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21-2話

「ヨシオ、後をつけられているぞ」


 ジェーンがこっそりと俺に耳打ちした。


「宿を出てからずっと監視されているわ」


 ラグドールも小声でつぶやいた。


 俺達は宿を引き払って一路エルフ国に向かって街中を歩いている。この街に急用は無いのだが、どなたかは俺達に用があるようだ。しばらくすると、赤ちゃんを背負った女性が道を塞ぐように現れた。


「領主様、責任をとって下さい!」


「え!?」


 知らない女性が責任を取れと言ってきた。ジェーンとラグドールが俺を冷めた目で見ている。違うから、全く覚えがないから!


「すみませんが何の責任でしょうか?」


「とぼける気! これはあなたの赤ちゃんよ! 私と結婚するか養育費を払うかどちらか決めて下さい。およよよよ」


 非常にわざとらしい演技で女は泣きまねをした。さすがに、これは嘘だと見抜けるだろうと思ってジェーンを見ると、俺の方を見ながら剣を抜こうとしていた。ラグドールも同様に腕に金属製の武器を装着しようとしていた。


「養育費も払わず子供を放置しているとはひどい奴だな」


「ダーリンを見損なったわ。前からそんな人だとは思っていたけど」


 ジェーンとラグドールが戦闘態勢で俺に近づいてきた。道を塞いでいる女の口元がにやついた。


「ちょ、待て待て、本当に覚えがないから!」


 ジェーンとラグドールが飛び掛かってきた。


「「あの世に行きなさい!」」


 魔法少女の二人組っぽい息がぴったりのセリフだ。俺はジェーンに蹴られ、横に吹き飛びながらそんな事を考えていた。


 次の瞬間、俺が立っていた所に矢が飛んできた。ジェーンはそれを事も無げに剣で叩き落した。一方、ラグドールは子供を背負った女と赤ちゃんの両方を殴り飛ばしていた。いったい、何が起こったのか?


「すまなかったなヨシオ。手加減はしたつもりだが。あの女が背負っていたのは赤ちゃんではなく小さいおっさんだ」


「その小さいおっさんが吹き矢を放ってきたの。その時点で女とおっさんは敵と認定。排除させていただきましたー」


 さすがSランク冒険者のラグドール。同じレベルの動きをしたジェーンもたぶん高ランクの冒険者に違いない。カッコイイ! 


「前方に敵が集まりつつあるな。私が負けることは無いが」


「けどダーリンが死ぬのはマズいわ。まだ遺書を書いてないもの」


「ならば、さっさと森に行くぞ! つかまれヨシオ!」


 ジェーンの蹴りでダメージを受けていた俺は、ジェーンにお姫様だっこされた。ビキニアーマーのおっぱいが目の前に! そのまま、ジェーンは街中を走り始めた。ちょっと嬉しいけどカッコ悪いんですけどーー!!!


 ラグドールはジェーンの前を蝶のように舞いながら、飛び出してくる敵を華麗にせん滅している。拳で! しばらくすると敵は居なくなった。しかしジェーンは俺をお姫様抱っこしたまま一時間ほど走り続け森の中に入ったところで俺を下した。ラグドールは木の上に登って周囲を警戒している。


「追っ手は居ないみたい」


「そうか、ひと安心だな」


 恥ずかしかったけど至福の時だった。ありがとうジェーン! 感謝感謝。じゃなくて!


「奴らは誰だろう。俺達がなぜ狙われているのか」


「小さいおっさんが放った矢に殺傷能力は無いだろう。いくらなんでも顔を見られての昼の街中での殺人は捕まるからな。たぶん麻酔だ」


「私が倒した敵も、強力な武器は持っていなかった。つまり誰かがダーリンを生きたまま捕まえようとしたのでしょう」


「あるいは足止めだ。森に行かせたくなかったか可能性もある」


 生きたまま俺を捕らえるなら財産目当てだろう。結婚にしろ子供の認知にしろ脅して契約させる目的かもしれない。一方、足止めとするならば、エルフ国とダークエルフ国が俺の味方になるのを防ぎたい勢力がいることになる。


「考えても仕方がない。そのうち分かるだろう。まずは目的を達成するためエルフ国に行こう」


「それでいいだろう」


「じゃあ、私が案内するからついてきてね」


 ラグドールを先頭に俺、ジェーンという順番で森の中の道なき道を歩くことになった。ラグドールは何の迷いもなく歩いている。さすがエルフだ。人間には分からない何かの能力があるのだろう。


 そんな感じでしばらく歩き続けたが一向にたどり着かない。景色も木ばかりで代り映えがしない。


「ねえねえ、ラグドール。まだ着かないのか?」


 疲れた上に飽きてきた。


「おっかしーなー、このあたりに入口があるはずなんだけどなー まだ三十年くらいしか経ってないのになー」


 きっと三年ぶりの里帰りくらいの感覚なのだろう。ラグドールは付近をきょろきょろと見まわしている。


「ラグドール、何かが近づいてきているぞ! これは・・・トレントか!?」


 しばらくすると顔と足のある木がのろのろと近づいてきた。これがトレントらしい。


「だぁー、トレントに見つかったか。面倒だな。こいつら倒すと仲間を呼び寄せるんだよー。燃やすと森が火事になるし、殴ってもなかなか死なないし。しかたない、別の入口から入ろう。急いでこっちの方向に!」


 俺が走ろうとすると、再びジェーンが俺を抱えた。そして再び目の前にビキニアーマーがこんにちは! ありがとうトレント! 俺はトレントに心の中で感謝しながらゆれるおっぱいを満喫しながらジェーンに運ばれていった。ラグドールは木の上で枝から枝に器用に飛び移りながらかなりの速度で進んでいる。忍者かよ!


 しばらくするとラグドールが地上に降りてきた。


「ここだと思うけど・・・あれ? こんな所に宝箱があるわ」


 森の中にポツンと豪華な宝箱が置いてあった。金銀宝石で飾られている。怪しい、限りなく怪しい。


「きっとミミックだよね」


 ミミックがダンジョンにしか居ないと思うのは大間違いだ。ミミックのミミちゃんだって人間と一緒に暮らしているくらいだから。


「そうだな。しかし本物の宝箱の可能性もあるぞ。本物だったら箱だけでもかなりの値打ちがある。確認せずに壊すのはもったいないぞ」


「いやいや、そうは言っても明らかに罠でしょ! 不自然だし」


 むしろ罠じゃない可能性が一パーセントでもあるのだろうか。


「じゃあダーリンが確認してみて」


「なぜ俺? ミミックだったら確実に食われる自信があるよ!」


「だってほら、私は殴って破壊することは得意だけど、細かいことはちょっと苦手だしー」


「ああ、私も剣でたたき壊すのは得意だが、壊さずに開けるとかイライラして無理だな」


 エルフってもっと繊細なイメージだったけど、この世界のエルフは剛腕な戦闘狂ばかりなのだろうか。


「しかたない。俺が確認してみるよ。無理だったらすぐ逃げるから後はヨロシク」


 俺は宝箱に近づいた。今のところ何の動きもない。近くにあった木の枝を手に持ってつついてみた。しかし、何も起こらない。絶対ミミックだと思うけど、違うの? いや、油断は禁物。


 木の枝で蓋を開けようとしたが鍵がかかっている。よく見ると箱の正面に小さな三つのダイヤルがあり、それぞれにゼロから九までの番号が書いてある。つまり三桁の番号を合わせると箱が開く仕組みのようだ。いや、きっとそういう罠だな。その証拠に、宝箱の上に三桁の番号が書かれた紙が貼ってある。ダイヤルが揃って蓋を開けた瞬間にミミックに変身して襲い掛かる設定か。ならば番号を合わせるまでなら安全だろう。


 俺は宝箱に近づいてダイヤルを触った。オッケー何も起きない。次にダイヤルを適当に回した。やはり何も起きない。よし、ならば紙に書いてある番号に合わせてやる。合わせてすぐ蓋を開け、横に飛びのけばジェーンが抱えて逃げてくれるだろう。そしてラグドールがミミックを破壊する。完璧な計画だ!


 俺は番号を合わせた。そして、ラグドールとジェーンに目配せした後、蓋を一気に開け横に飛びのいた。


「ええー!」


「まじか!」


 二人が驚いている。何も起こっていない。ミミックは? 少し離れて箱を見てみる。そこには金貨がいっぱいに詰まった宝箱しかない。近づいて中を見るけど本物の金貨にしか見えない。ミミックじゃなかったのか?


 金貨を手に取ろうとすると、中から急に顔が出てきた!


「うわー! やっぱり罠か!」


「よくぞ本物の宝箱だと見破ったな! その勇気をもってヨシオを婿と認めよう。この金貨と宝箱は結婚祝いとして進呈する」


 変な人が宝箱の中から顔だけ出してそう言った。


「・・・」


「・・・」


「・・・・・・・お父さん?」


 ジェーンと俺は、久しぶりの親子の対面を茫然と見つめていた。

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