20-4話
魔動馬車に揺られながら昨晩のことを思い出していた。
「メンクイーンも俺の婚約者となったわけだ。これからよろしく聖女様」
「形だけの婚約に何の意味があるのですか?」
俺の挨拶に、メンクイーンは不満げに答えた。
「でも、イケメンに勝ったし。俺との婚約は女神様との約束だよね。伝説によると婚約者は戦争が起きても生き残るらしいからメリットがあると思うけど。聖女様が殺されるのを見たくはないなー」
「くっ、殺せ!」
いきなりくっころである。メンクイーンはプイっとそっぽを向いて、部屋を出て行った。どうやらまだイケメンに未練があるようだ。時間をかけて説得しよう。今後起きる困難を乗り越えるためには必要な人材だが、今はマンチカンの方が先だ。
イケメンとマンチカンの祖国である旧ルイジアナ王国を復活させるべく、翌日は兄妹と一緒に現地に行って現状確認することになった。
◇ ◇ ◇
「到着したぞ。起きろヨシオ君」
いつの間にか魔動馬車の中で寝ていたようだ。
「ここがルイジアナ王国のあった場所か」
「そうだ」
草むらの中にポツンと石造りの城があった。古めかしい小さな城だが手入れがされているようで寂れた印象は無い。
「じいや、ばーや、お久しぶりー!」
一足先に馬車を降りたマンチカンは出迎えの老夫婦に抱きついた。この老夫婦が城に住み込みで管理人をしているようだ。たぶんルイジアナ王国の血筋の人達だろう。
「これこれ、淑女はいきなり抱き付いたりしてはいけませんよ」
「姫様は、相変わらずお元気そうですな」
「えへへー」
マンチカンはご機嫌そうだ。
「久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
「お久しぶりでございます。イケメン王子の活躍はいつも新聞で拝見しておりますぞ」
プロ野球選手だからな。
「そちらは?」
「部下のヨシオ君だ。ヨシオ君は経済が専門なんだ。国の復興の協力をしてもらうことになる」
だれが部下だ! イケメンがそっと俺に耳打ちした。
(僕は君のビジネスとしての能力は知っている。しかし、国の政策とビジネスは異なるものだから、うまくいくかどうかはわからない。それに、良い政策であっても成果が出るには時間がかかる。この場所で君の政策を実験的に実施し効果を確かめさせてもらう。一カ月だ。完璧でなくとも効果がありそうならマンチカンとの婚約を認めよう)
「部下のヨシオでーす! 気軽にヨシオと呼んで下さい。誠心誠意頑張りますのでよろしくお願いいたしまーす」
「「は、はぁ?」」
じいやとばあやが戸惑っている。
時間も無い事だし早速、周辺を見学をすることにした。地理的には元ルイジアナ国だった場所はハートフル・ピース王国の東端、上はキタノオンセン帝国、下はダンジョン自治区だ。
しかし目の前には草原が広がっている。自然しかない。国中、すべてこんな感じらしい。
石造りの建物が草原の所々にあるが、この周辺はほとんど人が住んでいない。西側、つまりハートフル・ピース王国の首都に近い所に大多数の人は住んでいる。そこでは都会へ出荷するための野菜を農民が育てている。
「昨日も言ったが、新生ルイジアナ国では国民の幸せを追求する。ルイジアナ国に住む人は寿命が延びてしまう、そして幸せに生きてしまう、そんな仕組みを国の柱にするのだ」
「理念は良いけど産業はどうする? 産業が無いと税収が無い」
「そうだよー、どうやってお金をかせぐの」
火山に囲まれ高級温泉宿が立ち並ぶキタノオンセン帝国、国の全てがリゾート地のニシノリゾート共和国、そして食と文化の中心であるハートフル・ピース王国。周辺それぞれの国が特徴的な産業を持っている。
今後はこれらの国から新生ルイジアナ国へ移住者を募る必要がある。普通に考えると簡単ではない。イケメンの考えは真っ当だ。
「産業の事は考えなくていい。まずは住民を増やす。これからは労働よりも、自分の人生や自分の時間を大切にする人達が増えてくる。まずは、そいつらをターゲットにする」
「良く分からないですー」
「ああ、全く分からない。何をやればよいのか教えてほしいね」
「ズバリ、第一の政策は犬だ」
「「犬?」」
まずは唯一の資産であるミニチュア・ダックスフントに活躍してもらう。新生ルイジアナ国の住民はミニチュア・ダックスフントのレンタルが可能となる。そしてミニチュア・ダックスフントの国外への持ち出し、輸出は原則禁止とする。ミニチュア・ダックスフントが生んだ子犬は国の管理下に置く。
「「・・・?」」
「第二の政策は住居」
住民のための住居や土地が必要だ。空き家を貸し出し、好きに改造してもらう。空き家の無い場所は小さな木造プレハブ型の家を建てまくり貸家とする。景色の良い場所や一等地などは広い区画にして売りに出す。重要なのは、都会に近い西側から始めることと、家と家との間隔をかなり広くとることだ。
「空き家は分かるけど、なぜ小さな・・・」
「木造プレハブ?」
「木造プレハブは効率よく作れるし軽い」
木造プレハブ住宅に必要な材料は工場で加工され一軒ごとストックされる。注文数に応じ現地に運び、現地の作業員が簡単に組み立てられるようになっている。
「わかったー! 犬好き、特にミニチュア・ダックスフントを飼いたい人を住民として募るのね。小さい家は庶民用、広い区画は貴族用!」
「その通りだ」
「たったそれだけか? 効果があるとは思えないが」
「まずはやってみることだな」
小さくてもいいから、まずは自分達が住みたいと思える街を作ることが大切だ。自然の中で暮らすことは都会人から見ると贅沢なはずだ。西側なら都会に近いから引っ越しのハードルも低い。住民さえ増えれば住民税が手に入る。産業はそのうち発達するだろう。
「それから木造プレハブ住宅は俺が領主をしているダンジョン自治区の工場で作って送るから心配するな。まずは百軒だな。料金は後払いでいい」
「いいのか? 移民が少なければ作った家が無駄になり、ヨシオ君が損することになるよ」
「かまわない。その代わり、設置した住宅の家賃はきちんと回収してくれ」
「もちろんだ。買い取った家の費用はそこから捻出させてもらうよ」
ダンジョン自治区では俺の改革が軌道に乗り、冒険者が労働者になることで定住を始め、さらに移民も増えた。このままでは住居が足りなくなることが予想された。先手を打って、家を効率的に作れる木造プレハブ住宅の工場を作り、すでに数十軒分ストックしてあるのだ。
貸し出し可能な空き家リストはすでにあるとのことで、木造プレハブ住宅建設予定地をリストアップし解散となった。ここからダンジョン自治区は目と鼻の先だ。木造プレハブ工場での製造計画変更、建築作業員を確保などが必要になる。
◇ ◇ ◇
一週間後。
木造プレハブ住宅工場を二十四時間フル回転させ、家の構造をより簡素にすることで当初のストックと合わせて百軒分準備できた。その報告と、現在の移民応募状況を確認するため、再びルイジアナ国の城に来た。
城に着くなり焦った様子の管理人に連れられてイケメンの執務室に案内された。
「ヤバいよ!」
「ヤバいですー!」