21-5話
昨晩は、六木本ヒルズで夕飯にオコノミヤキを頂いた後、ラグドールの実家に泊めてもらった。今日は皆で朝食を頂いた後、隣国のダークエルフ国に行く予定だ。リビングに行くと、すでに皆揃っており早速朝食が運ばれてきた。
「こ、これは!?」
「これはイチローカリーっていう食べ物よ。とある貴族が鉱山の採掘権と引き換えに手に入れた秘伝のレシピよ」
母のララドールが説明してくれた食べ物はカレー。しかもインド風でもなくイギリス風でもなく日本風。北陸でよく見られる濃いカレーに揚げ物と千切りキャベツがトッピングされウスターソースがかけてあるバージョンだ。オコノミヤキに続いてイチローカリー。レシピがぼったくり価格だが、日本人が関わっているのは確実だ。久々のカレーに感動し、朝から腹いっぱい食べてしまった。
食後はすぐに隣国に出発だ。
「「お世話になりました!」」
「ヨシオはもう息子のようなものだから、ジェーンも娘のようなものだから、困った時はいつでもここに帰ってきなさいね」
ありがとうお母様。優しい。
「そうじゃぞ。婚約破棄してもいいからすぐに帰ってくるのじゃぞ。ジェーン」
王様は相変わらずジェーンがお気に入りのようだ。ララドールとラグロールの父親への視線が冷たい。
「行ってきまーす! ダーリン行くわよ」
ラグドールとジェーンに手を引かれながら六木本ヒルズを後にした。
「また森の中を歩くのか?」
内陸部にあるのがエルフ国であり、ダークエルフ国は海沿いにある。隣国とはいえかなりの距離があるはずだ。
「この先にダークエルフ国につながっている動く歩道があるのよ。そこまでは少し歩くわ」
凄いよエルフテクノロジー。森の民ではなく未来人だよ。
しばらく歩いていると、やがて大きな矢印とともに「ダークエルフ国こっち」、と書かれている看板が見えてきた。あれが目的の動く歩道の入口のようだ。その入口からカッコイイ男がこちらに歩いてきている。
「ラグドールちゃん! ジェーン!」
「キッコロ? 久しぶりー」
「久々だな」
どうやらラグドールとジェーンの知り合いのようだ。というか、会ったばかりの男になぜか睨まれているんですけど・・・
「ラグドールちゃん。婚約したって聞いたけど、こいつがその婚約者だな」
「そうよ。婚約者の勇者ヨシオよ。ちなみにジェーンもヨシオの婚約者よ」
「ジェーンまで! ふざけるな! こんな女好きで冴えない奴より俺の方が数倍いいはずだ! いまでも遅くない、俺と一緒になってくれラグドール!」
まさかの三角関係! 残念エルフのラグドールを巡っての三角関係なんて納得できないが、エルフ国の協力を得るためには俺も引き下がるわけにはいかないのだ。
「無理よ。だってヨシオからは超高価なネックレスも頂いたし。ね、ダーリン。それに比べてキッコロって独立して金もうけしてやるって言いながら通信教育で勉強してばかり。その勉強も中途半端に終わっているでしょ。だから未だに貧乏なのよ!」
ラグドールは首にかけているネックレスを見せびらかした。キッコロは痛いところを指摘されダメージを受けているようだ。はっきり言ってラグドールは俺の財産に目がくらんでいるだけなのだが。
「俺と勝負しろ!」
いきなりキッコロが勝負を挑んできた。
「言っておくが、勇者の俺が本気を出すと命に危険が及ぶから戦いは避けてくれよ。仲間である大切なエルフの住民を誰一人傷つけたく無いんだ」
攻撃力ゼロの俺は、戦いでは絶対勝てない。できればすぐに逃げたいです。
「スゴスゴ話! スゴスゴ話で勝負しろ。誰もケガをしないぞ。まさか断らないよな」
「スゴスゴ話? よく分からないが、い、いいだろ・・・」
意味が分からないが自信満々で勝負に挑んできたので断れなかった。
「まずは俺からだ。いいか、俺は入社五年でバイトリーダーになり、その活躍が認められ今となっては正社員だ! 正社員はボーナスってやつがもらえるんだぞ。どうだ凄いだろ」
どうやら凄い話、自慢話の対決らしい。俺はおもむろにポケットから貯金通帳を取り出し貯金残高を無言で見せつけた。
「え、見たこともない桁数・・・負けた」
見かけによらず打たれ弱い。
俺の現金資産は数億。実は数十億あったけどそれら全てをダンジョン自治区のために使ったから現金としては減った。でもライセンス料などがどんどん振り込まれ油断するとまた勝手に増えているのだ。これでも定期的に寄付したり散在しているのだが、それが原因となりより一層増えている。
「キッコロ、分かったでしょ。私の資産の凄さを」
いや、お前の資産じゃないよラグドール!
「残念だったな。ヨシオは金もうけの才能しかないんだ」
俺がダメ男な感じじゃないか。もっと言い方があるだろジェーン!
うなだれるキッコロを残して、俺達はダークエルフ国行きの歩く歩道に乗った。
◇ ◇ ◇
「くそう、あんな男に負けるなんて・・・頭金、頭金になるお金さえあれば勝てるのに! 俺だってもう少し時間があれば、せめてあと二年」
キッコロは地面に拳を叩きつけながら悔しがった。キッコロとラグドールは幼馴染。キッコロはラグドールと結婚するのが当然と思いながら育ってきた。しかし、ぽっと出の冴えない男であるヨシオが金の力で奪い取っていったのだ。
実際、勉強熱心なキッコロなので、あと二年くらいすればベンチャーを立ち上げ若手イケメン社長となっている可能性があった。しかし、ヨシオがゲームシナリオの影響を避けるため二年早く行動を起こしたのが原因となり、十分力をつける前にラグドールが婚約してしまったのだ。
そんなキッコロに全身マントの怪しい仮面の人物が近づいてきた。
「お金がほしいのか?」
仮面の人物はそう言った。
「誰だお前は」
「俺の正体などどうでもいいだろ。オマエは悔しくないのか」
「悔しいに決まっているだろ! 笑いに来たのか!」
「俺はオマエの才能を知っている。協力してやってもいいぞ」
「なんだと! そんな美味い話があるわけないだろ」
「まあ、話くらいは聞いてくれよ。その上でオマエが判断すればいいさ」
「・・・」
◇ ◇ ◇
「エルフテクノロジー最高!」
俺はご機嫌だった。森の中の動く歩道の途中にはドライブスルー的な『もぐバーガー』や『センタッキーフライドチキン』などが要所要所に配置されていて食料に困らない。しかも安心の母国の味だ。美味い!
「やっぱオリジナルのチキンが旨いよね」
「私は焼き照りチキンバーガーがお気に入りよ」
「お月見バーガーも美味いぞ」
近所をお散歩するかのような感覚で国境超えをする俺達であった。