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17-8話

 ここは高級ブランドショップ「ルイルイ・バトン」。ダンジョンで発掘された貴重な宝石を使ったジュエリーなどを販売している。店の中ではひと際イケメンが接客していた。接客されているのは若い獣人女性。顔つきは幼いが身長はそれなりにあり、高価そうなドレスとの相乗効果で高貴な雰囲気がかもし出されている。


「それからこちらなんかはどうですか? どれもすごくお似合いだと思います」


「すごくキレイなのにゃ! それに見たことも無いデザインばかりなのにゃ。これなら色違いで十個くらいほしいのにゃ」


 女性の前にはいくつものジュエリーが並べられている。どれも明らかにニセモノっぽく、貴族が身に着けるような品には見えない。


「気に入って頂けて僕も嬉しいです。でも、これはとても貴重な宝石と金属を使っている上、うちと専属契約しているデザイナーが加工しているのでとても高価なのです」


 男性は魔動電卓を叩いて金額をそっと女性に見せようとした。


「そんなのどうでもいいのにゃ。セバス、後で支払いよろしくにゃ」


「かしこまりましたお嬢様」


 その若い女性の側に、いつの間にかお付きの人らしい男性が現れた。高齢に見えるが、背筋はピンと伸びて姿勢が良い。着ている服も派手ではないが一目で高価なものだとわかる。きっと、どこか外国の貴族がお忍びで遊びにきたのだろうとショップの男は考えていた。こんな辺境ではめったにないチャンスだ。


「ふむ、こんなものですか。後でまとめて即金でお支払いしましょう。お嬢様、ついでにドレスなども見ていかれてはいかがですか」


「それは良い考えなのにゃ!」


「ありがとうございます! ここにはジュエリーだけでなく新進気鋭のデザイナーによる最新鋭のドレスなどもあります。当然、一品物で同じものはこの世界に二つとありません! ぜひご覧ください」


 この店にあるのは、どの国の貴族も知らないデザインのジュエリーやドレスばかりだ。なぜなら、素人達が本物のブランド品を見てそれっぽく作ったものだからだ。確かに同じものは二つとないが、かといって本物にはほど遠い。買いたくなるようなモノは一つもない。だからこそ、男はこれまで結婚詐欺のような事をして無理やり女性に売りつけていた。


 しかし、ここにいるのは他国の貴族のバカ女だ。貴族は他人と同じものを身に着けることを嫌う。労せず金をむしり取れるはずだ。


(なに、後でまがいモノだとバレたら逃げればいいさ。金さえもらえばこっちのものだからな)


「素敵! ドレスも見たこと無いデザインなのにゃ! おまえ、なかなか見どころがあるのにゃ。どうだ、こんなショップ店員などやめて、わが国に嫁いでこないか。第三番目の夫でどうかにゃ」


 嫁ぐってもしかして俺が? まさかこの女は王族か! そしてまさかの一妻多夫制!? そういえば、なんたら帝国の隣のなんたら共和国の向こうにそんな国があるという噂を聞いたことがあるような無いような。


 しかし、いつもはこちらが努力してバカ女達をその気にさせて結婚をちらつかせるのだが、今回は相手の方から結婚を提案してくれている。こんな良い話に乗らないわけにはいかない。結婚するふりをして多量のニセ貴金属を買わせ、ひと儲けしたところで別れれば良い。まあ良い暮らしはできそうなので、別れられなければそれはそれでいいかも、と男は皮算用した。


「ありがとうございます。貴族でもない私を、そのように高く評価していただけると夢には思いませんでした。喜んで第三の夫となりこの身を捧げましょう」


 男はひざまづき、その女性の手に口づけをした。それと同時に店内に大きな声が響き渡った。


「誰よ! その女は!」

 

 男が声の方を振り返ると怒りに震えるエルフの女性がいた。先日声をかけてデートの約束をした女、結婚をにおわせニセ貴金属を高額で買わせる予定だった女だ。しかし、今日は予定変更だ。どう考えても目の前の王族と思われる獣人女性の方が金を持っていそうだ。


「ひどい! デートの約束したラグよ! いつまでたっても待ち合わせ場所に現れないから店を探して来たら、そんな女といちゃついているなんて」


「えーっと、どなたかと間違われていませんか?」


「誤魔化すつもりなんだ。女の敵は死あるのみ」


 ラグはそう言って剣を抜いて構えた。しかし、男の方は落ち着いていた。なぜなら、結婚詐欺士にとって婚約した女同士が鉢合わせしたり、その結果殺されそうになったりするのは日常茶飯事なのだ。


「僕が美しすぎるため、またお客様を勘違いさせてしまったようだ。僕は普通に接客しているだけなのに。美しさは罪だなぁ。でも困るんだよね。この際はっきり言っておこう。僕の身は、こちらの女性に捧げると決めているんだ。君は諦めてくれ」


 そう言って、男は王族らしき女性の方を見た。しかし、そこに先程の女性はおらず、居たのは剣を構えた二匹の猫獣人だった。


「いや、こんな子供じゃなくて成人の獣人王族の女性が・・・」


「きっとミキティの可愛らしさに心が惑わされたのにゃ」


「ミミちゃんがドレスの中でミキティを肩車してたのはひみつなの」


 どうやら古典的なカラクリだったようだ。男は罠だと気づき、脱出を試みようとしたが剣を構えた三人に囲まれ身動きできない。そこにセバスチャンを引き連れたヨシオが現れた。


「お前の事は全て調べがついている。諦めたまえ鬼瓦権左衛門」


「その名前で呼ぶのはやめてくれー!」


 男は観念したように、その場でうなだれた。


「女性にニセ貴金属や安物のドレスをブランド品と偽って高く売りつけ荒稼ぎしていたようだな。さらに結婚詐欺の被害者も多数いるようだ」


「しかたなかったんだ!」


 当初は親から引き継いだこの店を順調に経営していた。経営者としてはまだまだ一人前ではなかったがイケメンなおかげで多くの中年女性が顧客として付いてくれたからだ。しかし、グレー商会に商品の仕入れルートを全て押さえられた上、店を続けるためにグレー商会から高額で低品質な商品を仕入れる契約をさせられていた。


「だからと言って詐欺が正当化される事は無いのは分かっている。この店を売って、そのお金を騙した女性にお金を返すよ。どうせまともな商品を仕入れることができないんだ。もう店なんていらない。そして俺は罪を償うため牢に入るよ。それで騙された人達の気も少しは晴れるだろう」


 男はそう言って吹っ切れたような笑顔を見せた。ラグの目がまたハートになっている。懲りない奴だ。しかしイケメンは何をやっても絵になるのだ羨ましい。


「いいだろう。出来る限りの償いをしろ。しかし、牢に入る必要は無い。かと言って、お前を野に放つとまた結婚詐欺の被害者が増えそうだ。だから、お前にお似合いの就職先を俺が準備してやろう」


 男は驚いた顔を見せた後、爽やかに頷いた。

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