16-9話
「お腹空いたの。ペコペコなの」
「ほらほら、こっちにおいで。貴重なサソリの串焼きだよ。こんな砂漠で迷子になって可哀そうに。おじさんが街まで連れて行ってあげるからね」
(ぐふふ、この猫獣人を騙して派遣会社に連れて行けば大儲けだ。前回の獲物は怪我をしていたから評価が低くかったが、こいつは怪我もなく健康そうだから評価はかなり高いだろう。それにしても前回の奴と似た顔だな? 双子か姉妹か? 二匹目がいたとはね。ついてるぜ!)
「ほら、よしよし、いい子だ。さあ食べて・・・ギャーーーー!」
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「ごちそうさまなの。とても美味しかったの」
◇ ◇ ◇
[進捗 100/100]
[子機 修理完了]
[ナノマシン待機中]
新しく手に入れた剣【AiエクスカリバーEX】。こいつがなぜバーコードリーダーの子機なのか、なぜ合体できたのか全く不明だ。しかし、この剣なら戦えそうな気がする。だってエクスカリバーだから。
「ほんと、飾り模様も芸術的だし素晴らしい剣だわ。持ち主が素晴らしくないのが残念だけど」
「残念とか言うな。訓練して使いこなしてみせる。ラグはエルフだから弓が得意なんだろうけど、剣も使えるよな。教えてくれよ」
「無理。私は素手で戦うタイプだから。剣は昔習ったんだけど全然ダメだったのよ。それでも良ければ基本だけなら教えてあげる」
エルフなのに、まさかの格闘派!
「ミキティーが教えてあげるのにゃ。剣は得意なのにゃ」
そう言ってミキティに買ってやった剣を持ってきて素振りをした。
「あれ? おかしいのにゃ!」
右手で剣を振っているが、以前と異なり左手と左目が無いためか、バランスが取れないようだ。振るたびにフラフラして倒れそうになっている。
「ごめんなのにゃ。調子が悪いのにゃ。ヨシオに剣の使い方教えてあげようと思ったけど出来なかったのにゃ」
「いいよ、気にするな」
その気持ちだけでも嬉しい。ミキティは寂しそうに無くなった左腕の方を見ている。何か治療する方法は無いものだろうか。
[治療可否調査しますか?]
[Yes/No]
いきなり眼鏡にメッセージが表示された。バーコードリーダーさんからだよな? こんなパターンは初めてだ。子機を接続して機能がアップしたのだろうか。
なんとなくYesの文字を凝視していると、Yesの文字が反転した。選択されたようだ。
[調査対象 獣人]
[生体スキャン開始・・・完了]
[アクセスポイント検索・・・発見]
[アカシックレコードに接続中・・・接続完了]
[許可レベル10で検索・・・検索完了]
[結果:治療可能、再生可能]
良く分からないうちに色々とメッセージが表示され終了した。アカシックレコードって何? 許可レベルって何? それよりも、これ、たぶん治るってことだよな? とにかく指示にしたがってみよう。部屋ではミキティが再度素振りを始めた。それを心配そうにラグが見ていた。
「ヨシオ、見るのにゃ! だんだん振れるようになってきたのにゃ」
ミキティは俺に見せようと張り切って素振りをしている。確かに先程よりはいい感じだ。さすが猫獣人、身体能力が高い。だが、素人の俺から見ても戦えそうなレベルには見えない。
「ちょっと試したいことがあるんだ。ミキティ、剣を置いてこちらにおいで」
ミキティは素直にこちらに来た。そして、俺はAiエクスカリバーEXを手にし、眼鏡内のメッセージを確認する。
[結果:治療可能、再生可能]
[治療および再生を開始しますか?]
[Yes/No]
「ミキティ。じっとしていろよ」
迷わすYesを選ぶ。
[ナノマシン起動]
同時にAiエクスカリバーEXの表面の模様が消えた。何となくミキティーの方へ模様が移動しているような。あの模様はナノマシンの集合体か?
[進捗 0/100]
[DNAを分析]
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次々とメッセージが流れていく。流れていく文字を見る限り俺の故郷の技術が使われているのは確かだ。つまり、この剣は魔法技術と科学技術を融合して作られたもの。いったい誰が作ったのだろうか。
「あっ! あれ? くすぐったいのにゃ?」
ミキティの左の肩口が金色に輝き左腕が再生され始めた。数分で左腕の再生が終わり、今度は左目のまぶたが輝き始めた。しばらくしてその輝きも治まった。
[進捗 100/100]
[完了]
「ミキティ、ゆっくりと目を開けてごらん」
ミキティの左目は再生されており綺麗な瞳が見える。
「見えるにゃ! 左手もあるにゃ! 治ったにゃ! すごい・・・ヨシオは神にゃ!」
ミキティはその場でまじまじと自分の左手を見つめ、左目の前に自分の手をかざしたりして確認している。ラグは呆然と床に座り込んでいる。
「ヨシオ! 何やったの! 幻覚じゃないわよね! 変な薬を盛ってないわよね!」
「良く分からないんだけど、どうやらこの剣が治療してくれたみたいだ」
「剣が怪我を治すなんて! お伽噺の勇者が持っているエクスカリバーしか・・・もしかしてヨシオが勇者っていう噂は本当だったの?」
「言ってなかったっけ? 別に秘密でもないけど、俺は勇者召喚で異世界から呼ばれてこの国に来たんだ。だけど俺自身は普通の人間だ。特殊能力は無い。ただし、食い物にはうるさい」
「知らなかった。でも納得。だから非常識な治療したり、非常識な商売考えたり、非常識に女性達を働かせて金儲けしたのね」
「非常識なのはしかたないだろ。でも、女性を働かせて金儲けって何だよ! 一部本当だけど人聞きが悪いからその言い方やめて! とにかく俺には勇者としての力は無いんだ。だけど、この世界で役に立つ能力や知識は持っている。そして食い物に対する情熱は誰にも負けない」
「勇者としてその情熱の方向はどうなのよ。とにかく、エルフの私も猫獣人のミキティも別の国から人間世界に来ている。だからヨシオと似たようなもの、似たもの同士だね。これからはお金が必要になったら遠慮せずヨシオから借りることにするわ」
なぜそうなる。そもそもラグが遠慮しているところを見たことは一度も無い。一方、ミキティはラグの横で涙目で左手を見つめている。
「本当は冒険者を続けることを諦めていたのにゃ。だから怪我が治ってとても嬉しいのにゃ。この恩を絶対忘れないのにゃ。今日からヨシオの事はご主人様とよぶのにゃ。しっぽも、ちょっとなら触っていいにゃ」
しっぽの件はよく分からないが、喜んでいるようで何よりだ。
「ミキティの怪我は治ったみたいだけど、リハビリが必要だと思う。だからミキティ、リハビリがてら俺に剣を教えてくれ」
「ご主人様、わかったにゃ!」
ミキティは笑顔で再び剣を手に取った。しばらくはここで情報収集したり、コンビニの手助けをしながらミキティとラグに技術を教えてもらおう。
「ところでラグ、ミキティ、アカシックレコードって知っているか?」
ラグとミキティが顔を見合わせて頷いた。
「勇者のお伽噺に出てくるわ。そして実際にそれは存在している。常識ね」
「ミキティも長老から聞いたことがあるのにゃ」
有名らしい。どうやら知らないのは俺だけのようだ。眼鏡に表示された情報を見る限り、AiエクスカリバーEXはアカシックレコードに接続していた。そこには何があるのだろうか。