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16-2話

『ハートフルピース王国ダンジョン自治区の食糧事情改善』


「食料のことなら貢献できるかも」


 どうやら、この自治区には農業に適した土地はほとんどなく、魔獣はいるが食べられるような家畜はいない。そうなると自治区の外から食べ物を持ち込むしかない。しかし干し肉など日持ちのする食べ物は美味しくないし、新鮮な食べ物は高価だろう。なんとか美味しい飯を安く食べたいという切実な要望が冒険者達の願いのようだ。


「でも場所がダンジョン自治区? どこだろう。確かここら辺に地図があったような」


 部屋の中に設置されていた本棚から地図を見つけ出した。さっそく机の上に地図を広げた。


「うーん、やっぱヨーロッパだよな」


 何となく分かっていたが、この異世界、俺のいる付近の地形はヨーロッパに似ている。ドイツ下からイタリア半島にかけてがハートフルピース王国。イタリア半島はここではナガグツ半島と呼ばれている。


 ハートフルピース王国を中心として上側のドイツ付近がキタノオンセン帝国、左側のフランスあたりにニシノリゾート共和国がある。


 そしてハートフルピース王国の右側、東欧のあたりにダンジョン自治区があるようだ。しかし、料理人を連れて行けば干し肉でもそこそこ美味しく調理できそうだが何か問題があるのだろうか。地図の上にバラの花びらがはらりと落ちてきた。


「ダンジョン自治区は危険なのよ。あなた一人なら確実に死ぬわ。行くならサポートメンバーが必要ね」


 そう言いながらシャム姫のマネージャー=スワン王妃が部屋に入ってきた。スーツ姿だ。


「スワン王妃!」


「今の時間はシャムのマネージャーよ。ノックしても応答が無かったので勝手に入ってきちゃったわ。シャムを探していたのよ。ここで寝ていたのね。幸せそうに寝ているみたいだからしばらくそのままにしておきましょう」


 スワン王妃はそう言ってシャム姫の頭を撫でた。


「ダンジョン自治区はそんなに危険なところなのですか」


「ダンジョン自治区のほとんどは砂漠とジャングルなの。道を作ってもすぐに砂漠やジャングルに覆われる。道なき道を進む必要があるのよ。そして普通に魔獣がウロウロしている。さらに砂漠やジャングルの中に点在しているダンジョンの中にはより狂暴な魔獣がいるの」


 ダンジョン! これこそ異世界! これまで命の危険を感じたのは女性関係ばかりだったけど、やっと異世界に来たっぽくなってきた。


「ダンジョンと言えば、やはり魔石や宝箱ゲットですよね!」


「えっと、ダンジョンの中からは遺跡、魔道具や魔動機械が発見されるわ。ほら、あなたも知っている魔動馬車や魔動携帯電話などもダンジョンから発掘されたオリジナル遺跡を解析・コピーして作られたのよ」


 女神の盗撮写真もこの自治区で発見されたのかも。他にも女神お宝写真が眠っているいるに違いない。がぜんヤル気が出てきた。


「ところで自治区の中に街はあるのですか?」


「人が住めるのは砂漠とジャングルの境界にあるわずかなサバンナ地帯、自治区のほぼ中央にあるの。小さな街ができていて、ほとんどの冒険者はそこに拠点を構えているわ。そして美味い食べもをの食べたいと言っているのはその拠点に居る冒険者達なの。だけど冒険者のガラは悪いし、危険な場所だし、普通の料理人が行きたがらないのもわかるでしょ」


「確かに、料理よりも自分の命の方が大切です」


 命をかけて店を開くやつはほとんどいないだろう。居たとしても、元冒険者くらいか。しかし、だからこそ俺ならできそうな気がする。


「もしダンジョン自治区に行くならハイレベルな武器類を準備した方が良いわ。シバに尋ねると良いでしょう。それから、『始まりの街』で冒険者ギルドに登録し、サポートメンバーとして道案内兼護衛を雇うのがよいでしょう」


 冒険者ギルド! 異世界のお約束でガラの悪い冒険者にからまれたりするのだろうか。そして猫耳美少女が新ヒロインとして登場するのだろうか。楽しみだ。


「しかし、どうしてここは自治区なんですか? 地図を見る限りハートフルピース王国の一部のようですけど」


「昔はダンジョン自治区内にハートフルピース王国の首都があったのよ。でも、気候の変動で首都が急激に砂漠とジャングルに覆われ始めたの。それで、数百年前に首都をこっちに移転したのよ。元の首都は砂漠の下と森の中に遺跡として残っていてダンジョンの一部となっているわ。管理も面倒だし、そこに居るのもダンジョン目当てな冒険者ばかりだし、王国はその地域の管理を冒険者ギルドに移管したのよ」


 ダンジョン自治区はハートフルピース王国の一部ではあるが、実質的には冒険者ギルドが支配する別の国と思った方が良さそうだ。そして、俺はそこで生まれ変わるのだ。今まではプロローグに過ぎない。これから本当に異世界の俺スゲーが始まるのだ!


「勇者の俺スゲーが始まるなんて思ってないでしょうね」


「な、なぜそれを!」


 いつの間にかシャム姫が目を覚まし、俺の心を読んだかのように指摘した。


「ヨシオは弱いんだから無理しないでよ。今のままでいいんだから。もしヨシオに何かあったら・・・私・・・」


 シャム姫! そんなに俺のことを。新ヒロインに期待なんかしてすみませんでした! 俺は猛烈に反省した。これからはシャム姫様だけが俺のヒロイン、もう他の誰にも惑わされない。


「ヨシオが居ないとダメかもしれないの! ヨシオだけに期待しているから!」


 シャム姫はどこから取り出したのかプリンセス娘総選挙はがきの束を俺に恥ずかしそうに渡して去って行った。スワン王妃もシャム姫を追いかけて部屋を出て行った。


 たぶんそうじゃないかなとは思っていましたが、恥ずかしそうに渡す理由がよくわからない。いや、もしかしたら「※※※が居ないとダメかもしれないの! ※※※だけに期待しているから!」と言って総選挙はがきの束を恥ずかしそうに渡すまでが一連のパッケージなのかもしれない。でも、頼られてちょっと嬉しいので百票くらい投票しておこう。

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