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3-4話

「えっ?」


 目の前のプリンセス娘のメンバーが握手をしながら言った。


「さっきは、ありがとう!」


 手を離し投げキッスしてさらに手を振りながらステージに向かって行った!


「かわいい!あの体のふっくら感、前髪ぱっつんセミロングの髪型、そしてピンク色の唇!どこかで見たような、はっ!」


 あのぽっちゃりさんは、天ぷら定食を一緒に食べた田舎娘!彼女こそが、トラブルの原因となった、俺が軽くディスった三位のミケだった。アイドル仕様になった実物のミケさんはかなり可愛い!田舎娘どこ行った?って感じだ。


 ふいに殺気が!暗殺者か!俺は我に返った。ステージ最前列の方から強烈な殺気を感じる!そこには血の涙を流し、ペンライトよりも赤い憎悪の眼差しで俺を見ている集団がいた!


 ミケのトップオタ集団だ!


 その瞬間、俺は死を覚悟した。スポットライトが俺にも当たっていたから誤魔化せない。ここは撤退だ、うん!命は大切。外に出よう!今なら逃げ切れる!後部出口に向かおう!俺は後ろを向いた。


「あとで話を聞かせて頂くわ、勇者殿」


 シャム姫がボソッとつぶやきながら、そして冷たい視線を浴びせながら、俺の側をゆっくりと通過していった。さっきのミケとのやりとり見てましたよね、確実に。


 時間が止まる感覚ってこうなんだ。急に冷や汗が。足もガクブルしてきました。 


 その後、シャム姫は笑顔でステージに上がった。笑顔なのに殺気が!やばいよ!一番やばいやつ!逃げることができなくなった!冷や汗をかきながらバーコードリーダーをペンライトのように振ってとりあえずシャム姫を全力で応援することにした。


 ミニコンサートは三曲だけのようだ。歌ったり踊ったりしながら、やたらと俺の方に手を振って、時折投げキッスをするミケ!それを冷ややかな目で見ているシャム姫とミケのトップオタ集団。喧嘩をやめて下さいーー!二人を止めて下さいーー!俺のライフはもうゼロよーー!俺の願いに反して状況は銀板ショップ以来、どんどん悪化している。


 そうこうしているうちコンサートは終了したようだ。周りでファンがしゃべっている。


「今日のシャム様、いつもよりクールな感じでかっこ良かった!」


「美人の冷たい目線っていいよね!」


「目で殺されるって感じでゾクゾクする!」


 俺にはそんな趣味は無い。命大切。


「ミケちゃんの髪型が変わって美人になったでござる!」


「ピンク色の唇が可愛らしかった!ミケちゃん押しに変更しようかな」


「あの、ほんわかした感じ、それから放たれる投げキッス!凶器ですな!多くのファンが彼女にメロメロですな」


 張本人の俺が術中に落ちてメロメロです。アナウンスが流れる。


「ミニコンサートは終了です。これから握手会に移ります。ステージ正面、チケットに指定してあるメンバーのレーンに並んでください。なお、セキュリティの関係上、会場出入口は全て封鎖しています。メンバーと握手後に、ステージ横の出口からのみ退出できます。ご協力をお願いします!」


 逃げ道塞がれた。


 もはや逃亡は許されない。握手会はステージ前に机を並べたオープンスペースで行われるようだ。昨年一位のシャム姫を中心に、左に二位、右に三位と交互にレーンを設けている。したがって、シャム姫とミケが並んでいる。オープンなので隣が丸見えだ!なのに、


 俺はミケのレーンに並んでいる。


 すでにシャム姫のチケットは完売してたからしかたなかったんだ!俺は目でシャム姫に訴えたが当然、伝わるわけはない。そしてレーンの先頭の方と最後の方はトップオタ集団がキープしている。


 完全に囲まれているよ!


 次々と握手が進み俺の番が近づいてくる。チケット一枚で十秒くらいのようだ。先ほどから隣のレーンのシャム姫から視線を感じる。握手と握手の合間にチラッと冷たい視線を感じるのだ。


 なぜ隣のレーンにお前がいるのかと言わんばかりに!


 ここは、無難に終わらせ、城に帰ってから説明しよう。そうだ、逃げずに初めからそうすれば良かったのだ!順番が来た。おれは堂々とミケと握手をしようと手を差し出した!


「お疲れさ「ありがとう!自信が持てるようになったわ!私!逃げずに頑張るから!(がばっ!)」」


 ミケは突然俺に抱きついた。


「ファンによる羽交い絞め事案が発生!警備員はミケレーン集合!」


 警備員によって俺は取り押さえられた。シャム姫様は俺を無視して握手会を続けている。女子怖い。


 別室に連れて行かれ、三時間ほど取り調べが行われた。なんとか、俺への誤解は解けて解放された。公式発表では、ミケがよろめいたところを倒れないよう支えた、ということになっているようだ。関係者が話し合ってそう決めたのだろう。シャム姫の陰からのサポートもあったらしいと城の関係者から後で聞かされた。


 疲れ果てて、デパートの裏口から出ると、そこには馬車に乗ったシャム姫と教育ママのような女子マネージャーがいた。シャム姫が言った。


「別に待ってたわけじゃないからね!なにボーっとしてるのよ!あんた馬鹿!早く乗りなさいよ!」


「シャム姫様ってこんなキャラでしたっけ!?」


「うるさいわね!芸能界は色々と大変なのよ!」


「シャム様はツンデレキャラが売りでございまして、コンサートやイベント後しばらくはいつもこんな感じです。そのうち元にもどりますのでお気になさらずに。一緒に城までお送りしますので乗ってください」


「わかりました。ありがとうございます」


 しかし、俺は恐怖で震えていた。城まであの冷たい視線に耐えられそうにない。どうやって説明しようか。


【スキル】[コンビニ]発動。


 キターーーーーー!!!


「あ、ちょっと待ってください」


 今こそ頼むぞ[コンビニ]!俺は馬車の陰で左手に浮かんだバーコードにバーコードリーダーをかざした。


「ピッ!」


 俺の手のひらに紙袋に入った何かが転送された。俺は瞬時に中を確認してシャム姫に紙袋を渡した。


「シャム姫様。これをどうぞ」


「何よ?こんな紙袋・・・こ!これは噂に聞くシュークリーム!『天ぷらキング』で売っている一日限定二十個の幻のケーキだわ!しかも!二十個あるわ!」


 有能な俺のスキル[コンビニ]が今話題のスイーツを取り寄せたらしい。もちろん俺の居た日本のコンビニから時空を超えて。助かった!ありがとうバーコードリーダー!ありがとう故郷のコンビニ!


 俺は馬車で城まで一緒に送ってもらう間に事の顛末を説明した。呆れられながら、そしてツンデレキャラのシャム姫に説教されながら。


 その後、城でシュークリームを一緒に食べながら和やかな時間を過ごしたのであった。

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