るのよ。故郷のネズミーランドを凌駕するマッチョランドを作るの! それこそが私の夢なのよ!」
うっとりした目ではるか彼方を見つめているスジーク。壮大な夢だ! 壮大すぎて全然理解できないけど。
「でも、やがて魔王が・・・」
「ええ、知っているわ。私の計画を邪魔するものは何人なりとも許さない。魔王といえど邪魔するならばキタノオンセン帝国を挙げて排除するわ。これでいいかしら。それがヨシオがここに来た目的なのでしょ」
どうやら魔王に対する考えは一緒のようだ。
「ありがとうございます。対魔王包囲網を作るのがシャム姫様も含め、ハートフル・ピース王国の狙いです。ご協力を感謝します」
「ヨシオには色々と助けてもらったし、児童養護施設も順調で子供達も助かったし、とても感謝しているのよ。本当なら私がヨシオのもとに嫁ぐべきところだと思うけど・・・」
スジークが言葉に詰まっている。思い詰めている? さっきは色々と嫌味を言っていたけど、本当は愛情の裏返し? マッチョランドなんて、本当は作る気無いのに、もしかして俺のことを試していたのかも。
「もし良ければ俺と婚約・・・」
「お断りです! 私の話聞いてた!? 私はマッチョランドを作るのよ! あんたマッチョじゃないし顔も平凡だし! 言おうかどうしようか迷ったけど、そもそもハーレム作る時点で女好き過ぎて無理だし、ロリコンだし、女なら誰でもいいって感じで異世界に来てから人格変わりすぎだし、ほんと無理だから!」
ですよね。
茫然とする俺の腕を突然現れたマッチョイケメン二人組(New)がつかみ、そのまま俺を館の外に連れ出した。
「姫の特別許可で館に入れたものの本来ならお前のようなもやし男は立ち入り禁止だからな」
「二度と来るなよ!」
二人のマッチョはそう言って去っていった。俺はしかたなく馬車のあるラブ公爵家へと、とぼとぼと歩いて向かった。その途中に黒いテントが張ってあるのが見えた。出店か? 行くときは無かったと思うけど。看板が出ている。
『メグちゃんの占いの館』
・・・あからさますぎるが、無視するのも可哀想なので占ってもらうことにしよう。俺はテントに入った。
「すいませんーん。占ってほしいのですが」
「ほほー。良い心がけじゃ。座るが良い」
黒いローブを着た巨乳の魔女が答えた。明らかに見覚えのある魔女だ。
「女帝のラブ・メグ様ですね」
「ち、違うから。通りすがりの魔女のメグちゃんなのじゃ」
「はいはい。じゃあ、メグちゃん占って下さい」
「よし。このリングに腕を入れるが良い」
前回も同じことやったな。確か、単なる魔力診断する装置だよね。
「これが単なる魔力診断器だと思っておるじゃろ。違うからな。まあ、見ておれ」
リングは空気によって膨らみ始め、俺の腕は圧迫された。これって・・・
「135じゃ。まあまあじゃの」
「まさかの血圧測定そのまんま!」
「まあまあ記念にこれをプレゼントしよう」
ラブ・メグは小さな紙袋を俺に渡した。中を見た。
「これは・・・子供用の腕時計のおもちゃ?」
文字盤はプリントされたシールの針が貼ってあるだけだ。時計としては機能しそうにない。
「かっこいいじゃろ。ここを押すと、ほら文字盤ごとぱかっと開き、中に飴とか隠せるのじゃ」
いや、そんなお前も嬉しいだろ感出されても・・・ここは素直にヨロコンデおこう。
「ありがとうございます。大切にします」
「うむ、肌身離さず身に着けておくが良いぞ。かっこいいからな」
すごく満足げなメグちゃんであった。占いという名の血圧測定が終わった。メグちゃんと一緒に占いの館から出ると、超豪華な馬車と白い甲冑に身を包んだ数十人の護衛が待機していた。メグちゃんは無言で馬車に乗り込み去っていった。占いの館のテントは、謎の黒子が現れどこかに持っていった。
メグちゃん・・・相変わらずよく分からない人だ。