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5-2話

 俺はパーティールームという名の取調室にいる。


 ツンデレお仕事モードのシャム姫が完全に疑いの眼差しで俺を見ている。俺はドキドキしながらも平静を装っていた。こんな時は例えやましい心があったとしても堂々と回答すればよい。微細な動揺が致命傷になることを俺は知っている。


「そうです。小汚い単なる皿が女性へのプレゼントなはずはありません」


「それでは、そのお渡しした皿は何なの?」


 やはり、この程度では誤魔化せないか。相変わらず胡散臭いヤツを見るかのような目で見られている。


「あれは魔獣使いに対抗するための道具なのです」


「魔獣使いに対抗?」


「はい。先日の報告にもあった通り、私は魔獣使いと激闘の末、勝利しました。あの有名な魔獣使いイケメン・ブリーダーと魔獣シルバーウルフにです。その中で、あの道具が役に立ったのです。あの道具のおかげで魔獣は魔獣使いの言うことをきかなくなったのです」


「あら、そうだったのね」


「それで、あの女性兵士に協力してもらい魔獣のアジトの近くにこっそりと置いておくよう頼んだのです。すでに魔獣は魔獣使いの言いなりにはなっていないでしょう。前回の戦いでは惜しいところで逃げられましたが諦めません。悪は俺が倒す!徹底的に叩きのめします!」


「『前回』のミケとのこともあったし、あの女性兵士とイイ感じに見えましたし。羨ましかったとかじゃないわよ!客観的に見て、とても喜んでいるようにも見えたし!敵なのに!誰だってプレゼントだと思うじゃない!」


 女性という生き物は過去のミスを何度も突いてくるが、動揺してはいけない。


「そそそれは、おかしいですね。ききききっと、争いが終わったことを喜んだのでしょう。俺は常に姫を守ることだけを考えて行動しています。勇者として当然の使命ですから」


「お待たせしました。カニクリームパスタとオムライスをお持ちしました」


「ふーん。まあ、いいわ」


 助かった!ナイスタイミングで料理が来て何とか尋問を乗り切った。嘘は言っていない。いや、微妙な個所もあったけど大筋あっているから嘘ではないはずだ(汗)


「美味しそう!!ねえねえ!早く食べましょうよ!」


 食べ物を目の前にしてようやくシャム姫のキャラも普通の状態に戻ってきたようだ。


「俺の知っている料理と見た目は変わらない!いや、それよりも数段美しいかも。薄く焼いた卵の中にケチャップライスが入っている仕様だな。デミグラスソースは使っていないが、これはこれで美味いはずだ」


「ふふ、来てよかったでしょ。いただきましょう」


「いただきます!・・・何か違う。包んである卵焼きはカサカサで味が無い。中のケチャップライスは赤くて酸っぱいだけ。うま味が無い。具も香辛料も入っていない」


「え?オムライスは薄いカサカサの玉子で酸っぱいご飯を包んだ食べ物ですよ」


「そうなのですか?うーん、俺の知っている故郷の味と違うなぁ。すみませんが、パスタを少し味見させてもらっていいですか」


「どうぞ」


 シャム姫は元々平民なので俺の申し出を全く気にせず、フォークで自分のパスタを一巻きして俺の皿の端に乗せた。俺はパスタを口に運んだ。


「・・・不味いというほどではないけど、遥かかなたで生臭いカニが主張している感じだ。うーん。いつも、こんな味なのですか?」


「ええ、いつも通りだわ。街中の店なら、いや『天ぷらキング』を除けば、ここよりも人気の店は無いはずよ。でも言われてみれば『天ぷらキング』より数段落ちる味ね。人が並んでいると美味しく感じるのかしら?」


 姫も気が付いたようだ。


「材料も調味料もあるはずなのに、もっと美味しくできるはずなのに納得できないな」


「シャム姫様、何か問題がありましたでしょうか?」


 そこには真っ赤な調理人服を着た超絶美人の金髪の女性が立っていた。


「あ、料理長!先日赴任された勇者ヨシオ様です。一緒に昼食を頂きにまいりましたの。でも、ヨシオ様の口には合わなかったようです」


「ここの料理長のテツニン・タベタリーナです。以後、よろしくお願いいたします。それで、どこか問題がありましたでしょうか?」


 料理長が話しかけてきた。しかし、料理が不味いなんて言えない。こんな美人を悲しませるなんてできない。


「感じたことは言った方が良いわ。レストランのためにもなるし」


「漠然とした感想でも良いですし。今後の料理の参考とさせて頂きますので」


「そうよ。気楽に教えてあげればいいだけよ。そんなことで誰も恨んだり怒ったりすることもないでしょうし」


「ええ、もちろんです。出来るだけ皆様が満足できるような料理をこれからも作っていきたいと思っていますので、感想、いや苦情であったとしても私たちにとっては有難い意見です」


 そこまで言うならば少し感想くらい言った方が良いだろうな。


「非常に美しい料理なのですが・・・ちょっと酸っぱすぎるような味が無いような」


「つまり、この芸術的な料理が不味いと。そうおっしゃるのですね」


 料理長の目が半目に。眉間にしわが!コメカミに青筋が!やばい!誰も恨んだり怒ったりすることないって姫様の言葉に同意したよね!苦情であっても有難い意見って言ったよね!罠、罠なの?


 まだまだ修行の足りない勇者ヨシオであった。

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