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18-4話

「いやー、生き返るなぁ。やっぱ日本人は温泉だよな」


 スワン王妃に皆で温泉に一緒に入るよう誘われたが、どこからともなく現れた赤い少女隊RのリーダーのクレナイRにそれとなく刃物をちらつかされたため、お断りせざる得ない状況となった。誰だって命は惜しい。苦渋の決断だ。


 スワン王妃達との混浴は諦め、時間をずらして後で温泉に入る予定だったが、女性の風呂は異常に長い、さらに赤い少女隊Rのメンバーもその後交代で入浴するらしいので、俺だけ近くにある別の露天風呂に入る許可をもらった。そこは宿泊しない一般客向けの露天風呂。ただし、日が暮れた以降の時間帯は従業員のために開放し、一般客は入れない。


 今の時間帯は広々とした露天風呂には俺しかいない。従業員が入るのはもっと後なのだろうか。白濁した温泉に浸かりながら空を見上げた。山の裾にわずかな夕焼けを残し、暗くなり始めた空には星が輝やきを増している。


 思い返せばこの異世界に来て過去を振り返ることもなく忙しい日々を過ごしていた。こんなにゆっくりとした時間を過ごすなんて初めてかもしれない。苦渋の決断で混浴を断念したが、こんな穏やかな時を過ごせるなら悪くないかも。


 そんなことを思っていたら誰かが風呂に入ってきた。二人組だ。暗くてよく分からないけどたぶん従業員だろう。わざわざ関わる必要も無いだろうと思って無視して温泉を楽しんでいた。しばらくして、その二人組が湯に浸かりながらこちらに近づいて来た・・・ていうか女子!?


「ヨシオさまー!」


「え!? タベタリーナ、後ろに居るのはメンクイーン?」


 露天風呂に入ってきたのは城の料理長テツニン・タベタリーナと城の女性兵士メンクイーン。


 タベタリーナには以前、ケチャップの作り方や出汁の活用方法を教えてから慕われている。現在はケチャップの量産化などでも協力関係にある。


 メンクイーンは、宿敵の魔獣使いイケメン・ブリーダーのファンクラブ会員だが、それがきっかけとなって、俺が教えたフリスビーの製造と販売を行っている。一応、仲良くしてもらっている。ビジネス的な意味で。


「なぜここに! ていうかこっちも混浴?」


 白濁した温泉と薄明かりのせいで肩から上しか見えないけど美人な二人に接近されてちょっとドキドキしてます。


「何言っているんですか。男性風呂に決まっているではありませんか。ヨシオ様がこちらにいらっしゃると聞いたから来たのです。そんなことより、ケチャップと出汁を使った料理をここの料理人達に食べてもらいましたが大人気でした。ケチャップの採用は確実ですわ!」


 タベタリーナは得意げに言った。タベタリーナは基本的に料理に関連する事以外には興味が無いのであった。


「ちなみに、わたしは料理長の護衛です。料理長のせいでしかたなく男性風呂へ・・・少しは恥じらいを持って行動してください料理長!」


 メンクイーンは暴走気味のタベタリーナにあきれながらそう言った。


「ヨシオ様の前で何を恥じると言うのですか。むしろ新たな料理レシピを授けて頂けるよう、私達は身も心も積極的に料理神ヨシオ様に提供すべきです。そしてヨシオ様はシャム姫様と結ばれ、世界中にヨシオ様の料理が広まるのです!」


 タベタリーナの中での俺の評価が爆上げで神の領域に入ってきている。


「え、シャム姫様とはそういう関係なのですか!?」


 メンクイーンは目をキラキラと輝かせて近づいてきた。近い、近い!


「シャム姫とは全くもってそういう関係ではありません。ていうか、うかつにそんな事を言わないで下さい。噂を聞いただけでシャム姫押しのトップオタ達が俺の命を狙いにきますから!」


 ミケやマンチカン押しのトップオタ集団から命を狙われたことを走馬燈のように思い出した。


「やはり、そうですよね。命は大切です。ところで、ヨシオ様はとうとう女神様を目覚めさせるとお聞きしましたが」


 メンクイーンは一般兵の割には色々な情報を知っている。裏で何か別の任務に就いているのかもしれない。しかし、女神の件は公然の事実なので隠す必要は無いだろう。


「ああ、上手くいけば明日にも女神は目覚めるだろう」


 メンクイーンはさらに目をキラキラと輝かせて近づいてきた。


「ヨシオ様のお考えはわかりました。ヨシオ様がスイーツ女神様の呪いを解き放ち、そして二人は結ばれるのですね! 昔話の王子様みたい!」


 メンクイーンは一人で納得し、うんうんと頷いている。呪いではなく、たぶん科学的な睡眠装置的な何かだと思うが。


「ちょっとそれはおかしいです。女神が可愛らしい方とはいえ何百年も前の方です。そんな方とヨシオ様の価値観が合うわけありません。やはりヨシオ様と結ばれるのは今を生きているシャム姫様です。この組み合わせ以外ありえません。至高の料理を世界に広めるためには権力が必要なのです。ここは譲れないところです!」


 料理を世界に広めるためシャム姫との婚姻を強硬に主張するタベタリーナ。俺の意思は?


「いえ、シャム姫様がいくら素晴らしい方で地位が高いといえど所詮は人間です。神と結ばれるのは神、料理神様にはスイーツ女神様がふさわしいのです。考えるまでもありません」


 強硬にスイーツ女神との婚姻を強要するメンクイーン。俺の意思は?メンクイーンとタベタリーナはお互いにらみ合っている。ここまで、俺を含めシャム姫と女神の考えは全く反映されていない。そこに突然、岩陰から声が聞こえてきた。


「二人とも勇者ヨシオの伴侶にはふさわしくないわ」


 振り返ると、そこに居たのは


「ガリペタ!」


「”ペタ”ではありません”ペラ”です。私はユルフワ・ガリペラです。えへ」


 永遠の小学生体型のガリペラは、湯舟から顔をちょこんと出し、目の横でVサインをしながら舌をペロッと出してあざといポーズをきめた。あざといと分かっているのに不思議と可愛いと感じてしまう。


「ダンジョン自治区から逃亡したと思ったらこんな所に!」


 ガリペラは利用していたジャガ男爵を切り捨て、自分達は早々と温泉宿でくつろいでいたようだ。お前のせいで仕事がめちゃめちゃ増えたのに! すごくムカつくけど可愛い。何コレ?


「勇者ヨシオの伴侶に相応しいのは絶対的に可愛らしいこの私、ユルフワ・ガリペラなのです。さあ、特別に許可しますからこの私に結婚を申し込みなさい」


 ユルフワ・ガリペラはほっぺたを膨らませながら半分顔をお湯に沈め、あざとく照れている。言葉の内容はムカつくけどやはり可愛らしい。それを見ていたタベタリーナとメンクイーンは獲物を横取りされたメスライオンのような状態になっている。女の戦いはもう誰にも止められそうにない。


 ここは男性風呂なんですけど・・・

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