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4-4話

 魔獣使いイケメン・ブリーダーの魔獣(推定ミニチュア・ダックスフント)が俺の前でお座りしてめっちゃ尻尾振ってるよ!かわいい!


 そして、その目が俺に訴えている!『フリスビー投げて、もっと投げて!』と。飼い主の威厳はどこに行ったのか。魔獣使いは唖然としてこちらを見ている。


「よし!お利口さんだな。今度はこっちだ!」


 俺は先程とは逆方向にフリスビーを思いっきり投げた。犬はしっぽを振りながら、再びその後を弾丸のように追いかけて行った。うむ、楽しそうだ。


「「「「「ま、まってーーー!」」」」」


 女性兵士達が俺と魔獣使いの間を通り、再び犬を追いかけて行く。


 フリスビー投げる、犬が追いかける、女性兵士達が追いかける、犬が戻って来てもっと投げろと催促する、フリスビー投げる・・・楽しい!楽しいよフリスビー!


 一方で、女性兵士達は根性で犬を追いかけようとするが、所詮人間、走りで犬には勝てない。十回くらい繰り返したところで息も絶え絶えとなり、疲れて動けなくなった。それを見て魔獣使いは怒り始めた。


「何やっているんだ!休むな!シルバーを連れてこい!」


「も、もう、体が動きません」


「チッ、使えないな」


 これで女性兵士達は、しばらくは戦力にはならないだろう。


「犬はすでに俺の友達だ。そして、お前の味方はもう居ないようだな。形勢逆転だ」


「ひどい!僕の唯一の友達のシルバーなのに!僕の友達を返せ!」


 そこへちょうどフリスビーを咥えた犬が戻ってきた。怒った魔獣使いは、犬が咥えているフリスビーを無理やり奪った。


「こんなもの!こうしてやる!」


 そしてフリスビーを木に向かって投げた。フリスビーは木に引っかかった。


「なんて奴だ!俺が犬とフリスビーで遊べないじゃないか!せっかく楽しくなってきたところなのに!」


「いい気味だ!僕の友達を横取りした罰だ!(カプッ)痛てーーー!」


 遊べなくなった犬は、怒ってその原因となった飼い主である魔獣使いの足に思いっきり噛みついた。そして、走り去っていった。お家に帰るのだろうか。


「ま、待ってくれー」


「「「「「イケメン様ーーー!!!」」」」」


 魔獣使いイケメン・ブリーダーとそのファンクラブ会員である女性兵士達は魔獣ミニチュア・ダックスフントを追いかけて去って行った。


 勝利!


「うむ!今回は誰の助けも借りず勝った!俺って伸びしろあるかも!この勝利、せっかくならシャム姫やミケちゃんにも見てて欲しかったなぁ。好感度もかなりアップしたはずなのに」


 見せても好感度がアップするような戦いではなかったことには気づいていないヨシオであった。


 ヨシオが木に登って引っかかっていたフリスビーを取り戻し城内に入ろうと歩いていると、一人の倒れている女性兵士が目に入った。たぶんイケメンのファンクラブの一人だろう。犬と遊んでいたのか犬の毛とヨダレだらけなのが気になる。


「おい!大丈夫か!」


「はっ!?私は何を?あれ?そうだ!イケメン様は?」


「奴も犬もその仲間達も帰って行ったぞ」


「そうなの・・・イケメン様はもう居ないのね」


 そう言って彼女はヘルメットを脱いだ。見捨てられ落ち込んでいる女性兵士。よく見ると可愛いかも、い、いや、超絶可愛らしい!今だ!心が弱っている時こそ付け入る・・・いや、励ますチャンス!


「お前はイケメンに利用されただけのようだな」


「いや、そんなことは・・・そうなの。分かっていたの。本当は自分でも。利用されているだけだって。会費も高いし」


「お金払って戦いに来ているのか!?それは酷いな。もし俺だったらファンを守るために体を張って最前線で戦うのに」


「私は少しでもイケメン様に喜んでもらえれば良かったの。それで満足だったの」


「奴は当然の義務って感じで高みの見物だったな。しかも、あなたのような可愛らしい女性を最前線で戦わせるなんて。なんて卑怯なやつだ!」


 見方によってはヨシオも同じくらい卑怯者である。


「でも今回はショックだわ。仲間を見捨てて帰るなんて。なんて酷い人達なのかしら」


「真実に気が付いたようだね。たぶん今回に限らず、いつも面倒な事ばかり押し付けられているのだろう。一緒にいた仲間だって本当の仲間じゃない」


「そうなの。イケメン様はいつも面倒な事を私達に押し付けてばかり。ファンクラブのリーダーばかりがいい思いをして。他の皆も自分のことばかりで、あんなの仲間じゃない。私は何なのかしら・・・結局、ひとりぼっちなのね」


 完全に心が折れているようだ。心に付け入るなら・・・励ますなら今だ!


「ほら、これをやるから元気出せ」


 俺は手に持っていたフリスビーをその女に見せた。


「こ!これは!シルバちゃんが気に入っていたおもちゃ!本当に下さるのですか!」


「ああ。だから元気出せ!」


「ありがとうございます!」


「君はもう一人じゃない。困ったときは俺が助けてやる。勇者ヨシオはもう君の友達だ」


「私、もう一人じゃない!なんだか元気が出てきました!」


 よし!もう一押しだ!


「これはフリスビーって言うんだ。こうやって回転させながら飛ばすんだ」


 俺は大げさなアクションで投げ方を教えてやった。それを、キラキラして目で見ている可愛らしい女性。フリスビーを渡すと、それを手に取り大切に胸に抱えた!来た?もしかして、敵の女性を俺のファンにしてしまったのか!連絡兵の言う通りなのかーーー!


「私の名前はメンクイーンよ!ありがとうございます!これでイケメン様もシルバちゃんも喜ぶわ!私のポイントもアップよ!じゃあねー!」


 メンクイーンはご機嫌で去って行った。


 それをあ然と見送るヨシオ。


「女性にプレゼントですか。おモテになるのですね。さすが握手会で私の隣のレーンに並ぶ勇気のあるお方です」


「えっ!?」


 シャム姫は一瞬冷たい目線でヨシオを見た後、捨て台詞の残して馬車で通り過ぎて行った。


 見てほしい場面は見てもらえず、見てほしくない場面が見られてしまう、相変わらず巡り合わせの悪い勇者ヨシオであった。

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