17-13話
以前、ミキティは砂漠でサソリに襲われ怪我をした。その後、当時グレー商会のスッケ、あるいはカークによってこの教会に連れてこられ治療を受けていたようだ。ミキティは最低限の治療を受け、そのまま人材派遣会社で売られていた。それを俺達が救出し【AiエクスカリバーEX】で再生治療をしたのだ。
「目も、腕も治っているなんて、いったいどうやって・・・腕の良い医者レベルでは無いわ。魔法としか思えない!」
シスターは喜びながら俺の方を見た。
「あー、俺がやったのは確かだけど道具が勝手に治療しただけだ。俺自身は医療の知識も無いし」
後ろの方で様子を伺っていたスワン王妃とシャム姫がやってきた。
「話は聞かせて頂きましたわ勇者ヨシオ」
「治療したって本当?」
「えっ?」
突然現れたスワン王妃とシャム姫に驚き、シスターが石像のようになっている。説明が面倒なので無視して話を進めよう。
「治療したのは本当です。そうだ、折角なので教会で保護している怪我人達を俺が治療しましょう。どうせ、グレー商会の幹部達は逃亡して、これ以上ここを調査しても意味が無いだろうし」
「それは良い考えですわ。治療の様子も拝見できますし。シスターもそれでいいですわね」
固まっていたシスターだが、話を振られ意識が戻ってきた。
「ぜ、ぜひお願いします! さ、早速ですが案内します!」
シスターは俺達を先導して、建物の二階へと上がって行った。そこには、百人近い患者が居た。生きてはいるが全員が重症患者のようだ。
「ここに居る患者は一人では生活できない人達です。ほとんどの人は怪我がひどすぎて治せないのです。中にはミキティのように体の一部が無い人もいます。教会が出来る範囲で援助していますがお金も無くて不十分です。患者達はお互いに助け合いながら、なんとか生きているのです」
思っていたよりひどい状況だ。世の中の不幸な人達全てを救うことはできないが、知ったからには出来る限り救ってあげたい。俺はバーコードリーダーをポケットから取り出しバーコード読み取りボタンをダブルクリックした。すると、バーコードリーダーの先から光り輝く刀身が現れた。
実は、以前、刀を持ち運ぶのは面倒だなと色々といじっていたら、ダブルクリックで刀身が格納・復元できることが分かったのだ。刀身はマイクロナノマシンの集合体なので、バーコードリーダーに収納可能ということらしい。
「光り輝く剣! それはエクスカリバーではありませんか!」
「勇者がエクスカリバーで治療を行ったという伝説は本当だったのですね」
スワン王妃もシャム姫もエクスカリバーを知っているようだ。俺は、とりあえず近くにいる意識が朦朧としている男に近づきエクスカリバーを体に軽くあてた。
「ああ、やっとあの世に行ける。もうこの世に未練はないんだ。こんな辛い生活からはおさらばしたいと思っていたんだ。ひとおもいに殺してくれ」
男は俺を殺し屋か何かと勘違いしているのか。
「殺しはしない。助けてやる。エクスカリバー!出番だ!」
俺は【AiエクスカリバーEX】をぎゅっと握りしめ、眼鏡内のメッセージを確認した。
[治療および再生を開始しますか?]
[Yes/No]
Yesを選ぶ。
[ナノマシン起動]
[進捗 0/100]
[DNAを分析]
・
・
・
「うわぁ! 何がおきているんだ!?」
男の体が金色に輝き欠損している指や傷口が再生され始めた。それは数分続き、その後、輝きが治まった。
[進捗 100/100]
[完了]
男はあたりを見回した。治療は完了しているはずだ。
「体が痛くない。欠けたはずの指もそろっている。でもスワン王妃様とシャム姫様の幻が見える。そうか、ここは天国か。やっと、あの世に」
シスターが思いっきり男のほおをつねった。
「痛い! って、あれ? シスターの幻が! そうか、現世だけでなく天国でもシスターに会えるなんて。幻なら何やってもいいよな」
男はシスターに抱きつこうとした。
「いい加減に目を覚ましなさい!」
「ぐへぇ!」
シスターの背負い投げが決まった。男は床へと叩きつけられた。
「死んだらどうするんだ! って、あれ? 俺、もしかして生きているのか?」
「生きています! もう元気です! ヨシオ様が魔法で治して下さったのです」
シスターに叱られ、やっと現実を受け入れた男は涙を流して喜び、そして俺に祈りを捧げた。
「おお、神の奇跡だ! ヨシオ様は神が遣わされた天使」
「いや、単なるグルメ勇者だけど・・・」
「失礼しました! そういう設定で実は神様というやつですね! 了解しました神様! ありがとうございました!」
何だよ設定って。話が通じない。もう面倒なので、無視して他の人達の治療に取り掛かることにした。百人くらいいるのだ。さっさとやらねば今日中に終わらない。
その後、流れ作業的にどんどん治療を続けた。かなり時間がかかると思っていたが、一人当たりの治療時間が短くなっていく。もしかして、同じことを繰り返すことで学習し最適化されているのか。まさにAi、さすが【AiエクスカリバーEX】! 旧型とは違うのだよ。
最後の方は一人当たり数秒で患者を治療できた。そして一時間もかからず全員の治療が終わったのだ。仲間達は唖然としてその治療の様子を見ていた。
「終わりましたよシスター」
シスターは熱い眼差しで俺を見ていた。こ、これはもしかして久々のキターーーー! かもしれない。よく見るとシスターは清楚な感じでしかも可愛らしいし。シャム姫の目は気になるが、たまにはやきもちを焼かすくらいがちょうどいいかも。シスターがゆっくりと俺の正面に歩いて来た。
「勇者ヨシオ様・・・わたしの全てを捧げます」
本当にキターーーー! 捧げると言うことはもらって良いということですよね! そうですよね!
「今日会ったばかりですがシスター、あなたの思いに答えましょう」
「ほ、本当ですか! ありがとうございます! みんなー!」
シスターの掛け声とともに、俺の前に患者達が集合し、全員がひざまづいて祈りを捧げた。俺に向かって。何コレ?
「本日より、この教会の神はグルメ勇者ヨシオ様となりました。いや、グルメ勇者だけど実は神様という設定です」
その設定使わなくていいから!
「えっと、話が良く分からないんだけど」
俺が戸惑っているとシャム姫が説明してくれた。
「偉いわヨシオ! この教会のメインスポンサーになるなんて。いくらお金を持っているからと言ってもなかなかできることじゃないわ」
つまり神=大口のスポンサー。毎月莫大な寄付をする代わりに、シスターをはじめ教会の信者達も色々と協力してくれるようだ。それが捧げるということか。何だか思っていたのと違う。でもちょうどいいかも。資産を減らそうと思って使う度に、逆にお金が増えてしまうのだから。教会への寄付なら増えることはないだろう。
「早速ですが、信者達に依頼をお願いします」
協力してほしいことか。幾つかあるな。
「この付近に生息する砂漠ウサギを捕まえることにご協力ください」
シスターが頷いた。
「神託が下されました」
「おっシャー! ウサギ狩るぞ!」
「神への捧げものだ! 気合いを入れるぞ!」
「砂漠ウサギ根絶やしにしてやるぜヒャッハー!」
元気になった信者達は武器を持って次々と外へと出て行った。いや、根絶やしにはしなくていいから。