21-6話
エルフ国から続いている動く歩道は森の中をまっすぐ進み、ダークエルフ国へとつながっている。エルフ国から離れると店が全く無くなった。反対側のエルフ国行きレーンはコンテナばかりが流れていく。
森、森、森。森の景色にも飽きてきた。歩きっぱなしで足も疲れてきた。座ってやる。いまからここは座る歩道だ。そんなことを考えていると目の前の景色が大きく変化した。
真っ先に目に入ってきたのは綺麗な南国の海、白い砂浜、明るい陽射し、ビーチパラソル、そしてビキニのギャル達!
「ようこそ! ダークエルフ国へ。ジェーン姫様、お帰りなさいませ」
ダークエルフ国に着いたようだ。
「国境警備隊の諸君、出迎えありがとう」
歩く歩道から降り、ジェーンが挨拶すると水着のギャル達は「キャー!」「姫様美しい!」「姫様からあいさつ頂いたわ!」「ショコラの妖精・ラグドールちゃん様だわ! 可愛い!」などの歓声が聞こえてきた。元プリンセス娘センターで第三姫のジェーンもS級冒険者のラグドールも有名なようだ。ちにみに俺に対しては「あの冴えない男は従者かしら」など失礼な歓声が聞こえてきた。
とにかくこの水着の女性達が国境を護ってくれる国境警備隊員のようだ。普通の日焼けしたギャルにしか見えないが。
ジェーンを先頭に俺とラグドールは警備隊に囲まれながら砂浜を海の方向に歩いて行く。ジェーンに尋ねてみた。
「国境警備隊っていうくらいだから、もっと強そうな人達かと思ったら普通の可愛らしいダークエルフの娘さんなんだね。失礼な奴もいたけど」
「可愛らしいと言ってもヨシオよりははるかに年上だぞ。それに国境警備隊の仕事は他国、特に人族の国からの来るパパラッチ(盗撮マニア)を撃退することだからな。見つけたら催涙スプレーや防犯ブザーで応戦する程度だ」
すみません、それほとんどダンジョン自治区の冒険者だと思います。ここには水着姿のナイスなバディーを持つダークエルフが大量にいる。盗撮をするにはもってこいだ。そしてさっきの国境警備隊の女性達はおとり役に違いない。
「ほんと失礼しちゃうわよ。エルフ国には来ないくせにダークエルフ国には頻繁に来るのよあいつら」
ラグドールが怒っているが、マッチ棒体型で露出ゼロのエルフではダークエルフの色気には勝てない。
「あそこに見える小さな島がダークエルフ国の王の住む場所。私の実家だ」
ここから数百メートル先の沖あいに緑に囲まれた小さな島が見える。その島の中にリゾートホテルのような外観の近代的な建物が見える。あれが城だろうか。しかし船、いや桟橋さえこの付近には無い。あそこまでどうやって行くのだろうか。
「船で行けるのか?」
「この近辺は遠浅だから普通の船は入れない。干潮時は砂浜の上を歩いて渡れるのだが、今の時間帯は無理だな。魔動水上バイクで行くぞ」
そんなことを話していると、島の方から水上バイクっぽい集団がこちらに向かってきているのが見えた。あれがお迎えだろうか。
「ちっ、感づかれたか」
ジェーンの顔がなぜか険しくなった。水上バイクがはっきりと見えてきた。先頭に真っ赤な水上バイク、その後ろに二台の緑色の水上バイク。水上バイクはV字隊形で進んできて、俺達の前の水際で停止した。先頭の赤い水上バイクに乗っていたのはマッチョで色黒のダークエルフ、後ろ二台に乗っていたのはギャルっぽいビキニ女子のダークエルフ。衛兵だろうか。先頭のマッチョが水上バイクから降りて近づいてきた。
「姫様、お迎えに参った」
「迎えなど頼んでおらぬぞ」
ジェーンはイラついた口調でそう言った。
「婚約者に対して手厳しいな」
まさかジェーンの婚約者? ここでもトラブルの予感が。
「貴様との婚約はすでに破棄されている。立場をわきまえろジャー少佐」
こいつがジャーか! いや初対面だけどね。でも、なんとなく機体の色から想像して三倍くらい速そうに見えたんだ。
「姫様は私と結婚するのが既定路線のはず。今は一時的に自由の身になっているに過ぎない。しかし、その僅かな隙をつかれた。はっきり言う、気に入らんな」
ジャー少佐が俺に冷たい視線を投げかけた。会って数秒で敵認定かよ! エルフもダークエルフも血の気多すぎ!
「失礼なことを言うな。彼は私の婚約者であるツツゴウ・ヨシオだ。勇者でありダンジョン自治区領主だ。それに婚約を申し込んだのは私の方からだ」
「「「「「エエエッーーー!!!」」」」」
周りの国境警備隊ギャル達が愕然としている。お前ら驚きすぎだ!
「なるほど。冴えない彼が婚約できた理由が分かった。地位も名誉も、そして多分お金も持っているというわけだな。しかし地位や名誉、資産ならば私も引けを取らないはずだが」
ジャー少佐は大貴族あるいは王家に繋がる血筋なのだろう。人族の俺に勝てるものはあるのだろうか。
「地位や名誉などどうでも良い。お前とヨシオとの間には決定的な違いがある。ジャー少佐、お前は女癖が悪すぎるのだ! 幼い頃から目についた女性を見境なく口説いていただろ。いったい何人と結婚するつもりだ」
すみません。俺も人の事言えません。婚約者が二桁になるかもしれませんなんて。いや、今はまだ三人だから大丈夫だと思いたい。
「認めたくないものだな・・・自分自身の若さ故の過ちというものを・・・」
いやいや、なに格好良く過去の過ちにして誤魔化そうとしているのだ。
「お前の女癖の悪さは物心ついてからずっとだ。あまりの酷さに私の父上も婚約破棄を認めたではないか。そして今もだ。どうせ後ろの二人にも手をだしているのだろう」
水上バイクで来た後ろのビキニギャル二人がぽっと頬を紅くした。確定のようです。
「貴族の男とはそのようなものだ。姫様にもいつしか理解していただけるはずだ」
「はぁ・・・」
あまりの話の通じなさにジェーンが呆れている。ラグドールにいたっては砂山作ってトンネルを掘っている。
「ヨシオ君といったかな。ここは男同士で勝負といこうじゃないか。まさか勇者が勝負を断るなんてことはないだろうな」
俺にはダークエルフ国の協力が必要だ。立場上、弱みは見せられない。
「もちろん受けて立とう。ただ、暴力的なものはダメだ。勇者の能力は強大すぎて微調整ができない。俺は殺人者になりたくないからね」
嘘です。攻撃力ゼロですから。実際に戦いになったらAiエクスカリバーEXのケガ修復能力だけが頼りです。
「そ、それは確かに不味いな。ならば水上バイクレースはどうだ。ここから王の島まで行って早く帰ってきた方が勝ちだ。私が勝ったら婚約を白紙にもどしてもらう」
「俺が勝ったらジェーンを諦めてもらうからな」
「ちょっと勝手な事はやめろ。それにヨシオは水上バイクの素人だ」
「もちろんヨシオ君にはハンデキャップを差上げるつもりだ」
こちらから言い出そうと思ったが、あちらから提案されるとは有り難い。たんまりとハンデはもらうからな!
「俺は向こうの島からスタートする。ジャー少佐はここからスタートして往復してもらう。向こうの島の水際でターンだ。どうだ? 無理か? プロでも無理か? 素人相手に断るか? 無理なら勝負をやめてもいいぞ」
ふっふっふ、いくら何でもこれなら勝てるだろ。数百メートルまっすぐ走るだけなら素人でもできるはずだ。それに奴の得意な分野での勝負だ。このくらいのハンデはもらってもおかしくない。
「いいだろう。負けるつもりはない。水上バイクは彼女のを使え。練習していいぞ。準備が出来たら言ってくれ」
緑色のやつか。色が違うだけで魔動エンジン部分の形状は同じ。多少の差はあるかもしれないが性能は大きく違わないだろう。
その後、しばらく水際で練習してそこそこ乗れるようになった。準備は整った。今回はまっすぐ走るだけだから技術はいらない。
もう一人のギャルのお姉さんの水上バイクに先導され移動した。海は穏やかで波はほとんどない。海底は見えるくらい浅い。王の島にたどり着いた。ギャルのお姉さんは再び来た海を戻り、ちょうど半分あたりのところで停止した。
『彼女が旗を挙げたらスタートだ。ヨシオ、準備して』
水上バイクに取り付けられたスピーカーからジェーンの声が聞こえてきた。
「こちらの準備はOKだ」
しばらくしてギャルが旗を上に挙げ水上バイクレースがスタートした。
俺はアクセルを全開にした。乗れている! エンジンの問題も無い! あとは倒れないよう運転するだけだ。いくらなんでも二倍の距離の差は逆転できないはずだ。直後、スピーカーからジャー少佐の声が聞こえてきた。
『ヨシオ君。君の負けだ』
「まだ始まったばかりだろ!」
『いや、この条件ならば始まる前から私の勝ちが確定している』
「なんだと! まさか・・・」
『私の水上バイクは君のバイクの三倍の速度が出るのだ。なのにゴールまでの距離は君の走る距離の二倍でしかない』
「ひ、卑怯だぞ!」
『戦いとは常に二手三手先を読んで行うものだ。そしてチャンスは最大限に生かす、それが私の主義だ! 水上バイクの性能の違いが、戦力の決定的差であるということを教えてやる!』
それ高性能な方が威張って言うところじゃないから!