18-7話
オモイザワ村には着いたが、こんなに観光客が居る中で女神の眠る装置を起動させるわけにはいかない。何より、プリンセス娘の一部トップオタが俺の命を狙っているのだ。人気の無くなった夜間に女神の眠る洞窟に行くべきだろう。
駐車場に馬車を停め、拠点となる宿へ歩いて移動している。
「さっきから視線を感じるな」
時々、子供達が俺達を指さし笑っている。その度「浮かれている人達だからといって、指をさしてはいけません! 見ないふりをしなさい」とでも言っているのか、親に叱られている。しかし、その親もチラチラとこちらを見ている。
「ヨシオのお顔が気になるのではないでしょうか。大人なのに浮かれてお面を付けていれば当然かと。いかにも馬鹿っぽいです」
「馬鹿っぽいとか言うな! 俺の命がかかっているんだ。それから、シャム、じゃなくってメイドちゃん、俺の事はシルバーウルフ仮面と呼びたまえ」
メイドになりきっているシャム姫にお面の事を指摘されたが、俺が見る限りシャム姫自身もかなり浮かれているように見える。なにせメイド服、ネコミミとニーハイを装着した完全装備。いつの間に準備したのだろうか。しかも、さっきから鼻歌を歌っている。女神、というか伝説の初代プリンセス娘センターに会えるのが嬉しいのだろう。完全に浮かれている。
「確かにシルバーウルフ仮面は視線を集めていますわ。でも、メイドちゃんもこの村に溶け込んでいるとは言えないですわよ。はっきり言って浮かれたイタイ娘に見えますわ」
「そんなことないです! 祭りと言えばコスプレです! 溶け込んでいるはずです!」
スワン王妃の言う事はもっともだ。ここはコスプレ祭りの会場ではないしハロウィンの時期でもない。シャム姫はかなり浮いている。ていうか、俺よりもシャム姫よりも視線を集めているのがスワン王妃ではないだろうか。普通に歩いているだけなのに進行方向に居る人達がオーラを感じて振り返り道を空ける。有名なモーゼのアレ状態です。
「皆、目立ってます! 三人集まってとても目立ってます! スワ・・・母さんもオーラを出すのをやめて下さい。護衛するの大変なんですから、きゃっ!」
「大丈夫ですかお嬢ちゃん」
「ありがとうございます・・・」
ロッソRは目立つ格好はしていないもののドジっ子属性は健在で結局目立っている。今も俺達に文句を言おうとして何もないところでつまずきコケそうになったところを通りすがりの人に助けられている。背が低くてスレンダーな体型なため小学生に間違えられているのは確実だ。
そんな謎の集団は、目立ちながらも宿『シルバーウルフのしっぽ亭』に到着した。見るからに高級で王族が泊まるのに相応しい格式のホテルだ。宿の名前からしてシルバーウルフ仮面の俺にはぴったりで気に入った。
俺達は一般とは異なるVIP専用エレベータに案内され最上階のVIPルームへと移動した。最上階はVIPルームの一室のみ。馬鹿みたいに広い。部屋の中にさらに部屋が幾つもある。なお、最初に怪しい俺達を見たホテルマンは、顔を引きつらせながらも普通に対応していた。さすが高級ホテルの従業員だ。
シャム姫はエステ、スワン王妃はアロマテラピー、ロッソRは赤い少女隊Rと一緒に警備。俺は今後の予定を決めるため村長と話をする必要がある。村長の運営する『アルマジロ亭』へ行くことにした。
◇ ◇ ◇
「アンゴーラさんは居ますか?」
アルマジロ亭の受付で村長アンゴーラを呼んでもらった。当然、シルバーウルフ仮面のままだ。従業員が怯えていたように見えたのは気のせいだろう。
「お待ちしておりました。ヨシオ様ですね。その仮面は・・・いえ祭りですからね。こちらにどうぞ」
イタイ人を見るような目はやめて。現れたのは元村長、アンゴーラ村長の叔父だ。名前を告げていないのに一目で俺を見抜くとはさすがだ。宿の応接間に案内された。
「ヨシオ様、本日お越しいただいたのは女神の件ですね」
「そうです。手紙を拝見し、すぐに来ました。今晩、女神の眠る装置を起動し、女神を永い眠りから覚ますつもりです」
「ありがとうございます! ヨシオ様が女神様と添い遂げる決心をして下さり安心しました。これでオモイザワ村、いえニシノリゾート共和国の将来は安泰です」
ちょっとどういう意味? 目覚めさせるとは言ったが添い遂げる? 確かに十一年連続でプリンセス娘センターに君臨したと言われるあの美人で可愛らしい女神と結婚するのはやぶさかではない。むしろ望むところだ。
しかし、どうもオカシイ。女神本人の意向を聞いていないのに決められているかのような口ぶりだ。何かあるのだろうか。
「すみません添い遂げるとはどういう意味でしょうか?」
「これは失礼致しました。ヨシオ様は異世界からの旅人ですから知らないのも当然です。以前、ヨシオ様には女神の眠る部屋へと続く洞窟を見て頂きました」
「ええ、洞窟の壁には過去の出来事が描かれていました。洞窟の奥に女神の部屋があり、そこには過去のプリンセス娘選抜総選挙的な壁画が描かれていましたね」
「そうです、そこには過去の世界が描かれています。しかし洞窟はそこで終わりではありません。実は女神の部屋の先にも洞窟は続いているのです。そして、そこにも壁画が描かれています。今は訳あって非公開にしていますが」
そういえば、女神の部屋そのものは詳細には調査していなかった。隠し扉でもあったのか。
「なぜ、非公開に?」
「当事者であるヨシオ様には知る権利があるでしょう。女神の部屋の先の洞窟の壁画には、この世界の未来が描かれていたのです」
「未来だって!」
「その通り、この世界の未来です。女神には未来を予知する能力がある、あるいは女神自身が未来から来たと我々は考えています」
魔力のあるこの世界の事だから未来視の能力がある人間がいてもおかしくはない。そして、未来からの転移はもっと可能性がある。俺自身が異世界から転移してきたのだから。
「なるほど。未来を予知する洞窟の壁画に、女神と添い遂げる俺の存在が記されていたのか」
「おっしゃる通りです。女神を目覚めさせるのが勇者であり、女神は勇者と結婚し、一緒にこの世界を救うのです」
「女神を目覚めさせた奴が本物の勇者というわけか。だから女神と俺が結婚することが既定路線となっているんだな。しかし、災難が起きるのが分かっているなら事前に手は打てないものだろうか」
「何らかの災難が起きることが予言されており、壁画には何かと戦っている勇者達の様子が描かれていますが詳細は不明です」
「心当たりはありますか」
「魔獣の数が近年異常なほど増加しています。また、火山活動も活発になっています。古代は別として、国同士の争いはほとんどありませんでしたが、近年、細かな争いが増えています。災難のきっかけがどれなのか、それとも全てなのか、分からないのです。しかし何よりヨシオ様がこのタイミングでこの世界に現れたことは偶然とは思えません」
「そうか。しかし俺と女神の力は世界を救うほど強力なモノなのだろうか。こう言っちゃ何ですけど、俺めちゃめちゃ弱いですから」
「武力だけが全てではありません。重要なことは生き残ること、困難を乗り越え子孫を未来へ残すことです。災難の後、この国の何人かは生き残るのでしょうからそこから再興すれば良いことです」
「何人か?」
「ええ、未来の洞窟の壁画によると、世界のほとんどは滅亡しますが、勇者と女神、そして数人の仲間達だけが生き残るのです」
世界のほとんどが滅亡!?