18-9話
最近の小学生はしっかりしているなぁ、と感心しながら宿への帰路についている。口約束とはいえ金のために婚約を持ち出すとは恐るべし女子小学生マンチカン。将来立派な金の亡者になりそうだ。
それよりも、今は村長代理に聞いた壁画に描かれた未来の方が心配だ。困難な何かが起こり、勇者とその仲間のみが生き残る未来。武力の無い俺に何ができるのだろうか。もしかしてチート能力が開花するのか。勇者スゲーが近いのかもしれない。むふふ。
宿に戻り、早速スワン王妃と話をした。ちなみにシャム姫とロッソRはお昼寝中。
「その様子だと、村長、いや今は娘のアンゴーラに立場を譲り、村長代理でしたわね。彼に未来の話を聞いたのね」
「はい。王妃は未来が描かれた洞窟の事をご存じだったのですか」
「噂は聞いたことがありますが詳しい事は知らないの。国としても、そのような壁画が実際に存在しているかどうかは確認できていないわ」
噂は近隣諸国では知られているようだ。だが、未来を描いた洞窟の存在は隠されているらしい。
「だんだん分かってきました。最近、どうもモテ期に突入したと思っていたのですが、その噂が原因なのかもしれない。勇者の仲間が生き残るという部分。結婚すれば仲間になれる。俺が勇者として認知されてきたということなのか」
イケメンではない男が女にモテるためには金や権力など何かが必要なのだ。
「たぶん、そうですわ。噂とはいえ、万が一本当だった時のことを考えるとね・・・実際にヨシオは予言通り転移してきたわ。貴方の役割はあなたが思っている以上に大きいのかもしれませんね」
元の世界では単なるコンビニ店員だった俺が、この世界ではそこそこリア充生活ができている。その対価は大きいというのか。うむ、それはそれで本当の異世界勇者的な展開になってきてカッコイイかも。チートの開花はまだか。
召喚された当時はキタノオンセン帝国との戦争を解決するためだと教えられた。しかし、実際には帝国の危険はほとんど無かった。ガリペラが帝国内で起こしたゲリラ活動が争いの原因であり、それらは女帝ラブ・メグとラブ・スジーク達によってすぐに鎮静化されたからだ。ハートフル・ピース王国はおぼろげながらもその事を知っていたはずだ。となると、来たるべき未来への最終兵器として俺は召喚されたと考えるべきだろう。
「俺が召喚された本当の理由は、やがて来る困難に立ち向かうためなのですね。戦いは不本意ですが、民に望まれればやぶさかではない」
ここは異世界勇者っぽく、理不尽な運命に納得できないながらも皆のためにガンバル的な展開が望まれているのだろう。期待される男はツラいぜ。
「それは違いますわ」
「違うの!? しかも即答!」
「ヨシオが召喚されたのは予言されていたからですわ。私達が行ったのは召喚の儀式ではなく、さまよえる魂に呼びかける儀式ですの」
「え、どういうこと?」
「簡単に言えば、ヨシオが来ることが分かっていたから迎えに行ったのですわ。そのままではヨシオは迷子になって、時空の狭間を永遠にさまようことになりかねないから。半信半疑で儀式を行いましたが、無事にヨシオを捕まえることができて良かったですわ」
危うく俺はさまよい続けるところったのか。ヤバかった。しかし、元の世界では時空の狭間に偶然飲み込まれたと思っていたが、予定通りなのか?
「どうして俺があのタイミングで来る事がわかったのですか」
「『予言の書』に書かれていましたわ。ヨシオも見たことあるはずです」
もしかして・・・ヨコク・ブートキャンプスノート! あれは俺自身が体験したことを俺自身が記載したノートだ。俺は二度召喚される。この時代に召喚され、この世界を生き、やがてこの世界の過去に召喚される。だから過去の俺はこの世界の未来を知っていることになる。『予言の書』という形で未来の俺達へ俺が残したメッセージに違いない。有能すぎるぜ俺! これからは勇者ではなく賢者と名乗ろうかな。
「その書には今後起きることについて、何か書いてなかったのですか?」
「残念ながら召喚以外の重要な事は・・・そういえば女に気をつけろとかはあったと思いますわ。ならば世界の危機的な事が起きるなら何か書かれていても良さそうなものですが」
女に気をつけろとかあたりまえすぎてどうしようもない予言はいらないから! 詰めが甘いよ過去の俺! いや未来の俺?
「過去に召喚された俺はすでに未来を体験している。『予言の書』以外の何かに記した可能性もある。もしかしたら、それが洞窟の壁画かもしれない」
「そうね。だから噂と言えど洞窟の壁画を無視するわけにはいかないのよ。どう、シャムかうちの娘と結婚する気になったかしら?」
スワン王妃は未来が描かれた洞窟をあまり信じていないようだ。本気だったら実の娘のロッソRを猛プッシュするだろう。しかし結婚相手や家族ならば確実に仲間と言えるのだろうか。分からないけど、これも万が一ということなのだろう。
日が沈んできたのでシャム姫とロッソRを起こし、スワン王妃と一緒に女神の洞窟へと向かった。洞窟入口は宿のすぐそばにあった。入口には警備員と村長代理が立っており、関係者以外は入れないようになっていた。
「お待ちしておりました」
村長代理に連れられ、洞窟内にある女神の部屋へと向かった。俺達が到着したその部屋には先客が居た。
「久しぶりねヨシオ。キタノオンセン帝国の代表として女神の復活を見守らせて頂くわ」
「スジーク!」
この村で児童養護施設の運営をしているラブ・スジークが居た。一緒にこの世界に来た地球人、筋肉好代さんの生まれ変わりだ。そしてもう一人と一匹、先客が居た。
「久しぶりだね勇者ヨシオ」
俺の足元でミニチュア・ダックスフントが走り回っている。お、お前は!
「イケメン・ブリーダー!」
俺は身構えた。モテない男の敵であるモテモテ男イケメン・ブリーダー! もはや全人類の敵と言ってもいいだろう。
「おっと敵対する気は無いよ。今の僕は傭兵稼業から足を洗った一般人さ。それよりも君にお礼を言いたくて来たんだ」
「お礼だと!?」
全くもってお礼を言われる理由が見当たらない。
「ほら、以前、ハートフルピース王国の王城で戦った時、君が言ってくれただろ。”お前なんかプロ野球ドラフト会議にかかってしまえ!”って」
戦った俺だからわかるけど、イケメンがビーフジャーキーを投げつけるコントロールは天才的だったのだ。また相手の行動の裏を読んだ投球術も素晴らしかった。
「そんな事言ったな」
「それでキミの言うとおり野球をやろうと思ってね。近所の社会人チームに練習生として入団したんだ。入団試験では誰も僕のボールを打てなくてね。すぐに入団して一軍で活躍することになったよ。その後チームは連勝につぐ連勝。弱小チームだったのに地域リーグで優勝したんだ。その活躍を認められ、プロ野球ドラフト会議にかかり、ドラフト一位でプロ球団に入れたんだ。ほんと君には感謝するよ」
天才が努力するなら成功は確約されたようなものだ。方向さえ間違わなければ。彼がビーフジャーキー投げにこだわらなくて本当に良かった。
「そして妹も君にはとても感謝しているんだ。最初は君に良い感情は持っていなかったけど、なぜか君との婚約も決まったようで僕も嬉しいよ。今後もよろしく頼むよ弟君」
「もしかしてイケメンの妹って・・・」
「ダーリーン、待っていたわー」
イケメンの後ろから出て来たのはマンチカン。数時間前、口約束で婚約したマンチカン。イケメンの妹だったの? マンチカンは俺の腕に抱きつきニコニコしている。その笑顔は絶対逃がさないと言っているように見える。婚約が冗談で済むような雰囲気ではなくなった。小学生なのに計算高いよマンチカン!
ふと寒気を感じて後ろを振り返ると、能面のような顔で俺を見ているシャム姫とロッソRがいた。
「小学生相手に何やってんの」
「変態」
事の顛末を二人に必死に説明する俺。今回は異世界勇者チート開花してスゲーの回ではなかったのか・・・