19-1話
眠りから覚めたあまいちゃんは、反乱が起きる原因が俺であることを告げた。
「でも、安心して。争いが起きないようにするため私が千年の時を超えてここに居るのだ。皆様はこれまで通り行動すればいいよ。くれぐれも余計な行動は慎んでね。質問のある人」
「はい!」
イケメンが挙手をした。
「勇者ヨシオが原因ということが判明しているなら、手っ取り早くヨシオを亡き者にすれば・・・」
「却下!」
俺はその意見を素早く却下した。一瞬でもお前をライバルと感じた俺が馬鹿だった。あまいちゃんが答えた。
「残念ながら、物事はそんなに簡単ではないのだよ。仮にヨシオがこの世から居なくなったとしても、危機は消滅しない。なぜなら、ヨシオの代わりに別の人間が原因となって争いを引き起こすから。つまり運命の強制力みたいな謎の力が働くのだ。それならヨシオが原因であると分かっている方が対策がしやすいでしょ。運命を変えるには緻密な戦略が必要なの。だから、くれぐれも余計な行動は慎んでね」
「はい!」
女子小学生マンチカンが挙手した。
「亡き者にするのがダメなら、地下牢に閉じ込めるのが・・・」
「却下!」
俺はその意見も素早く却下した。小学生は無意識なだけにたちが悪い。
「それも同じことなのだ。ヨシオの代わりに別の人間がヨシオの役割を演じるだけだよ。運命の強制力はその程度の事では跳ね返せないのだ。何度も言うけど、くれぐれも余計な行動は慎んでね」
ていうか、イケメン&マンチカン兄妹は俺に何か恨みがあるのか! 心当たりはあるが。
「他の皆さんも、ヨシオを害するような行動をとらないようにしてね。運命は簡単には回避できないから。だけど、これから起きることを詳細に知ってしまえば思わぬ事態が引き起こされる可能性があるから、それも教えられないよ。皆はこれまで通り行動してね。あまいちゃんからのお願いだよ」
打ち合わせは終了し、各国の代表は宿へと戻っていった。俺はあまいちゃんに引き留められ教会の中にある個室へと案内された。
「この部屋は防音室だから音が外に漏れない。ヨシオにはある程度ストーリーを話しておくから」
あまいちゃんは現在から約千年前の時代に転生したらしい。それから数年して俺が二度目の転移をしてあまいちゃんに出会ったようだ。未来では俺が原因となり戦争が始まり世界はほぼ滅亡した。その事実を俺自身があまいちゃんに語ったようだ。ヨシオは争いを回避しようと努めたが力が及ばなかったと悔やんでいたらしい。しかし、”あること”に気が付いたあまいちゃんは、未来を変えるために約千年間装置で眠ることにしたらしい。
「ありがとう、あまいちゃん。俺達のために」
「いいの。私がこの時代に来ることは定められていたからね。ちょっと怖かったのは確かだけど、睡眠装置は上手く動いたから大丈夫だよ。それより気づいたことがあるの。これが事実なら世界の滅亡を回避できるかもしれないのだ」
あまいちゃんは微笑んだが、その瞳には不安が漂っていた。俺が守ってあげなければ。まず必要なのは情報収集だ。
「それで、何に気付いたんだ?」
「ヨシオから未来の出来事を聞いている時、そのストーリーを知っていると感じたの。それから気になって考えていた。そして思い出したのだ」
「何を?」
あまいちゃんは躊躇いながらも俺に告げた。
「この世界は以前、私が遊んでいた乙女ゲーム『姫と勇者とミルクショコラ』の世界とそっくりなの! 少なくとも私の容姿はゲームの中に出てきたスイーツ教の女神アマイの姿。そしてヨシオはゲームの中の勇者ヨシオと同じ姿だよ」
まさかの展開。これから上流階級が集う学園に入学し、婚約者をめぐっての争いが始まるとでもいうのか。
「お、乙女げーの世界なの? てっきり異世界転移で俺スゲーものだと思っていたのに。でも俺スゲーにしては装備が気まぐれに物を取り寄せるバーコードリーダーと戦闘力の無いAiエクスカリバーEXだからちょっとおかしいなとは思っていたんだ。乙女げーなら戦闘力がほぼゼロなのも納得。それにしても、やったことないから対策がよくわからないな」
男子は普通乙女ゲームしないからな。
「簡単に説明するよ。ゲームプレイヤーはヒロインの姫を一人選び、ライバルの女達を出し抜き結婚を目指すの。選んだヒロインによって、ストーリーは異なるよ。ヨシオはヒロインに言い寄られる金持ち貴族勇者ヨシオの役で準主人公。だから死なないわ」
なるほど。勇者とその仲間が生き残るという言い伝えと合致する。
「一方、私はスイーツ教の女神でヨシオの婚約者でもあるアマイ役。アマイはどのストーリーでもヒロインに立ち塞がる悪役令嬢役として登場する。そして、すべてのケースでアマイはヨシオに婚約破棄される名脇役なのだ。その後ヨシオはヒロインと婚約。怒ったスイーツ教信者と各国との間で武力衝突が始まり世界大戦へと突入。長い戦いの末、ヒロインとヨシオ連合軍はアマイと信者連合軍に勝ち、アマイは処刑され平和な世界が訪れる。とんだクソゲーだよー」
「そんな! あまいちゃんは死ぬことを分かっていてこの世界に来たのか!」
あまいちゃんが天使に見えた。
「ううん、ある意味そうだけど違うのだ。私がどんな行動をとろうともこの時代に来るのは運命で定められている。前回のあまいちゃんは、散歩している途中に未確認飛行物体に拉致、キャトルミューティレーションていうの、されて時空を超えこの世界に送られてきたらしいのだ。もはや運命というよりシナリオの強制力と考えるべきかもしれないよ。ちなみに二年後に私達がショコラ学園に入学するところからこのゲームは始まるのだ」
「二年後か・・・それまでにシナリオ突入を回避できればあまいちゃんも死なずに済むんだね。ほかの登場人物は?」
「基本的に姫が主人公。つまり、今日集まっていた女性のほとんどが登場人物でありこの中の誰かがヒロインとなる可能性がある。全員のフラグを立てずヒロインを登場させないのも対策の一つかもしれない」
主な登場人物は、ほぼ出そろっているようだ。フラグは立っていないと思う。しかし、まずは、あまいちゃんを守ることが重要だ。
「決死の覚悟でこの世界に来たあまいちゃんを守るためには俺は何をすれば良い? このままでは死ぬんだろ! 俺が守るよ。とにかくあまいちゃんは俺の屋敷で暮らすのがいい、そうしよう!」
「ヨシオは既にシナリオ通りに動こうとしているのよ。分からない? 戦争の回避よりも私を守ることを優先しようとしているでしょ」
そういえば、先程からあまいちゃんを守らなければならないという考えが最優先となっていた。
「確かに。そうか、こんな感じでシナリオ強制力が働き、そのうち俺とあまいちゃんが婚約に至るのか。とすると、最近モテ始めたのもシナリオの強制力かもしれない」
頭の中の霧が晴れるような感覚があった。
「それを分かってもらえただけでも収穫だよ。さて、欲しい情報は前回のストーリーとの違い。それが強制力に対抗する手掛かりになるはず。何か無いかな」
あまいちゃんは俺を見つめてそう言った。うーん、あまいちゃんから聞いた話はこれからの事だし・・・
「そういえば、マンチカンと婚約したんだ。口約束だけど」
「マンチカンは敵役イケメン・ブリーダーの妹だから、本格的な交流があるのは二年後の学園入学後のはず。口約束であっても婚約なんてありえないよ。その婚約の原因となった事件や人を思い出して。その人は、強制力に対抗する力を持っているかも」
命を狙われてそれを回避するための取引として婚約するのもいいかと思ったわけで、その原因といえばCDショップ的なところで・・・
「マンチカン押しのトップオタ達か!」
「なるほど、モブキャラね。ヨシオや私はゲームの主要登場人物だからシナリオの強制力が強く働く。だけどストーリーにほとんど関わらない名前の無い人達、いわゆるモブキャラには強制力が働き難いのかも!」
まさか俺の命を狙っていたマンチカン押しのトップオタ達が世界の運命を変える!?