4-1話
召喚勇者の俺は、なぜか朝から内職に忙しい。
(シュルシュル、バリバリ、パカ、カリカリ、ペタ)
午前中に銀板ショップ(CDショップみたいな店)に行ってプリンセス娘が出している選挙券付き銀板を249枚購入した。シャム姫から暗に投票しろと『第千二十三回ハートフルピース王国王女選抜総選挙投票用はがき』を250枚を頂いたからだ。
買ってきた銀板のパッケージを開封し、通し番号が記入されている選挙券シールを取り出し、投票用はがきに貼りシャム姫の名前にマークをした×249。また、先日握手会に行った時の半券にも選挙券シールが付属していたので、それも貼ってミケにマークした×1。
「よっしゃー!完成した!召喚されてから初めて必死に仕事をしたような気がする!」
さっさとはがきを投函して今後は女の争いに巻き込まれないよう気を付けよう。しかし、あれから城内の人達にそれとなく聞いてみると、王女総選挙の絡みで被害を受けている人達が何人もいるようだ。無理やりチケットやCD買わされたり、押し変(応援するメンバー変更)を強要されたり、逆に押し変後に元のファンに襲われたり。特に城内においてシャム以外のメンバーに関わることは命の危険が伴う。マジで。皆も気を付けよう。
「てーへんだー!てーへんだー!」
「またか!今度は何ですか?」
いつもの警備兵が俺の部屋に飛び込んできた
「隣国の暗殺者です!堂々と城の正門に来ています!勇者を出せと言ってます!」
「・・・また隣国からの暗殺者か。あいつら毎回懲りないな。王かシャム姫からの指示はありましたか?」
「いえ。王様は散歩に行くと言って、イエローとピンクを引き連れてダンジョンに行きました」
「五人揃った!」
「護衛戦隊ははるか昔から五人と決まっているらしいです」
「そうなんだ!そしてお散歩でダンジョン!魔物がじゃんじゃん出てくるあのダンジョン!」
「ええ、それです。しかもタンクトップと半パンで」
「王様、強すぎ!なぜ俺を勇者として召喚したのか謎です。じゃあ、シャム姫は?」
「シャム姫様は街中に営業に行っています」
「総選挙が近いからアイドル活動で忙しいのか」
「はい、昨年三位だったミケの人気が、ここにきて急激に上昇したとかで怒っておられました」
「やばいな。それは何となくというか、かなり思い当たる節がある・・・」
先日のトップオタの恐怖+シャム姫の説教に比べれば隣国の暗殺者など気分的にはどうってことない。それに、ほら貝印のダイヤモンドシャープナーで武器を研いでかなりの数準備した。また、王が計画的に兵を鍛えている。恐れることはないだろう。大抵の相手なら撃退できるはず。
で・す・が、俺の戦闘力ほぼゼロですから!元コンビニ店員ですから!
戦ったら確実に死ぬ。ええ、間違いなく。ここはうまく誤魔化して戦いを避けねばなるまい。
「俺が出るまでもなく、こちらには十分な戦力があるでしょう?相手は一人だし」
「ところが、今回の相手は魔獣使いです。魔獣を連れてきています!」
「魔獣?ドラゴン!」
「いえ!さすがにそいつが正門で暴れてたら私達はすでにあの世です」
「それもそうだ」
「奴が連れてきているのは魔獣シルバーウルフらしいです」
「ウルフ!狼か!もしかして、やばいやつじゃないのか!」
「シルバーウルフは非常に強く、俊敏で、頭が良い魔獣です。何人もの魔獣使いがシルバーウルフを飼いならそうとして、失敗して殺されています。しかし、シルバーウルフに認められれば最強の魔獣使いとなることができます」
「そうか。でも一人と一匹。兵の訓練にはちょうど良いレベルでしょ。俺が出るまでもないと思うけど」
平静を装いながら心の中で焦っていた。何としても誤魔化して戦いを避けねば!魔獣とか怖いし!
「そうですか。しかし相手の名はイケメン・ブリーダー、女性にも大人気のイケメン魔獣使いとの噂です。ここで奴を倒せばその人気はこちらのものに。つまり勇者様にも女性の人気が・・・」
「俺がやろう。悪は俺が倒す!徹底的に叩きのめすべきだ!」
俺はこの国を守るため命を懸けて戦うことを決意した。決してイケメンを妬んでいるわけではない、女性人気が欲しいわけでもない、決して!
俺は城の正面入口に急いで向かった。
◇ ◇ ◇
「ずいぶん暴れたようだな」
正面入口の門の周辺には多くの兵士達が倒れていた。
「安心しろ。死なない程度に遊んでやっている」
おしゃれな服を着たひ弱そうなイケメンが得意げな顔でそう答えた。あいつが魔獣使いイケメン・ブリーダーのようだ。
よく見ると倒れているのは男性兵士ばかりだ。その横に人だかりができていた。兵達が魔獣シルバーウルフを取り囲んでいる光景が。いや、正確に言えば女性兵士がミニチュア・ダックスフントのような犬と戯れているほほえましい光景がそこにあった。
本当に遊んでもらってるよ! ていうか、戯れすぎて服が犬のヨダレででろでろになっているよ女性兵士!
「あれがシルバーウルフか?」
横にいる警備兵に目くばせしながら尋ねた。
「いえ、私が知っているシルバーウルフとはちょっと違うような・・・ミニチュア・ダックスフントに見えます」
ハイ、ミニチュア・ダックスフント確定です。