20-5話
イケメンとマンチカン、それに事務員らしき人達が書類の山と格闘している。
「どういうことだ?」
右往左往している人達を見ながらイケメンに声をかけた。
「ヤバいよ! ヨシオ君! 住居が全然足りない! 十万組以上の移民の応募が、たった三日間で! ヨシオ君、どんどん家を作って売ってくれ!」
予想以上にミニチュア・ダックスフントの人気があったようだ。さらに、田舎でゆっくりと暮らしたい人達も多くいたようだ。
「ヨシオ様のビジネスの才覚はさすがです! 木造プレハブ住宅をどんどん兄に売りつけよう! ヨシオ様がさらに儲かりますー! そして私もさらに贅沢できますー」
笑顔のマンチカンがハイタッチしてきた! もうお金好きなところ隠さないのねマンチカン! この際、財産目的の婚約でも何でもいいです。喜んでもらえて何よりです。
「ミニチュア・ダックスフントに癒されながら自然の中を散歩する。ストレスは無くなり心も体も健康になる。確かに寿命も延びてしまうだろうな。世の中が求めているのは”幸せ”なんだね。悔しいけど、君の言った通りだった」
イケメンが降参したとばかり手を挙げた。いや、ここまで人気があるとは俺も思ってなくて実はびっくりしている。どれだけ田舎と犬好きなんだよみんな! 第一段階として、ルイジアナ国に興味を持つ人が増えればと思っていただけなのに。
「まあ、予想通りだな。ビジネス勇者の俺にとっては想定の範囲内だ」
でも極力、当然の結果とばかりの表情で告げた。
「約束を果たした君を認めない訳にはいかないね」
そう言いながらイケメンは妹の顔を見た。
「じゃあ、兄さん、婚約を認めてくれるのね」
マンチカンが目を輝やかせながら言った。
「もちろんだ。これからもよろしく、ヨシオ君」
俺はイケメンとがっちりと握手した。
「大好きー! お金・・・お金持ちのダーリン!」
マンチカンがお金お金と言いながら頬を紅潮させ抱きついてきた。清々しいよマンチカン。そしてイケメンの顔は引きつっている。
その時、俺の左手の手のひらが不意に熱くなった! 同時に、メガネの内側に文字が表示された。
【スキル】[コンビニ]発動。
(久々にキターーーーー!)
俺は心の中で密かに叫んだ。AiエクスカリバーEXを装着して以来、コンビニが発動しなかったので、機能が失われたのかと思っていた。しかし、ここで発動である。
左手を恐る恐る見た。手のひらにバーコードが浮き出ていた。ポケットの中からバーコードリーダーを取り出し、袖で隠しながらバーコードにかざしてスイッチを押した。
バーコードが正常に認識され手のひらのバーコードは消えた。そしてエメラルド色の小さな革袋が転送されてきた。中に入っていたのは、
『婚約者のための宝石付き高級ネックレス テハニー&GO!(プロテクション付き)』
高級ネックレスが転送されてキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!! プロテクション付きって、もしかして壊れても自動で治るやつ? 未来のジュエリーかも!
俺はネックレスを革袋に入れたまま握りしめ、マンチカンに差し出した。
「何?」
ゆっくりと左手を開いた。
「どうぞ、婚約者の証だ。中を見てごらん」
マンチカンは微笑みながら革袋を受け取り、中からネックレスを取り出した。
「ありがとう、きれいな宝石ね。これ、イエローダイヤモンドじゃないよね? こんな大きいのあるわけないし」
イケメンが横から宝石をしげしげと眺めた。
「いや、この輝きは本物のイエローダイヤモンドだ。僕も小さいのを持っているからわかる。けど、こんな大きなのを見たのは初めてだ」
それを聞いてマンチカンがぷるぷると震えだした。
「ええええーー、これ相当高かった? ちょっと震えてきたよー それに、よくよく見るとチェーンや宝石周りの意匠も凄く凝っているし・・・まさか」
マンチカンはチェーンに一部に刻んであるロゴを見つけた。
「テハニー&GO!・・・本物?」
マンチカンもイケメンも絶句している。そんな良いものなのだろうか。俺の故郷では若い女子に人気だったけど。
「古代遺跡の中からこれまで数十点しか発見されていない上、競売にかけられると天文学的金額で取引されるという国宝級のアクセサリーのテハニー&GO! 製作者不明、だけど謎の機能が隠されていて、持ち主を守り幸運をもたらすと言われている伝説のジュエリーよ! ていうか本当に、本当にくれるの! もう絶対返さないけど!」
何があっても返してくれないほど気に入っているようだ。
「本物だ。俺の婚約者となったマンチカンには相応しいジュエリーだ。肌身離さず身に着けておいてほしい。婚約破棄の場合は返して・・・」
「返さないから! 婚約破棄もしてあげないからーー!」
そう言いながらマンチカンは素早くネックレスを首にかけ、走って部屋を出て行った。ネックレスを絶対に返さないという強い意志は分かりましたから! 逃げなくていいから! 取り返さないから!
その後、イケメンとは木造プレハブ住宅のさらなる提供について話し合った。可能な範囲で提供し続けることになったが、十万人が住むには程遠い。ていうか、小さな国なのでそこまで受け入れる必要はないだろう。移住希望は多いが簡単に移住できないことで逆にプレミア感が出る。ハードルを上げれば移住者の質も上がることだろう。
健康長寿を念頭に、トレーニング施設、劇場などの文化施設をこれから整備すれば、金持ちのリタイア組が移住しさらに人気が出るだろう。そこら辺はイケメンに任せることになった。
それにしても気になるのはあのネックレスだ。本当に持ち主を守り幸運をもたらすのか。王城の資料の中に何かヒントがあるかもしれない。イケメンに魔動馬車を借り、俺は一人ハートフル・ピース王国へと向かった。
◇ ◇ ◇
「ヨシオ、待っていたわ! そこに座って」
ハートフル・ピース王国の王城に着くなり、シャム姫に呼び出された。侍女に連れられシャム姫の部屋の応接間で打ち合わせすることになったのだ。ソファーに座らされるとすぐに紅茶が用意された。
「そういえば、シャム姫様の部屋に来たのは初めてだな」
さすが、おしゃれ芸能人と言われているだけあって、何から何までおしゃれな感じで統一されている。俺の部屋が中小企業の事務室って感じなら、ここは超一流企業のオフィスって感じだ。
「話は聞いているわ。マンチカンとは正式婚約、スイーツ教女神アマイ様と聖女メンクイーンの方も上手く進めているようね」
この世界には近い将来困難な出来事が起きる。それはたぶん魔王にそそのかされたモテない男達の反乱と言うべきものだろう。それを阻止するためには当人のみならず関係者やファンに望まれながら婚約者を増やすことで、味方を増やす必要がある。
「その通りです。もう知っているのですね」
シャム姫は小さく微笑んだ。たぶん俺の知らない間にも、赤い少女隊Rのような隠密護衛が情報収集しながら守ってくれているのだろう。しかしすぐに真面目な顔になった。
「気になっているのはネックレスよ。あれはヨシオが店舗で購入したものでは無いですね。ヨシオがいくら金持ちになったと言えど、国宝級を買えるほど財産があるとは思えませんし、そもそも売りに出ていないはず」
シャム姫が冷たい視線でこちらを睨んでいる。もしかして、シャム姫よりも先にマンチカンと正式婚約したことを怒っているのかな。それとも婚約者のネックレスがもらえなくて怒っているのかな。正式婚約すればプレゼントくらいあげるのに、案外可愛いな。
「シャム姫様さえ望むのならばすぐにでも婚約しプレゼントする次第です。一番じゃなくて申し訳無いのですが。マンチカンとも色々ありまして」
「プレゼントが欲しくて言っている訳じゃないから! 婚約者が生き残るためのアイテムかどうかを確かめたいだけだから!」