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18-5話

 昨晩は男性風呂でメンクイーン、タベタリーナそしてユルフワ・ガリペラと出会った。三人の間で女の闘いが始まりそうになったところ、ちょうど従業員が入ってきたので解散となった。危ないところだった。その晩は何もなく、今朝も彼女達に会うことなく宿を出発した。昨日はあんなに俺の嫁を決めるのに熱心だったのに肩透かしだ。


 しかし、あれはいったい何だったのだろうか? 噂に聞くモテ期というやつが到来したのか? それにしては想像と違って殺伐としていたし、そもそも当人はガリペラだけだったし。どちらかと言えば、女子高生のお節介的なやつに感じたな。うかつに信じて告白しようとすると、当人は「何それ? え、目が良く合う? バレたか。実はあんたの席の後ろにいる彼に手紙渡してほしいんだけど」的な展開も考えられる。気をつけねば。


 一方、スワン王妃、シャム姫、護衛のロッソRの方は昨晩は問題は起きていないようだ。変わったことと言えば温泉効果で皆つやつやになっているところ。そして馬車内でそのつやつや具合をお互い褒めあうガールズトーク大会が開催されている。


 魔動馬車は順調に目的地に向かって出発。キタノオンセン帝国を抜け、そろそろニシノリゾート共和国内に入るようだ。ここからは高速道路ではなく通常の道路を走る。田舎道をゆっくりと魔動馬車は進んでいる。目に入るのは緑の山々と時折見える湖。いかにもリゾート地らしい景色だ。


 ニシノリゾート共和国内の道路には定期的に休憩場所あり、そこには地元の土産物屋やレストランが併設されている。いわゆる道の駅的なやつ。そこに最近になってある大人気店舗が進出してきた。ニシノリゾート共和国内に数十店舗進出しているのに未だ長蛇の列が形成されるという人気店。


 その店の名は『カツ丼アルマジロ』。俺が店舗を買い取りレシピを開発し、赤字喫茶のマスターのミ・ユーラーデーチに経営を任せ、スジークやちびっ子ハウスの子供達に協力してもらいオープンした店だ。


 ちょうど先程『カツ丼アルマジロ』の前を魔動馬車が通過したが、まだ午前中の早い時間帯にもかかわらず列ができていた。フランチャイズ展開したとは聞いていたが、こんなに流行っているとはびっくりだ。


 それよりも気になるのが家族に逃げられた店長ミ・ユーラーデーチのその後。協力して『カツ丼アルマジロ』一号店を立ち上げたので気になるのだ。家族と連絡は付いただろうか。当時、一緒に潜入捜査したロッソRなら情報を持っているかもしれない。


「ロッソ、カツ丼アルマジロの店長について、その後何か知っているか?」


 ロッソRは頷いた。何か知っているようだ。


「あの冴えない喫茶店のマスターだった人ですね。ミ・ユーラーデーチでしたか。才能のかけらも無いのにミュージシャンを目指して上京して、お金が無くなると奥さんにたかっていた最低男。子供達の面倒も奥さんに押し付けて自分のやりたいことだけやってたゴミムシのことですね」


 ロッソRの評価が厳しい。夢を追う男はモテると聞いていたが、ロッソR、いや世の女性は思った以上に現実的なのかもしれない。俺も二の舞にならないよう気をつけよう。


「ああ、その彼のその後。最低な人間だったかもしれないけど、そうは言っても関わったからには彼の家族とか心配だろ。店舗も軌道に乗ったし、多少の収入も入ってきただろうし、そろそろ家族とも堂々と会えたかなと思って」


「それなら奥さんとはまだ別居中らしいですよ。ゴミムシの奥様は確か天使と呼ばれているミ・ランダクーですね。彼女が製造商売した『天使のマヨネーズ』が大ヒットして、仲直りしたものの忙しくてほとんど家にいないそうです。しかたなくゴミムシが二人の子供を引き取り面倒をみているらしいです。まあゴミムシもヨシオ様のおかげで店舗オーナーになれ、かなり儲かっているようですから養育も問題無いようです」


「そうか! それは良かった。気になっていたんだ」


「もしかして、ヨシオ様も家族に憧れているのですか? まさか結婚を本気で考え始めましたか?」


 ロッソRがイタズラ気味に笑っている。シャム姫が顔を紅くして外を見ている。


「いやー、最近色々と考えさせられてね。昨日もなぜかメンクイーン、タベタリーナそしてユルフワ・ガリペラに結婚を勧められたし」


「なんですって!」


 スワン王妃が血相を変えた。え、俺があの三人に会ったのはマズかったのかな。


「いや、昨日の夜に三人に結婚を勧められただけですけど。それ以外は何も、いや確かに三人と一緒に風呂に入っただけで・・・何も無かったです! 本当です! 信じて下さい!」


 俺はとっさに言い訳した。なぜ俺は言い訳しているのだろうと思いながらも必死に言い訳した。しかし先程まで穏やかだったロッソRとシャム姫はジト目で俺を見ている。疑われている。いや確かに発言だけを聞くと三人の女性と一緒に風呂に入ってご機嫌な浮かれ勇者野郎に聞こえるかもしれないが、俺が入っていたのは男風呂ですから! あの三人が勝手に入ってきただけだから!


「それで、誰が誰を勧めていたの?」


 スワン王妃は真剣な目で俺を見つめた。え、それ、そんなに重要? そういえばスワン王妃はハートフル・ピース王国の女性と結婚して欲しいと言っていたな。


「えっと、確かメンクイーンが女神様、タベタリーナがシャム姫様、ユルフワ・ガリペラが自分自身を勧めていました」


「その中ならシャム姫様一択ですよね」


 ロッソRが俺をにらみながら当然のように答えた。プレッシャーに負けて俺はシャム姫の方を見た。


「え、そんな、私はまだ心の準備が、あ、勘違いしないでよね! もしプリンセス娘から卒業するとなるとスポンサーの関係もあるし大変なんだからとか考えていただけだから! 別にヨシオが結婚相手になったら王城前でパレードとか考えていたわけじゃないからね!」


 シャム姫はアワアワしているが、まんざらでも無いようだ。デレ期、デレ期なの?


「そう。それで、あなたは結婚相手を決めたの?」


「いえ、昨日は三人に会って急に言われただけなので。女神は確かに可愛らしくて美人だけど眠っているのを見ただけだし、ガリペラは問題外だし、いや、ちょっと可愛いなとは思ったけど」


「「この優柔不断男め!」」


 ロッソRとシャム姫は再びジト目で俺を見ている。俺はどちらかといえば勝手に巻き込まれた被害者的な立場だと思っていたのに。そしてスワン王妃の質問に答えただけなのに、なぜか責められている。解せぬ。


「そう・・・決断すべき時が近づいているのね」


 スワン王妃が俺の結婚にそこまで真剣になってくれるなんて。もうロッソと結婚してお母さんと呼んでいいですか! しかしスワン妃は何かを悩んでいるようだ。


「何か問題があるのでしょうか」


 俺はスワン王妃に尋ねてみた。

 

「そのうち分かるでしょう」


 俺達を乗せた魔動馬車は、女神が眠っている洞窟へと向かって山道を進んでいる。

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