20-1話
俺の目の前には聖女メンクイーンが立ちはだかっている。どうやら女神のあまいちゃんと俺が婚約することが気に入らないようだ。
「やはり下心があったようね。女神アマイ様に免じてこれまで失礼な行動は見逃していたけど、ビジネス勇者ごときが女神様と婚約など許せるはずもない! 優しい女神様は許しても聖女メンクイーンが許さない」
メンクイーンはそう言ってスカートの裏側から短剣を取り出し、俺に向けて構えた。
「メンクイーン落ち着きなさいよ。この婚約は私も同意したことなのだよ。伝承を受け継ぎ未来の壁画を見たあなたなら分かっているよね。世界を救うには私が勇者と婚約し、世界中にスイーツ教を広め、信者達が団結して困難に立ち向かうことが必要なのだよ」
あまいちゃんは優しく諭すようにメンクイーンを説得した。
「女神様、確かに未来の壁画では女神様と勇者とが婚約し仲間となっていました。しかしながら、ここにいるヨシオが本物の勇者とは思えません」
メンクイーンは世界を救うため女神と勇者と婚約することは納得しているようだが、俺自身を気に入らないようだ。
「何が問題なのかな。ダンジョン自治区や王城での話を聞く限り、ヨシオは困った人を助けたり、ケガ人や病人を治療したり、街を健全な状態にしたり、魔獣に襲われたこの村も救ったりと便利で役に立っているよ。確かに顔は平凡でリーダーシップは無いけど。何より伝承通り私を千年の眠りから目覚めさせたのだよ」
ナガグツ風邪が流行った時には薬と薬の製造方法を提供した、ここオモイザワ村が巨大ゴキに襲われた時はシルバーウルフのポチおよびその仲間達に協力してもらい撃退した。ダンジョン自治区では治安を回復し、私費を投入して道路づくり、植樹、サソリ養殖、コンビニ設置など安全な職を提供した。ほかにも色々と頑張ったのだ。女神の目覚めは日本語クイズで簡単だったけど、よく考えたら俺すごくね? あと、顔の事は言うな。
「私が調査したところ、確かに人助けをしているように見えますが、それは結果そうなっただけであり、ヨシオは金もうけをしているだけなのです。また、ここが巨大ゴキ襲われた時も、たまたま近くに居たシルバーウルフの群れが餌を求めて追いかけてきたので撃退されたように見えただけです。ヨシオが撃退したわけではありません。偶然、居合わせただけなのです。勇者という肩書が話を勝手に結び付け善行をしたと人々に思い込ませているだけなのです。女神様を目覚めさせた方法も怪しいものです。偶然ボタンを押しただけかもしれません。それに!」
「それに?」
「先日、料理長テツニン・タベタリーナ様の護衛で温泉旅館に行き、そこで偶然ヨシオと会いました。私は伝承に従い女神様と結ばれるべきと伝えたのですが、ヨシオはシャム姫様やガリペラ嬢にも気があるらしくにやけているだけでした。こんなのが勇者なはずありません!」
うぐぐ! 痛いところを突かれた。しかし、それ男風呂の中での話だから。風呂に浸かっていたとはいえ三人の裸の美人女性を前に正常な判断をしろとか、にやつくなとか無理だから!
「でも、ヨシオの他に勇者としての適性を持つ人がいるのかな」
「もちろん居ます。むしろ、その人こそが本当の勇者であると私は信じています」
とてもいやな予感がするよ。俺が勇者になるって言っているのに他に適任が居るなんて展開は遺跡の小説の中にも無かったように思うけど大丈夫かな。
「メンクイーンはその人こそが勇者だと信じているのね。じゃあ、その人とヨシオが戦って勝った方が勇者ということでどうかな」
まじですか!? 俺の戦闘力がゼロってこと忘れてないよね。強制力に勝つため二人でストーリーをコントロールするって話、忘れてないよね。でも女神にとっては勝った方が勇者ということで全く問題が無いような気もする。ヤバいよ!
「それでいいです。女神様もきっと誰が本当の勇者か気づいて下さると思います」
「わかったよ。聖女の心配は最もなことだよね。大事なことを陰でこっそりと決めるのは良くないよね。信者達の前で正々堂々と決めた方が皆も納得する。じゃあ、ヨシオと戦い勝った方を勇者とし、私および聖女と婚約するということでいいよね」
「ええ!? 私も婚約ですか」
聖女メンクイーンがびっくりした声でそう言った。
「本当の勇者との婚約が不満なのかな。それとも、あなたの推す勇者はヨシオよりも弱いのかな」
「全く問題ありません! その条件でお願いします」
あまいちゃんの挑発にのった聖女はその条件を受け入れた。女神が俺と、そして聖女がもう一人の勇者候補と婚約した場合、スイーツ教が分裂する可能性がある。それを避けるためには二人とも同じ勇者と婚約する必要があるという訳か。さすがだ。シャム姫の口ぶりでは聖女メンクイーンも婚約者候補の一人みたいだから一石二鳥だな。俺が勝てばの話だけど。
「じゃあ、いつ対決する?」
「こんなこともあろうと、勇者候補を復活祭に呼んでいます。ホールですぐに対決しましょう」
つまり初めから俺の代わりに推す予定だったようだな。しかし、困った。どうやって戦おうか。武術も剣術もチートも何もない。AiエクスカリバーEXは、剣自体がナノマシンの集合体だから、物を切ろうとすると剣の方がバラバラになる。すぐに元通りになるけど攻撃力は全く無く治療以外には使えそうにない。せめてケガをしないよう武器は無しにしてもらおう。
「剣などの武器は無しにしようよ。怪我したら痛いし」
「勇者の癖に弱気なのね。いいわよ。初めからそのつもりだし。教会内で殺し合いをするなんて下品だもの。それから、ヨシオが弱いのは知っているわ。一方的な展開は可哀そうだし、あなたは魔獣使いだから、仲間となる生き物を一匹だけなら連れてくることは良いというルールにしましょう。せいぜい強い生き物を連れてくることね。ちなみに犬笛は村の外までは届かないわよ。魔獣騒ぎ以来、犬笛を改良した魔獣除け魔道具を開発し村の周囲に設置したから」
さっきはシルバーウルフが村を救ったのは偶然と言っておきながら、実は俺が呼んだと知っているようだ。しかも、こっそりと犬笛の原理を利用した魔道具まで制作しているし。この勝負に勝ったらセバスチャンに頼んで家事手伝いの基本を聖女に叩き込んでやる!
◇ ◇ ◇
先程までコンサート会場だった教会のホールには再び信者達が集結していた。
「ここに真の勇者を決める戦いを開催します。この戦いの勝者が本当の勇者です。勇者は伝承に従い女神アマイ様と婚約し、さらに私、聖女メンクイーンとも婚約するものとします」
女神のあまいちゃんが立ち上がり恥ずかしそうに頷いた。
「「「「うおー!」」」」
会場は先程のコンサートにも増して興奮のるつぼだ。何せ勇者となった者は美女二名を一気に手に入れることができるのだ。しかし、さすがスイーツ教の信者、妬ましさは全く感じない。全員が喜びにあふれている。
「それでは勇者候補を紹介します。まずはビジネス勇者でおなじみ、金の亡者ツツゴウ・ヨシオ!」
野太いおっさん達の歓声が沸き上がった。
「亡者!」
「がんばれ亡者!」
「お金は天国にも地獄にも持っていけないよ!」
「死ぬなよ亡者!」
ひどい紹介だ! 聖女の一方的な見解すぎる。しかも死ぬなよ亡者!って何? 亡者って死んだ人の事じゃないのか!
「続いて次の勇者候補を紹介します。真の勇者であり旧ルイジアナ王国の王子様、ルイジアナ・イケメン・ブリーダー様!」
イケメンがミニチュア・ダックスフントを連れて颯爽と登場した。会場に黄色い声援が沸き起こった。
「キャー!」
「イケメン様!」
「王子様!」
「防御率一位!」
はっきり言って、こいつが来ることは予想していましたよ。だって、聖女はイケメン親衛隊だし、あたかも俺のためって感じで一匹仲間を連れてきていいとか言っていたし。明らかにイケメンの為のルールだろ。まあ、野球では活躍しているようで何よりだ。
だけど聖女め、この扱いの差は何だ! すでにイケメンが真の勇者とか紹介しているし! 婚約した暁には家事手伝いだけでなく妻の心得も叩き込んでやる。もちろん、スワン王にお願いして。




