18-3話
ヨシオ、スワン王妃、シャム姫そしてロッソRを乗せた魔動馬車は、ダンジョン自治区を北上してキタノオンセン帝国に入り、オモイザワ村に向け西方向へと進路変更し高速道路をひたすら走っている。ちなみにこのあたりの国々は独立国だが緩やかな同盟を結んでいるため、平常時であれば国境でチェックは必要無い。
先程まで熱心に行われていたスワン妃による頼んでもいないヨシオの売り込み。もちろんシャム姫とロッソRへの売り込みだが、どうしても結婚したいという気は無いが、まあ、候補に入れるくらいならという感じで落ち着いたようだ。スワン王妃も満足し話が一段落したところでシャム姫は熟睡。ロッソRは寝ずに護衛している。
「ロッソ、どのくらいで着く予定?」
「えっと、あと六時間くらいでしょうか。もう日が暮れますのでキタノオンセン帝国内で一泊することになります。あと一時間くらいで宿に着く予定です」
「王妃様が宿泊可能なセキュリティ万全の施設はそうそう無いだろう。急な出発だったけど宿は大丈夫か?」
スワン王妃が説明してくれた。
「勇者ヨシオ、心配は不要ですわ。高級宿では必ず特別な部屋を最低一つは空けてあるのです。これはどの国の高級宿でも同じ」
「今回みたいな王族や貴族の緊急の要件に対応するためですね。そういえば、故郷のホテルでも満室と言いながらVIP用のスイートルームは常に確保してあると聞いたことがあります」
「そうやって信頼を重ねビジネスに役立てているのですわ」
確かに王族達が泊まるとなるとお付きの人達も含めかなりの人数だ。それだけでも莫大な利益が見込める。無理をしてでも融通する価値があるというものだ。しかし、それ以上重要なのは宿のブランドが向上すること。一般客はブランドに憧れ喜んで高い金を払う。王族御用達ならばブランドの向上は計り知れない。そして宿はその向上したブランドに見合うようさらに設備やサービスを向上させる。今から宿泊する所も高級宿だろう。楽しみだ。
しばらくして、魔動馬車は高速道路を降り、山の麓の方へと向かった。ここら辺りは天然の温泉が湧き出ているのか、湯気が幾つも立ち昇っている。馬車は林の中の一本道に入った。しばらく走ると突然、豪華な宿が現れた。
「こ、これは日本旅館?」
宿らしき建物は瓦屋根に平屋。江戸時代の奉行所のようなデザイン。奥の方に大きな日本庭園が見え、そのさらに向こうに独立した和風家屋が点在しているのが確認できる。とても広い敷地だ。
「ヨシオ様は初めてですよね。ここは高級温泉旅館です。キタノオンセン帝国は火山に囲まれているので温泉宿が数多くあります。中でも、ここはラブ伯爵家が運営する超高級温泉旅館の一つです。帝国の貴族でさえ簡単には泊まれません。わたしもここに宿泊するのは初めてです」
ロッソRがなぜか目を潤ませながら説明した。もしかして、こ、これは俺のために無理して日本風の宿を予約してくれたということか? そうに違いない。ロッソRはできる娘だからな。俺の好感度は勝手に爆上げした。色々なところが成長するのを待っていたが、もうこれ、嫁にしても良いかも。
ロッソRとしては、王妃を口実にして自分が超高級旅館に泊まりたかっただけであった。念願叶って喜びのあまりウルウルしていたのは秘密だ。
魔動馬車は速度を落としたものの止まることなく、小高い丘に登り始めた。
「宿の受付は必要ないの?」
「通常は受付した後に宿泊棟へ移動するようですが、特別宿泊棟は少し離れた所にあり、そちらで手続きを行います」
VIP用の棟は他の宿泊客と顔を合わせないで済むよう出来ているようだ。建物が見えてきた。金閣寺と銀閣寺と清水寺が回廊で連結されたっぽい建物が見える・・・ここが日本なら観光地として連日人が押し寄せることだろう。
魔動馬車は門をくぐり建物の敷地内に入り停車した。建物内から執事っぽい人とメイドっぽい人達が出て来た。和風建築なのに執事とメイドなのか。
執事と可愛らしいメイド達に案内されて建物内に入り、それぞれに用意された客室へと向かった。シャム姫は半分寝ながら歩いている。器用だ。室内は畳の上にベッドがある和洋折衷な感じ。非常に品が良く、派手になり過ぎない素敵な内装だ。荷物を置いて客間に再集合すると女将らしき人が挨拶に訪れた。執事とメイドに女将・・・。
「ようこそスワン王妃様、シャム姫様、ヨシオ様」
そこに居たのはスジーク。スジークはラブ伯爵家の娘であり、キタノオンセン帝国の女帝ラブ・メグの双子の妹だ。スジークはスワン王妃とシャム姫に挨拶しているが、なんだか女子学生が久々に友達に会ったっぽい感じで三人ともぴょんぴょんと跳ねながら盛り上がっている。友達なの?
プチ女子会も終わったようで、スジークがこちらに来た。
「久しぶり。この温泉宿の設計企画はスジーク?」
「さすがに分かりましたか」
スジークは日本の高級温泉旅館や寺を参考にしてここを作ったようだ。
ちなみにスジークと俺は、故郷である日本から時空の狭間を通ってこの世界にたどり着いた。彼女の本名は筋肉好代。筋肉マニアなOLだったがラブ・スジークとして転生した。以前、ニシノリゾート共和国内で、スジークが責任者として運営していた児童養護施設の維持に俺が協力して以来の再会だ。
「ということは温泉も期待できるのか?」
「もちろんです。ここの建物の裏手に自然の地形を利用した巨大な露天風呂を作りました。楽しんで下さいね。もちろん混浴です」
「「「混浴!」」」
シャム姫とロッソRと俺は驚いて声を上げた。
「でも、よくよく考えれば、男女が時間をずらして順番に入浴すれば良いだけですよね。ここはVIP専用の露天風呂ですから。俺達以外は居ないのだから」
混浴という響きに反応してしまったが、冷静に考えれば問題無い。さすがに妖艶なスワン王妃や清純派アイドルのシャム姫と一緒に入るのはまずいからな。ばれたら色々な方面から命を狙われそうだ。ロッソRの方は・・・問題無いだろう。命に別状なし。
「今、私の胸のあたりを見て安心した顔しませんでしたか」
「そ、そんな事ありません!」
さすが赤い少女隊Rのメンバー。気配には敏感なようだ。
「せっかくなので皆で一緒に入れば良いですわ。それが混浴というものですわよ。さあ、行きますわよ!」
肝心のスワン王妃が混浴にヤル気満々だった・・・