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16-5話

「お話は城の方から聞いております。この度はわざわざこの自治区のためにありがとうございます。早速ですが、ツツゴウ様の冒険者カードをこれから作ります」


 そう言って、俺にカードを渡してくれた。薄い木で出来ている。名前、人種、ランクのいずれも空欄だ。


「このタブレットの上にカードを置いて、上に手をかざしてください」


 言われた通りにすると、しばらくしてタブレットから「ピンポーン」と音がした。


「出来ました。カード表面をご確認ください」


「ツツゴウ・ヨシオ、人間?、ランクFか」


「冒険者の実力と実績に合わせてランクが決まります。ランクは上からS>A>B>C>D>E>Fとなります。初回登録時は必ず最低のF、木のカードから始まります。それにしても人間?は初めて見ました」


「と、とりあえず冒険者カード作成ありがとう。ラグはすでに冒険者カード持っているよな。見せてくれ」


「え、いや、見せるほどのモノでは無いですし・・・そうそう早く宿に行かなきゃ」


 明らかに誤魔化そうとしているのが見て取れる。


「この後パーティー組んで、危険な地帯を抜ける必要があるだろ。実力が分からないと困るじゃないか」


 そこで、ギルマスが言った。


「ショコラな妖精・ラグドールちゃんはランクAです。自治区においては超有名な冒険者ですよ。彼女がいれば安全に行動できるでしょう。ご存じで彼女を護衛に選ばれたのかと思いましたが」


 まさかの実力者! 単なるコスプレ女じゃなかったのか。


「まじか! 早く言えよ! というか、諦めてさっさとカード見せろ」


 ラグはしぶしぶカードを出した。


「おお、これがランクAのカードか! 銀色だカッコイイ! さすが高ランク冒険者って感じだよな、そして種族がエルフ、名前がショコラな妖精・ラグドールちゃん! 『ちゃん』までが登録名なんだ! ぷぷ、すげえ」


「いま笑ったでしょ! それに驚くのはそこじゃなくって種族のところでしょ! あのめったに人前に姿を現さない少数民族エルフ、森の引きこもりのエルフがここに居るのですよ!」


「異世界にエルフが居るのは当たり前じゃん何言ってんの。俺なんか人間?だよ。何だよ『?』って」


 ラグはヨシオが異世界から召喚されたことを知らなかった。だから未だに勇者を名乗るコスプレ詐欺男だと思っている。


「た、確かに、人間?よりはエルフの方がマシに思えてきたわ。というか、あなたといると種族などどうでも良くなってきたわ」


「よし、これで今日の仕事は終了だ。しばらくこの街で調査してから砂漠を渡ろう。マドギーワさん、明日からよろしく。それと、ちょっと聞いていいですか? マドギーワさんはなぜここに・・・」

 

「私のような者がなぜギルマスやっているのかとお思いでしょう」


「い、いや、そういう訳では」


「いいんです。よく言われますから。この国の冒険者ギルドっていうのはこの地域で仕事を探している人達に仕事を紹介する組織なのです。以前は職業安定所とかボンジュールワークとかいう組織でした。つまり城の出先機関であり、私は冒険者ではなく出向した公務員なのです。ちなみに砂漠の先にある冒険者ギルド中央店のギルマスはカタタターキです。彼にも今回の事は伝えてあります」


「事務官がギルマスやっているわけか。ラグが人事異動を警戒するわけだ。でもここの責任者だから給料もいいし偉いんだろ?」


「実際のところ王城から責任は押しつけられるし冒険者からはつるし上げられるし給料には見合いません。一般的な公務員でギルマスをやりたがる人は居ないでしょう。本当は公務員であり冒険者ランクAのショコラな妖精・ラグドールちゃんのような方にやって頂くのが良いと思うのですが」


「嫌よ! 私は都会派OLを目指しているのよ。そしてOLをやりながらプリンセス娘のオーディションを受けるんだから! ギルマスなんて絶対にやらないからね!」


 俺とマドギーワは生温かい目でラグを見た。


「何よその、痛い娘を見るような視線は! もう、用が無いなら宿へ行きますよ!」


「ヨシオ様に来て頂いて、この自治区でも美味い飯が食えると確信しております。そして、どうやら私にも運が巡ってきたようですね。今後ともよろしくお願い致します」


 話を終えてマドギーワは元気になったようだ。運が巡ってきた? きっと俺の人徳、いや料理の手腕かな。


 俺とラグは冒険者ギルドを出て宿泊予定の宿『うさぎのしっぽ亭』に向かった。宿はすぐ近くにあった。この辺にしては珍しい三階建ての石造りの建物だ。宿に入ると豪華な受付カウンターがあった。室内は間接照明で心地良い雰囲気を醸し出している。かなりの高級宿のようだ。品の良さそうなおばさまが受付をしていた。


「おや、ショコラな妖精・ラグドールちゃんじゃないか。もしかしてもう城をクビになったのかい? 可哀そうに・・・仕事が無かったらうちで雇ってあげるからね」


「おばちゃん、ありがとう。でも、クビにはなっていませんから。それに前から言っていますがラグって呼んで下さい。今日は仕事で来ました。ヨシオ、カード出して。冒険者カードじゃなくって城から渡されている身分証明カードの方。職員が公務で宿泊すると二割引きになるのよ。お得でしょ。ちなみに噂では王家のカードなら十割引きらしいわよ」


 そう言って、ラグは自分の身分証明カードを出した。文字が書かれた紙に写真が貼られラミネートされている簡素なカードだ。冒険者としては一流だけど、公務員としてはまだ新入職員だからな。しかし、なんとなく俺のカードはあまり見せたくない。いや、見せてはいけない気がする。十割引きの予感がする。


「ヨシオ! 早くカード出して。手続きできないでしょ」


「え、いや、見せるほどのモノでは無いですし・・・そうそう早く食事に行かなきゃ」


「何言っているのよ! 後の事務手続きが面倒になって私が困るのよ! さっさと身分証明カード出して」


 俺はしかたなく王から直々に渡されたカードを出した。


 それを見て宿のおばちゃんもラグも目が点になって固まった。おばちゃんは仕方ないとしてもなぜラグが固まる。


「「こ、これは・・・プラチナゴールドカード! 王家のカード!」」


「ほ、本物!? 私初めて見た。これ十割引きのやつよね! ちょっと裏を確かめてもいい? 確かにヨシオの名前が書いてあるし、斜めに光を当てるとヨシオの顔写真が表示される。本物だわ。あんたいつから王家の人になったのよ!? もしかして王の娘のロッソちゃんと入籍したの? しかも、ここに王の代理人の刻印がついている!」


「俺は王家の血縁者ではないしロッソと入籍もして無いぞ。王から仕事のために渡されただけだ。それで王の代理人の刻印って何? 確かに王からは好きにやれって言われたけど」


「それどんな意味か分かっているの!? ダンジョン自治区で王の代理人ということはヨシオがギルマスの上司であり、長年空席だったこの自治区の領主という意味よ!」


「何だって!?」


 くそぅ、ヒツジキング三世に騙された! マドギーワも知っていて知らんぷりしてたな! ちょっと役立つカードを預かったくらいのつもりだったのに! 責任重大じゃないか!


「こうしちゃいられないわ! 貴賓室を準備いたしますので領主ヨシオ様、今しばらくお待ちくださいませ! 社長ーー! 領主様がぁ」


「いや、いいから! 普通の部屋で、ラグの部屋の近くでいいから! 社長も呼ばなくていいから」

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