18-10話
「お待たせしました」
遅れて現村長のアンゴーラが女神の部屋に入ってきた。マンチカンとの婚約に関する話はうやむやになった。よし!
変わらず普通の体型で普通の顔。だがそれが彼女の魅力である。さらにアンゴーラに連れられ修道服を着たシスターらしき女性が入ってきた。顔はベールで隠されている。
「こちらはスイーツ教の聖女様です」
アンゴーラに紹介され、聖女はベールを上げた。ええ!?
「スイーツ教の聖女を仰せつかっておりますメンクイーンと申します。皆様、ようこそおいで下さいました」
メンクイーン! 俺が知る限り、彼女の立場は王城の兵士のはずだが。昨日も料理長テツニン・タベタリーナと一緒に温泉に居たし。あれは何だったんだ。
「メンクイーンが聖女? もしかしてバイト? お金のことだったら僕に相談してくれれば」
「その節は大変お世話になりました。時にはアルバイトもやっておりますが、こちらが本職です」
メンクイーンはスイーツ教の聖女として、一般人にまぎれ各地を訪問し現地調査を行っていたようだ。身分を隠して。これから起きるであろう困難な出来事が何なのかを知り、その対策を立てるためだ。ちなみにスイーツ教において聖女の立場はナンバー2。ナンバー1はここの装置で眠っているスイーツ教の女神らしいので現在は事実上のナンバー1だ。
「これで古の五か国のうちの四か国の代表が集まりましたね」
古の五か国とは、数千年前この地に存在していた国々の呼び名らしい。今となっては滅びている国も含まれるようだ。
「まだ全員が揃っているわけではありませんが、各国の代表を私から紹介いたしましょう。ハートフル・ピース王国からはスワン王妃様、シャム姫様、ロッソ姫様」
メンクイーンの紹介により、三人はスカートの裾を軽くつまんで挨拶した。スワン王妃の実の娘なのでロッソRは姫なのか。ちなみにシャム姫はメイド服ネコミミ装着のままだ。かわいい。
「キタノオンセン帝国よりラブ・メグ帝王様」
女帝のメグちゃん? ・・・スジークじゃなかったのか。
「ふふ、ヨシオだけが騙されていたようですね。ラブ・メグです。皆さんよろしく」
ラブ・メグとラブ・スジークは双子の姉妹。いつもは魔女のような服装のメグに対し、パンツルックで軽装のスジーク。服装が入れ替わると全然区別できない。そういえば、時々女帝と入れ替わっているってスジークが言っていたな。
「ニシノリゾート共和国よりシェパード王とアンゴーラ姫」
シェパード王ってアンゴーラの叔父の元村長? しかもアンゴーラが姫? びっくり。
「かつてニシノリゾート共和国付近は小さなリゾート村が点在しているだけでしたが、それをまとめて国のような体裁にしたのが私とアンゴーラの祖先にあるオタ・クー王なのです。共和国制の今となっては血のつながった子孫であると言うだけで、他には何の意味もありませんが」
「わたし初耳なんですけど」
最も驚いていたのはアンゴーラ村長本人のようだ。叔父と何やら言い争っているようだが無視して紹介は続いた。
「ルイジアナ王国よりルイジアナ・イケメン王子様、ルイジアナ・マンチカン姫様」
ルイジアナ王国はかつてハートフル・ピース王国とキタノオンセン帝国に挟まれた盆地にあった小国だ。今はハートフル・ピース王国の一部となっているらしい。
「まさかイケメン、お前が亡国の王子、そしてマンチカンが姫だったとは。お前達の先祖も頑張ったのだろうが、二大大国に挟まれては生き残れなかったのだろう。希望を捨てるな、プロ野球選手として強く生きろよ!」
先祖の悔しさを胸にいつか復活することを夢見て傭兵稼業をしていたのだろう。敵ながらあっぱれだ。
「たぶん、お前が考えていることとは違うぞ。ルイジアナ王国が滅びたのは若者が他国に出稼ぎに行って帰ってこなくなったからだ。ルイジアナ王国は農業国だったからな。やがて超高齢化社会になり国を維持できなくなったのだ。ハートフル・ピース王国から沢山の補助金をもらって国を維持していたが、人が居なくなれば結局は滅びるのだ」
限界集落キター、国の規模で。全員の紹介が終わったところで最後のメンバーが登場したようだ。
「私と婚約するはずだったのに、こんな小娘と先に婚約するなんてヒドイ」
現れたのはガリペラ。こいつも昨日、風呂で出会ったよな。小学生のマンチカンを小娘と罵っているが、見かけ上はガリペラも小娘。ただし実年齢は三十歳を過ぎていそうだ。
「これで古の五か国の代表が揃いましたね。ようこそユルフワ・ガリペラ姫。彼女はグレートユルフワ帝国の代表です」
グレートユルフワ帝国はキタノオンセン帝国の北にある島、地球でいうイギリスあたりに存在した国。かつては世界を支配していたが今はキタノオンセン帝国の一部となっているらしい。
「古の五か国は長い間争っていました。その争いを止めたのが女神と勇者と言われています。それ以来、国々は緩やかにつながり大きな争いは無くなりました」
しかし再びこの世界には危機が迫っている。それを知ってメンクイーンが古の五か国の子孫を呼んだということか。ここに来ることは急に決めたはずなのに・・・すでに皆は準備していたのか、あるいは初めから定められていたのか。
「そして勇者ヨシオ様がここに居ます。あとは女神様が目覚めれば数千年前の国々の子孫が揃うことになります」
それに何の意味があるのだろうか。メンクイーンは俺の方を見て頷いた。
「準備は整いました」
成り行きにまかせるしかないだろう。俺はポケットに忍ばせた犬笛を取り出し、前回同様『ファ○マの入店音』のリズムで笛を吹いた。すると部屋の中央に氷漬けの女神と操作パネルがせりあがってきた。
操作パネルには液晶モニターとパソコン用キーボード。そして液晶画面にはメッセージが。
『ファ○マの入店音に気付いたあなたはズバリ異世界人ですね。フ○ミチキ美味しいですよね。でも冬はおでんもお勧め。まずは確認のためパスワードを入力してね。パスワードのヒントは、白い四角い物体。角に頭をぶつけて死ねたら大したものです。ひらかな三文字でよろ~。間違えるか一分経過すると終了っす。次のチャレンジは十四日後だヨ。がんばってね。会える日を楽しみにしているわ (๑˃̵ᴗ˂̵)و 』
俺も会えるのを楽しみにしていたよ。さあ、始めるか。