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19-4話

「ムキー! 何なのよあの小学生」


 今は亡きグレートユルフワ帝国、その皇帝を先祖に持つユルフワ・ガリペラは怒っていた。


「次から次へと厄介者が! あのツンデレ女のシャム、全栄養が胸に集中しているラブ・メグ、この二人だけ気を付けていればいいと思っていたのに」


 シャム姫のいるハートフル・ピース王国へは、ユルフワがキタノオンセン帝国をけしかけたが失敗に終わっている。ラブ・メグとは数年前にキタノオンセン帝国の皇帝の座をかけて勝負したが負けている。


「聞いてないわマンチカンって女子小学生! 王国の子孫って・・・キャラが被りすぎなのよ!」


 マンチカンは亡国ルイジアナ王国の王族の子孫、スレンダーなロリ娘(10歳)、そして天性のあざとい性格。一方のガリペラはグレートユルフワ帝国の帝王の子孫、スレンダーな似非ロリアラサー、そして後天的に身に着けた計算高くあざとい性格。いわば天然のロリ対人工的ロリの対決だ。


「あの小学生、私が先に目を付けていた勇者ヨシオと婚約したって自慢していたし。ほんとムカつくわ」


 同族嫌悪なのか、マンチカンの方もユルフワに対しては直接的に勝負を仕掛けている。女神の目覚めに立ち会った後、勇者ヨシオとの婚約をユルフワにさんざん自慢していた。


「こんなことなら、さっさとエドワードと婚約破棄し、ヨシオを騙して婚約しておけば良かったわ」


 元々ラブ・メグの婚約者は当時のキタノオンセン帝国帝王の息子エドワードだったが、ユルフワがラブ・メグの罪を色々とでっち上げ婚約破棄に追い込んだ。そして、ユルフワ自身がエドワードの婚約者に収まった。現在の帝王はラブ・メグであり、今となってはエドワードは単なる地方貴族の跡取り過ぎない。エドワードにまだ使い道があると思い、婚約したままだったのは失敗だった。


「まあ、いいか。この豪邸もエドワードからもらったし」


 平民であるユルフワ家はプライドが高く労働嫌いなので貧乏であった。そもそもユルフワ帝国の皇帝の子孫と言っているが証拠も無く怪しいものである。


 ユルフワは意図して身に着けたあざとさとロリ体型を使って可哀そうなガリペラを演じ、周りの人達に”自主的に”協力してもらい、ここまでのし上がってきたのだ。貴族や豪商から養子にという話は幾つもあるが、”亡国の姫が平民として健気に頑張っている”のが看板なので、今のところ全て断っている。一方で、”自主的に”持ってくるお金や物品はちゃっかり受け入れているので、平民にもかかわらず生活自体は貴族レベルである。


「何か手を打たなくては手遅れになるわ」


 そんなガリペラが次に目を付けていたのが勇者ヨシオである。元々勇者の部分には全く興味はないが、ヨシオのお金には興味があったので情報を集め、それとなく接触を図っていた。しかし、思わぬ所から重要な情報が手に入り、ヨシオの重要性が高まった。


 ガリペラは書棚から一冊の報告書を取り出した。


『マル秘 女神の洞窟調査結果』


 ガリペラはニシノリゾート共和国の女神の洞窟に、一般公開されていない未来の洞窟と呼ばれている部分があることをかぎつけた。”自主的に”手伝ってくれる人達に密かに調査をさせたが、厳重に隠された洞窟内部を知ることはできなかった。そこで洞窟の入口を地震に見せかけて爆破し、準備していた別の入口から洞窟に入り、未公開部分の調査に成功していた。


「『やがて困難な出来事が起きる。そして生き残るのは勇者とその仲間達だけ』本当かしらね。でも、今のところ千年前に描かれた壁画は正確に過去と現在を描いている。未来の壁画が示す未来は正しいだろう。困難な出来事が何なのか、敵が誰なのか、大体分かったし。何より勇者の婚約者が確実に生き残るのが分かっただけでも収穫ね」



 ◇ ◇ ◇ 



 ここはニシノリゾート共和国にある教会。先ほどまでスイーツ女神あまいちゃんと勇者ヨシオが二人っきりで話をしていたが、ヨシオはヒツジキング三世王に報告するためハートフル・ピース王国へ、あまいちゃんは自室で休んでいる。聖女メンクイーン、村長アンゴーラ(アンゴーラ姫)、叔父のシェパード(シェパード王)は打ち合わせを始めた。


「とうとう女神様が目を覚ましました。壁画の通りでした。シェパード王およびアンゴーラ姫、これまで長い間、洞窟を守って頂きありがとうございました。これからさらに忙しくなります。引き続きよろしくお願いしますね」


 聖女メンクイーンは村と洞窟を管理しているシェパードとアンゴーラにねぎらいの言葉をかけた。


「すべては女神様のためです。聖女様、引き続きご指導のほどお願いいたします」


 二人は頭を下げ、メンクイーンは軽く頷いた。


「聖女様、私達は何をすれば良いでしょうか」


 これまで出自を聞かされていなかったアンゴーラは疑問だらけのようだ。


「必要なことがあれば指示します。しばらくの間、これまで通り洞窟を守って下さい」


「「わかりました」」


 メンクイーンは話を続けた。


「先日の洞窟崩壊ですが、専門家に調査させた結果、壁画への影響はほとんどなかったようです。しかし何者かが未来の洞窟部分に侵入した形跡がありました。たぶん、その何者かが意図的に洞窟入口を破壊したと考えるべきでしょう」


「まずいですね。未来の壁画の情報が他国に知れたとなると・・・私達の失態です」


 シェパードはうつむいた。


「過ぎたことはしかたありません。しかし、幸いなことに女神様と勇者様は出会ったばかりなのに仲が良いようで安心しました。二人にしか分からない何かがあるのかもしれません。未来の壁画の内容が広まる前に、お二人には婚約してもらい、そして壁画が示す危機を乗り越えられるよう私達が協力する必要があります」


「それがニシノリゾート共和国、いえ、スイーツ教の信者が生き残る条件ですね」


 メンクイーンは静かにほほ笑んだ。



 ◇ ◇ ◇



 ここはハートフル・ピース王国、プリンセス娘劇場の中にある会議室。シャム姫がスイーツ女神であり初代~十一代プリンセス娘センターであるあまいちゃんについて、他のメンバー達に報告していた。


「・・・というわけで、伝説のセンターは超絶可愛らしくて美しく女神のようでした。実際、スイーツ教の女神なのですけどね。そのうち、皆も会えるでしょう。楽しみにしてね。女神様の話はここまで。他に何かありますか? はい、マンチカンさん」


「実は婚約しましたー。まだ口約束ですけどねー」


 ここにいるプリンセス娘のメンバーの中で最年少のマンチカン(10歳)の婚約話に、全てのメンバーの動きは止まった。


「一応、恋愛禁止なのは知っているよね」


 シャム姫は、恐る恐るマンチカンに確認した。マンチカンは元気よく答えた。


「はい、もちろん知っていまーす。恋愛感情はありませーん。もちろん、そのような行為もありませーん。これは、単純に契約なのですー。恋愛感情の伴わない単なる契約なのですー」


 メンバーは全員目が点になった。


「その手があったか! 何故、これまで誰も気づかなかったんだ!」


「ああ、せっかく気に入った男性がいても、掟のせいで諦めていたのに」


「ちょっと同じクラスの異性とグループで遊びに行っただけなのに、運悪く写真を撮られ、研究生に落とされたのは何だったんだ」


「私なんか地方にとばされたわ!」


「私なんか坊主よ!」


 一部メンバーは血の涙を流し悔しがっていた。


「ええっと確かに契約書には婚約禁止とは書かれていないけど・・・そう、それよりも誰と婚約したの? 皆の知っている人?」


 マンチカンは可愛らしく頷いた。


「皆も知っているよ。ヨシオ、勇者ヨシオだよ!」


「えっ! 先日、洞窟内で言っていたのは本当だったの? てっきりガリペラに対する嫌がらせかと思っていたわ」


 ガリペラがヨシオに色目を使っていたのをシャム姫は知っていた。


「もちろん、嫌がらせも兼ねていますー」


 素直に答えるマンチカンを見ながらも、シャム姫は徐々にヨシオに対して怒りを感じていた。召喚以来、ヨシオの世話をしていたシャム姫に何の相談もなく婚約した事に対して。シャム姫が一生懸命働いている裏で密かに婚約したことに対して。そして何よりシャム姫に対して真っ先に婚約の申し込みがあるべきではないかと。これに関してはスワン妃の仲介を本気にせず、ヨシオのアプローチにも気が付かないシャム姫に非があると思われるが。


「ちょっと城に行ってきます」


 シャム姫は周囲に冷気をまき散らしながら城へと向かった。

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