1-1話
「ふふふ、見て見て!ジャーン!なんとカカオ90%のチョコだけ使った松花堂弁当です!」
もはやバレンタインコーナーにあるチョコ詰め合わせだよ!
「私のも凄いわよ!調味料さえも不使用!正にタンパク質100%!ささみ&プロテインパウダーのシチューよ!」
すでに匂いがシチューでない何かだ。機能性を追求しすぎて薬のレベルだよ!
「二人とも斬新、チャレンジ精神も凄いです・・・う、売れるかなぁ」
「「売れるわよ!」」
チョコレート好き女子高校生の天井千代子(あまいちよこ、17歳)さん、マッチョ大好き会社員の筋肉好代(すじにくすきよ、29歳)さんと一緒に俺は新作の弁当の打ち合わせをしている。
二人とも近所に住んでいて、よく俺の勤めているコンビニを利用してくれるのだ。仲が良くなって、最近は弁当のプロデュースまで手伝ってくれている。
天井千代子さんはショートボブとミニスカートの似合う今どきの女子高校生だ。ラノベ好きのオタクだがメガネを外すとアイドル顔負けの可愛らしさだ。俺が良い娘に育てて嫁に頂く予定だ(妄想)。
筋肉好代さんは一流企業お勤めの会社員だ。スポーツをするのも観戦するのも大好きな美人OLだが、胸元やら太ももやら露出が多いのでいつも目のやり場に困る。もちろん、こちらも嫁に頂く予定だ(妄想)。
個人的にはどっちの女性も大人気・・・どっちの新作弁当も大人気メニューになることは予想できる。すでに彼女達プロデュースの弁当はリピート客が先を争って買いに来る。
ちなみに今売っている彼女達の弁当はこれだ。
「近所の女子高校生監修の毎日食べられるチョコレート弁当」500円
近所に住んでいるチョコレート好きの女子高校生の天井千代子さんに協力してもらい、安くて美味しい各社のこだわりチョコレート&チョコレート菓子をおかずとして詰め込んだ弁当。ご飯の代わりにチョコフレークやチョコポテトチップス等が入っている。毎日、チョコレートの種類、組み合わせが変わる日替わり弁当で、女子高校生に大人気だ。男子にはお勧めしない。
「焼!激!熱血!マッスル弁当」1,000円
鳥のささ身の素焼き、鳥のささ身の激辛カレー焼き、鳥のささ身のトマト煮がセットになったマッチョな男達とマッチョな男性好きな女子に人気のプロテインだらけ弁当。ご飯の代わりにプロテイン飲料(500ミリリットル)が付いている。考案したのは近所のマッチョ大好き会社員の筋肉好代さん。
量産できず、すぐに売り切れてしまうのが悩みの種だが。
「オリジナル商品は利益率が高いから、今後も増やしていきたいなぁ・・・」
今日も俺はコンビニでバイトをしている。地方ローカルのこの弱小コンビニチェーンで働き始めて十八年。
周りの弱小コンビニが大手コンビニの参入によって潰されていく一方で、ここのコンビニは潰れずに続いている。それもこれも俺様のおかげだ。
俺は都合が良く便利な男なのだ。いつも暇なのでシフト変更いつでもオッケー!苦情対応は、お話を聞くだけの簡単なお仕事です。また、長年やっているので店の商品は全て把握している。店長代理としてこの店だけでなく、他店の仕入れなども行っている。そんなバイトリーダーだ。
また数は少ないが、過去の交際した女性からも頼られたものだ。毎日飯をおごったり、職場まで車で送り迎えしたり、コンサートチケット買うために彼女の代理で並んだり、料理を作ったり食べさせてあげたり、彼女の家を掃除したり、ゴミ捨てに行ったりと色々と重宝されたのだ。俺は都合が良く便利な男なのだ。ふふふ・・・ふぅ。
「無限野さんはまだかしら?今回もたぶんすごい味よ!」
「ああ、想像するだけでお腹が鳴ります。早く試食したいです!」
OLの筋肉さんと女子高校生の天井さんが待ち焦がれている無限野さんは、このあたりでは妖精とか仙人とか呼ばれている89歳のばあさんだ。本人が女子会(老人会)で近所の女子(老人)と長年に渡って手作り料理の試食会をして改良に改良を重ねている。その味は異次元だ。
ちなみにここのコンビニに置いてあるオリジナル弁当の中で最も人気があるのは当然ながら無限野さんの弁当だ。
「女子会プロデュース 女子手こねハンバーグ弁当」1,200円
数十年に渡って改良が加えられてきた非常にジューシーな手こねハンバーグが人気の弁当だ。何より女子が作ってくれていると聞くだけで独身男性には嬉しいだろう。作ったのは近所に住んでいる女子 無限野玲詩妃さんだ。
「早速、始めているようじゃな」
無限野さん登場!
「「「こんにちわ!」」」
「ほっほっほ!新作のハンバーグを持ってきたぞ」
俺達のいるカウンター奥の控室に無限野さんが入ってきた。そして手に持っていたタッパーのフタを開いた。
「なんだこれは!単なるハンバーグなのにキラキラしてるよ!」
「美味しそうな匂い!なんだか意識が遠のいていきます・・・」
「なぜ!タッパーの中なのになぜかジュージューと肉が焼ける音がします!」
三人がうっとりとハンバーグを見つめていると、突然、携帯電話の緊急警報が鳴った!
『ピンポンパンポン、緊急警報。時空の歪みが発生しました。付近の住民は3秒以内に落ち着いて避難・・・』
なにそれ初耳の緊急警報!
「どうしよう!」
「私のチョコがー」
「せっかくのささみーがー!」
「わしの究極のハンバーグがー!」
(ドォーーーン!!!!)
落ち着いて避難はしようとしたが、間に合わず爆音とともに目の前が真っ白になり、そして真っ黒になった。俺の勤めるコンビニにピンポイントで歪みが発生したようだ・・・
◇ ◇ ◇
「成功しました!」
「やったー!」
「でかしたぞ!」
目が覚めると俺は石造りのベッドの上で白い布を体にかけられて寝ていた。周りには煙が立ち込めている。俺の体は金色に光っているが、徐々にその光は弱くなり、やがて消えた。
「えーっと、確かバイト先のコンビニで時空の歪みに・・・」
右手にはコンビニのレジで使っていたバーコードリーダーが握られている。しかも先だけでケーブルは繋がっていない。なのにスイッチを押すとバーコードリーダーの先が赤く光った。
「うわぁ!敵ではない!勇者殿!武器をお納めくだされ」
側で男が何か言っている。うん、正常!ケーブルは繋がっていないのに稼働している!さらに俺のかけていたメガネの内側に文字が表示された。
【性別】男
【種別】人
【年齢】180歳
【レベル】C
【スキル】[召喚]
これって、側の男の情報のようだな。バーコードリーダーの光が当たって情報が読み取れたようだ。バーコードリーダーとメガネが連動してる?それ以前にここはどこなのだろうか?
「すみません。ここはどこですか?もしかして俺は死んだと思ったけど生きてたのかな?病院?医者じゃなさそうだし。怪我もないけど?」
「あなたは異世界より召喚されました。ここはハートフルピース王国です。お願いです、私達に協力して下さい!」