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16-7話

 ミキティは風呂から上がってベッドの上でゴロゴロしている。髪の毛もお肌もつやつやになってご機嫌のようだ。痩せているのが気になるが、キチンと食事をすればそのうち標準的な体形になるだろう。問題は無くした左手と左目だ。可哀想ではあるが、この怪我で生きているのだから不幸中の幸いだ。あるいは獣人の回復力が凄いのかもしれない。


「そういえば、ラグの家は商会だったな。店はどこにあるんだ」


「ここの近くの一等地よ。でも、客があまり来ないから今は開店休業って感じよ」


「儲かってないのか。仕事内容は何だ?」


「ここ最近は冒険者に依頼された商品を探して、指定した場所に届けることをやっているわ。届ける品は剣、防具、ポーションなどが多いわね。だけど最近、急に客が少なくなったの。以前は従業員も多く雇っていたけど皆辞めて行ったわ」


 ネットショップに宅配便を合体させたような感じかな。


「何か問題があったのか?」


「大手の商会がうちの商売の真似て近所に進出してきたの。頑張ったけど大資本には太刀打ちできないわよね。従業員を引き抜かれ常連客もかなり奪われたわ。今はなじみの客相手に両親が細々と商売しているだけ。その両親も歳をとっているから続けるのが難しくなってきているの。やっぱり、公務員が一番よ」


 大手の商会か。故郷でのコンビニ戦争を思い出すなぁ。チェーン店の仲間達も、大手チェーン店に何店も潰されたもんな。同じように、ラグの父の商会は立ち行かなくなるだろう。できれば現店舗で老後も商売できれば良いと思うのだが・・・そうか! これだ!


「俺が考えている商売があるんだけど、ラグの両親に協力してもらえないかな」


「何をやるつもりか知らないけど、どうせ暇だと思うから直接話をしてみて。今なら家に居ると思うけど」


 近所に店舗兼住宅があるということなので、ラグ、ミキティと一緒に訪ねてみることにした。


「ここよ」


 ラグの両親の店舗は大通りに面した立地の良い場所にあった。だが、店舗に明かりは点いていない。一方、道を挟んだ反対側には派手派手しい店がある。あちらが大手ライバル商会の店舗らしい。


「いらっしゃいま・・・ラグドール! もうクビになって帰ってきたのか!?」


 ラグの父親のようだ。目に生気がなく、元気が無さそうに見える。ミキティはリュックに興味があるのか、どう考えても売れそうにない山積みの中古バッグコーナーで熱心にあさり始めた。


「この街の人達はなぜ私がクビになって帰ってくることが前提なのでしょうか。お父様、私はお仕事で立ち寄ったのです。こちらは新しく自治区の領主になられたヨシオ様、こっち、あれ? あっちが冒険者のミキティ。ヨシオ様が商売の事でお話があるそうです」


 領主と紹介したので、ラグの父は驚いてしばらく動きが止まっていた。


「失礼しました。領主様自ら足を運んで下さりありがとうございます。私はラグドールの父のラクダドールと申します。娘がお世話になっております。どうぞ、こちらの椅子にお座りください」


 俺達は椅子に座って話を始めた。ミキティは気に入ったリュックが無かったようで、こっちに戻ってきて俺の膝に座った。


「俺は貴族じゃないので、どうぞ気楽に。実はこの街に新しいタイプの店を作ろうと思っているんだ。できれば立地の良いこの店を改装して、あなたに運営してほしいと思っている。改装資金と当面の給料は俺が提供するので協力してくれないだろうか」


 ラクダドールは難しい顔をした。


「お話は有難いのですが、実はこの店は売ろうと思っているのです。まだ決めたわけでは無いのですが」


 ラグが焦って父親に詰め寄った。


「どうして! この店を売ってどうするのよ! 父さん、他に何の仕事ができるのよ!」


「向かいの大手商会がこの店舗を売ってくれと言うんだ。もし店を売ったら、あっちの商会で私を雇うと約束してくれたんだ。だから大丈夫だ」


「何言ってんのよ! 雇った後ですぐクビにすることもできるのよ! この店だって安く買いたたかれて転売されるだけかもしれないわ! 何より、あんな卑怯な奴らの下で働くことを納得できるの?」


 ラグの父親から詳しい経緯を聞く限り、典型的な地上げ屋の手口のように思える。そして相手は商会と言っているが実質的には不動産会社のようだ。後でマドギーワに聞いてみよう。ちなみにミキティにとっては難しい話だったようで、開始一分ですでに寝ている。


「じゃあ、俺が私費でこの店を買うことにするよ。そして、俺が形式的には経営者となって、改装してラグの両親を雇うことにする。儲かったらこの店を俺から買い戻せばいい。それならいいかな? 今考えている店は、どうしてもこの街に必要なんだ。そしてあなたなら必ず新店舗を軌道に乗せられると俺は確信している」


 ラクダドールは何度も頷いた。


「ラグの上司であり、領主様が期待して下さるなら私は残りの人生をかけて頑張りたいと思います。ぜひお願いいたします!」


「確かにヨシオは金持ちだからこの店を買うくらいは大したこと無いわよね。でもいいの? 儲からなかったら今度はヨシオが損をするのよ。まさかとは思うけど、親の責任を私に押し付けて、私をモノにしようとしてもダメだからね」


「ラグの事は全然、全く、これっぽっちも、ミジンコも狙ってないから安心しろ」


「ちょとくらい狙いなさいよ!」


 どっちなんだ。だが新しい店に関しては大丈夫だ。勝算はある。なにせ何十年もやってきたノウハウが俺にはあるからな。


「ここに新しくオープンさせる店はコンビニエンスストア、略称コンビニだ!」


「「コンビニ?」」


「ああ、専門店ではなく小さな百貨店ってところかな。コンビニで売る商品はこの街にある売れ筋商品だ。専門店の店頭で仕入れて専門店より高く売る」


「ちょっと待ってよ。専門店より高いのにどうしてそれが商売になるのよ。皆、安い方で買うに決まっているわよ」


 ラグが真っ当な指摘をした。


「今朝、ミキティの服とか色々と買いそろえるために専門店を巡ったよな。確かに専門店は品ぞろえが豊富だ。色々選べる。だが、普通の人達が買うのはほぼ売れ筋商品だ。だから各種の売れ筋商品だけを集めた店を作るのだ。その店こそがこの街のコンビニだ!」


「なるほど! そうすると専門店をめぐる必要が無く、その店で全て揃うわ。時間も手間も節約できるから、便利だから、他店よりも少々高くても商品を買ってくれるかも!」


「しかし専門店の売り上げを横取りすることにならないでしょうか?」


「確かに。専門店から嫌われるかな?」


 父娘が心配するのは当然だろう。


「この商売で重要なのは立地と商品の仕入れルートだ。立地は申し分ないが、仕入れルートはまだ準備ができていない。当面は店頭価格で専門店から商品を買うことにする。なに、儲かると分かると仕入れ先の方から売り込みに来るだろう」


 父娘はまだ納得していないようだ。


「コンビニで売る商品は、店頭価格で近隣の専門店から仕入れるから専門店は普通に儲かるだろ。もっと安く買いたい、あるいはもっと別の商品が欲しい客は専門店に行って買えばいい。特に立地の悪い専門店の商品や新発売の商品にとって、このコンビニは立地が良く人目に触れやすいので良い宣伝になる。俺の試算ではコンビニは儲かるし、専門店はさらに儲かる」


 ラクダドールが目を見開いた。新しい商売のシステムを目の当たりにして商売人の血が騒ぎ始めたようだ。


「わかりました! 何だか若い頃を思い出しました! コンビニは世界を変える! 一号店はここだ、誰にも渡さない! こうしてはおられん! コンビニで売れそうな売れ筋商品のリストアップをするぞ! かあさーん、商店街のリスト持ってきて!」


 ここはラクダドールに任せて良いだろう。売れ筋商品リストができ、専門店から仕入れ可能になったら店舗改装を行おう。

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