20-3話
「お前と妹との婚約を認めたわけではない!」
聖女メンクイーンと俺とマンチカン、そしてマンチカンの兄イケメンは教会の会議室で先程の戦いの結果を確認している。
俺とイケメンとの戦いは、見事俺の勝利に終わった。卑怯なとかずるいとかそれでも正義の味方かとか、さんざん聖女に嫌味を言われたが勝利は勝利だ。これで勇者はイケメンではなく俺であるとスイーツ教が認めたことになる。
だからといって、イケメンがマンチカンと俺との婚約を認めたわけではない。今のところ当事者同士の口約束にすぎない状態だ。ていうか、マンチカンから俺が脅迫されて婚約したんですけどー しかし、マンチカンの兄の意向は無視はできない。一応、今は無きルイジアナ王国の王家の生き残りだし、今後のストーリー展開を考えても仲間に取り込んでおきたいところだ。
「お兄ちゃん、私が一族の為を思って決めたことなのに納得できないのね!?」
マンチカンが不満げに兄のイケメンに文句を言った。
「そういう訳ではないんだ。マンチカンの気持ちはわかっているつもりだ。ヨシオにルイジアナ王国復興の協力してもらおうと考えているんだろ」
「・・・・」
マンチカンはうつむいたままだ。兄の予想は正しいようだ。
「だからと言って、好きでもなく卑怯で顔が平凡で勝利の為には手段を選ばない極悪な相手と婚約する必要はない」
事実だけど、言いすぎだろ!
「こんな奴の力を借りなくても仲間と協力して徐々に独立する力を蓄えればいいんだ。ヒツジキング三世王から許可ももらっているんだから」
ルイジアナ王国のあった場所は、現在ではハートフル・ピース王国の一地方となっている。以前よりハートフル・ピース王国はルイジアナ王国が独立国いられるようサポートしていた。
ルイジアナ王国は農業国だったが、やがて超高齢化社会になり王国を維持できなくなったのだ。それでもハートフル・ピース王国から援助金をもらって、王国はしばらくの間存続していた。しかし国民は職と富を求め国外に流出し続け、ルイジアナ王国は自然消滅した。
「・・・いつよ・・・それは何時なのよ! 私が幼いころ、お姫様に憧れて絵本の挿絵を眺めていた時、いつもお兄様は言っていたわ。『もうすぐ本物のお姫様になれる』って。だけど、あれから何年も経っているのに何も変わらない」
イケメンは唇をかみしめながら妹の言葉を聞いていた。
「すまないマンチカン。キタノオンセン帝国に協力をお願いしたり、かつて世界を支配していたグレートユルフワ帝国の子孫達と共闘したりもしたが、上手くいかなかったんだ」
イケメンが以前傭兵をしていたのはそういう訳か。きっとユルフワに騙されたんだろうな。
「お兄様がいつも頑張っていたのは知っているわ。王国が復興したときに国民がいないと困るからってファンクラブメンバーを募ったことも」
イケメンのファンクラブってそういう設定だったの? それにしては女子ばっかりだったけど。
「そうなんだ。国づくりには国民が必要なんだ。だからその時に備え着々と準備をしていたんだ。子供を産むのは女子だからね。女子さえいれば、あとは僕の頑張りでいくらでも国民は増やせる!」
うん、君が言うと説得力があるよ。頑張ってとしか言えない。
「それに、犬を飼い始めたのも産業を興すためでしょ? これからは農業だけではなく、もっと魅力的な職場を国民に提供する必要があるって」
「気づいていたのか。実は僕が飼っているミニチュア・ダックスフントのシルバーはペットとして世界中で人気だけど、増やすのがとても難しい種類なんだ」
ばらしてるよ! シルバー君が魔獣シルバーウルフだった設定はもういらないのか!
「なぜならミニチュア・ダックスフント子犬は病気に弱くすぐに死んでしまうから。だけど、シルバーが生ませた子犬はなぜかとても元気なんだ。特殊な体質なんだと思う。だからシルバーの子犬を増やしてペットとして世界中に輸出しようと考えている。今もシルバーは種犬として活躍中で、妻犬が十匹以上いるんだ。妻犬が生んだ子犬も数えきれないほどいる。皆元気なんだ!」
イケメンもシルバーも同じ立ち位置だったよ、いや、むしろシルバーの方が先輩だよ! 今のところ、犬たちの世話はファンクラブのメンバーが行っているらしい。そのうちイケメンの子供が生まれても同じようにファンクラブのメンバーが育てるのだろう。
「だけど全然ダメ。この調子じゃ、私がおばあちゃんになってもルイジアナ王国は復興できないよ。増えるのは犬と犬を養育するお金ばかり」
「そうなんだ。エサ代が馬鹿にならなくて困っているんだ」
「それに、子犬を輸出したらその先で子犬が成犬となって子供を産むから、やがて産業として成り立たなくなるわ」
「がーん!」
イケメンが打ちひしがれている。
「だから、私はヨシオ様に、ビジネス勇者としてのヨシオ様に頼るしかないと思ったの。ゴメンなさい。ヨシオ様の事は嫌いじゃないけど好きでもないの。でもビジネスの才覚とお金持ちなところは大好きなの! お願い! 私を幸せにして、そして、ついでに兄や仲間達の夢をかなえて!」
自分の幸せが一番で国の復興はついでだよ! 小学生なのに計算高いよマンチカン! そして潔く清々しすぎるよ!
「マンチカンを幸せにするのは簡単ではないかもしれない。でも、国の復興はできると思う」
「「本当!?」」
マンチカンとイケメンが驚いた眼で俺を見た。さんざん馬鹿にしたり騙したりした俺が協力するとは思わなかったのか、それとも俺の能力でも国を復興するのは無理だと思っていたのか。
「たぶん可能だ。ルイジアナ王国の子孫達が国を運営する能力があることが前提条件だが、国さえ起こしてしまえば、そこで生活する人々を集めるのは難しくない」
俺は自信満々でそう言った。
「それは問題無い。元ルイジアナ王国の子孫である仲間達は、各国に散らばって政治に携わっている。もちろん、国が復興したときのための準備を兼ねて勉強しながら働いている。国の復興の為なら皆は喜んで現職を捨て集まることだろう」
さすが腐っても王家につながる子孫達か。人材はそれなりにいるようだ。
「しかし、どうやってルイジアナ王国に移住する人たちを集めるんだ? いや、王国ではないな。新生ルイジアナ国だ!」
「ルイジアナ国か。無難な名前だね。でも、実際のところ移住は簡単ではないと思うけど。私だって文化の都がたくさんあるハートフル・ピース王国からは出たくはないし。それに私は政治に興味がないし、国の復興は兄の夢だから、やっぱり私はハートフル・ピース王国の王城住まいでいいや」
マンチカンがこちらをチラチラと見ている。どさくさにまぎれて俺の力で王城に住まわせろということなのか。どこまでも欲望に忠実な小学生である。後宮を作る、いや、それはすでに遺跡小説に失敗例が書いてある。無限に婚約者が増えるパターンだ。うーん、王城近くにこっそりマンションでも建てようかな。
それよりも新生ルイジアナ国だ。他国と同じことをしては魅力が無いので移住者は集まらない。税金を安くするのもダメだ。国の整備にはお金がかかるのだ。さらに新しい国にはこれまでにない、それでいてあたりまえの素敵な価値観が必要だ。ここは異世界から転移してきた俺の知識をフル活用だ。
「新生ルイジアナ国では国民の幸せを追求する。具体的にはルイジアナ国に住む人は寿命が延びてしまう、そして幸せに生きてしまう、そんな仕組みを作る!」
今まで無視を決め込んでいた聖女メンクイーンが胡散臭そうな目で俺を見た。いや、新興宗教的なものじゃないから、スイーツ教のライバルじゃないからね!




