5丁目の高校生 シオン
僕は勇者に憧れている。
というかなりたいと思っている。
昨日、商店街でばったりゲンジさんに会った。
3日前に異世界から帰って来たばかりらしい。今は本職の営業マンに戻っているらしく、今から得意先回りだと言っていた。二足の草鞋は大変そうに見えるのだが、本人はとても楽しそうに話していた。
どうやったら勇者になれるのかゲンジさんに聞いてみたけど、こちらからなりたくてなれるものじゃないらしい。
そういうことを決める管理者的なものでもいるのだろうか。
とにかく僕は、勇者として異世界に召喚されるのを待ち続けている。
なぜこんなに勇者に憧れるのか。
それは、巷で流行りのネット小説を読んでチートになりたいと思ったのが一番の理由だ。チートになって異世界の女の子からモテたい。ハーレム状態になりたい。
ぶっちゃけただの下心だ。
現実世界では、クラスの女子から「イケメンのくせにヲタクとか。残念過ぎる」とよく言われる。そう、僕は二次元に出てくるような女の子が好きだ。とくにファンタジーもの。エルフや妖精、獣人とか。
猫耳の獣人の女の子とモフモフしたり、幼女の姿をしたオートマタに甲斐甲斐しく身の回りの世話をしてもらったり、美しいエルフのお姉さまの豊満な胸に顔を埋めたり、ツンデレな可愛い妖精といちゃこらしたい。
とにかく、異世界の可愛い女の子たちときゃっきゃうふふしたいのだ!
まあ、勇者になったからと言って出来るとは限らないけど。
勇者になったらずっと異世界で暮らしたいと思うほど、ファンタジーな世界に対して僕の欲望がとまらない。
そう思っているのだが。
17年生きてきて未だに勇者になれる気配がない。
20代でなった人もいるから、まだまだ諦めるのは早いけど。
「はぁ~。勇者になりたい…」
「お前まだそんなこと言ってんの?」
「きゃっきゃうふふしたいんだよ、俺は」
「三次元の女の子と合コンしようぜ」
「三次元の女子は求めてない」
「なんだよ、異世界行ったらそれこそ二次元じゃなくなるだろ?」
「いいんだよ。ファンタジー要素満載だから」
「イケメンのくせにもったいねえよなあ」
「そのイケメンの定義を俺に当てはめるのやめてくんない?」
「あははは!だな」
「はあ~」
「おーい、シオン。3組の女子がお前を呼んでるぞ」
「お!また告白タイムか!?」
「お前、すげえ楽しそうだな…」
「まあな。他人事だし」
「チッ」
「ほら、行けよ。待たせちゃ悪いぜ?」
「別に俺が呼び出したわけじゃないから。むしろ行かなくていいだろ」
「まあまあ、そう言うな。もしかしたらお前好みかもしれねえじゃん」
「それはない」
「おーい、シオン!呼んでるぞー」
「はあ~。わかったー今行く」
「頑張れよ、残念なイケメン!」
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「何の用?」
「あの、3組の百瀬と言います。私と付き合ってください!」
「ごめん無理」
「え…あの…」
「じゃ、そういうことだから。さよなら」
「あ…」
「ちょっと待ちなさいよ!!」
「ちょっ、ハナちゃん!」
「さっきから見てれば!イケメンだからって態度悪すぎなんじゃないの!」
「ハナちゃん、やめて!」
「ももっちはあんなんでいいの!?」
「きっぱり振ってくれたから。私はそれでいいよ…」
「ももっち…」
「あの~」
「ああ?何よ!この残念イケメンが!」
「きみ、誰?」
「私はももっちの親友の池花。異世界からの留学生よ」
「…その耳は」
「はあ?耳が何よ!獣人だからってバカにしてんの!?」
「池花さん!僕と付き合ってください!」
「「はい?」」
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僕はついに理想の女の子を見つけた。しかも勇者にならなくてもこちらの世界で、だ。
3組の池花さんに告白して速攻振られたけど、僕は凝りもせず毎日猛アタックをかましている。彼女は僕を見かけると「ふぎゃー」という可愛らしい声を発しながら逃げていく。
ああ、彼女とモフモフしたい!
猫耳姿が可愛すぎて僕の妄想という名の暴走が止まらない。
今ではもう、勇者になりたいなんてこと微塵も思っていなかった。
なのに…
「えーと、ここは…?」
「ここは異世界のババトマ国です。あなたを勇者として召喚しました」
「ええー!?」
「魔王討伐のため、我らに力を貸してください」
「なんで今きた!?」
ほんの1週間前まで勇者に憧れていた僕は、自分の世界で好きな女の子を見つけた途端、異世界に召喚されてしまった。
しかも後から聞いたら、この世界には獣人もエルフもオートマタも妖精も存在していないというではないか。
俺のもふもふライフ!
俺を元の世界に帰してくれ!