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4丁目の勇者 ユウタ


「バッカじゃないの!」

「ああ?」

「もうあんたとは別れる!さよなら!」

「おいっ!」



 勇者になって早2年。

 俺は8人目の討伐隊脱退者を見送ることとなった。

 …何でこうなった。


 脱退理由はいつも「勇者(あんた)とは合わない」だ。

 俺としては仲良くやっているつもりなのだが、どうも俺の何かが相手の気に障るらしい。しかも、脱退するのは決まって魔術師の女なのだ。他の職に就いている女や魔術師の男は自分から辞めていったことはない。


 俺はいわゆるチートってやつなので戦闘にはそれほど困らないし、魔術師の女以外とはかなりうまく連携もとれている。なのになぜ。


 他のメンバーに俺のどこがいけなかったのかを聞くと、みんな一様に「うーん、勇者が男だから?」と返答をする。意味が分からない。男だとどうして魔術師の女に嫌われるのだ。

 魔術師の女が辞める度に、理不尽な思いをしながら腕のいい魔術師を雇うため斡旋所に通った。


 はあ~。また新しい魔術師を探さないといけないな。


 斡旋所に通うとその分旅が遅れるが、仕方がない。

 とりあえず仲間と相談してこの辺で大きなギルドがある街へ移動することになった。


「ユウタさん、今から行くギルドは魔術師に定評のあるところらしいですよ」

「おお、マジか。それなら魔術師の男もたくさんいそうだな」

「そ、そうですね」


 聖騎士のデイルが顔を引き攣らせながら同意してくれる。

 正直、もう魔術師の女は仲間にしたくない。世界一腕が立つっていうなら別だが、同じ力量なら男でも獣人でも女以外なら誰でもいい。男女差別だなんて言ってる場合ではないのだ。


「なあ、デイル。俺は魔術師の女と相性が悪い理由が本当にわからんのだが、お前はわかるか?」

「え」

「さすがに性別は変えられないけど、直せるものなら直したい。毎回こんなんじゃあみんな迷惑してるだろう?」

「まあ、仕方ないですよ。でも俺達はユウタさんのこと信頼してます。魔王倒すまでついて行くってみんな決めてるし。それに…直せないと思いますよ」

「へ?直せないほど重度なの、俺?」

「えーと。そうじゃなくてですね、これはもうこの世界の魔術師の女のサガといいますか…」

「ん?どういうこと?」

「ぶっちゃけると、勇者さんの顔が魔術師の女にとって術の妨げになるみたいです」

「はい?なんで顔?」

「なんでも、この世界の全魔術師の女の敵と瓜二つらしいです」

「なにそれ…」


 顔か。そりゃ直せんわ。


 でも瓜二つだからって別人の俺をそんな理由で嫌わないでほしい。

 じゃあ俺はこの世界で魔術師の女をメンバーに留めておくことが出来ないということか。そういう運命なのか。


 …どうしてこの世界の勇者に選ばれたんだ俺。


 原因はわかったけど、俺にはどうすることもできなかった。

 俺の顔はこの世界ではイケメンの部類に入る、と思う。魔術師の女以外の女からはモテるからだ。元の世界にいた時とつくりは変わっていないから、こちらの世界ではモテる顔なのだろう。魔術師の女以外には。


「んじゃ、やっぱ魔術師の男を探すしかないよな…」

「そうですね」


 そうこうしているうちに目的の街に着いた。目指すギルドは街の中心部にデカい建物を構えていた。

 中に入ると、まず長いカウンターが目に入った。このギルドの受付窓口だ。俺とメンバー最年長である魔剣士のラウの二人が窓口へ向かい、残りのメンバーは自分の興味がある所へ散って行った。


「いらっしゃいませ」

「こんにちは。俺はユウタ。こっちはラウ。魔術師の男を一人紹介してほしいんですけど」

「魔術師の男ですね。畏まりました。ランクなどのご希望はございますか?」

「ああ、俺達魔王討伐隊なんだ。それに見合う力量の奴を頼みます」

「では、お調べいたします。後ほどお呼びいたしますので、そちらの椅子に掛けてお待ちください。」

「よろしく頼みます」


 そう言って、俺とラウは待合椅子に腰かけた。

 周りを見渡す限りかなり大きなギルドだと思う。出入りする人も多く、受付もしっかりしてるしいい感じだ。予想以上の人材を得ることが出来るかもしれない。

 そわそわしながら待っていると、名前を呼ばれた。


「大変お待たせいたしました。現在ご紹介できる高ランクの魔術師の男は6人います。こちらがその資料です。ご確認ください」

「へー、6人もいるのか。どれどれ」

「ユウタ、この3番はどうだ?」

「お、いいですね。経験豊富で腕も確かみたいだし。性格も問題なさそう。あ、こっちの6番も良さそうじゃないですか?」

「ふむ、確かに。ざっと見て、3番と6番が理想だな」

「ですね。ラウさんどうします?」

「二人の実力を見て決めるか」

「そうしますか。すみません、この3番と6番の力量確認したいんですけど、可能ですか?」

「はい可能です。二人ともちょうど訓練場の方におりますので、今からご案内しますね」

「お願いします」


 建物の裏手に3階建ての大きな訓練場があった。1階では剣士や拳闘士が訓練していた。2階を素通りして3階に行くと、魔法を使った訓練が行われていた。

 案内係がその中の二人に声をかけ、こちらに伴ってやってくる。


「こちらが3番のオニールさん。こちらは6番のマニスさんです」


 オニールと紹介された人物はすらりとした長身の美形でラウと同年代っぽかった。一方のマニスは俺より3~4歳上くらいで身長は普通、愛嬌のある顔をした人物だった。


「はじめまして。俺は勇者のユウタ。こっちは魔剣士のラウ。魔王討伐隊に入ってくれる魔術師を探しています。お二人の実力を見せてもらえますか?」

「「わかりました」」


 二人とも高レベルの魔法をやすやすと使いこなし、身体能力も抜群だった。俺とラウは迷った挙句、二人とも採用することにした。どうせ報酬は国王が出すんだし、強力なメンバーが多いほど早く魔王討伐が叶うだろうという結論に至ったのだ。

 そんなわけで、新たなメンバー2人を加え魔王討伐の旅を再開させることができた。

 それから3か月後には魔王城に辿り着き、念願の魔王討伐を果たしたのである。




「いや~相次ぐ脱退者にどうなることかと危惧したけど、無事にボスキャラ倒せてよかった~」

「頑張ったな、ユウタ」

「頑張りましたね、ユウタさん」

「皆もありがとうございました。あの時デイルが顔の事教えてくれなかったら、俺はいつまでたっても魔術師の女に振り回されてたと思うし、ほんと迷惑かけてすみませんでした」

「もう終わった事だろ、気にするな。あとは雑魚の魔物を一掃して、お前は元の世界に帰れるんだから。もうひと踏ん張りだ」

「はい!」



 

 その後ひと月ほどかけて低級魔物を一掃し王都へ生還した俺達は、アーチャーのミアの親父さんが営む食堂で慰労会をすることになった。付き合いは2年と短いが、中身の濃い旅をしてきたせいか俺たちの絆は固いものとなっていた。魔術師の女は除外して。

 みんな酒がまわってベロベロになった頃、デイルが話しかけてきた。


「ユウタさんお疲れさまでした」

「デイルもお疲れさま」

「数年後にまたお会いできますよね」

「うん。新たな魔王が誕生したら転移されると思うよ」

「今回は別の意味で…大変でしたよね」

「アハハ。そうだな。まさかこの顔に問題があるとは思いもしなかったよ」

「僕はその顔好きですよ」

「ありがとう。お世辞でも嬉しいよ」

「いえ、本音です。もろ僕好み。ドストライクです」

「ハハ…ハ?」


 デイルの瞳は爛々と輝き、体全体から濃厚な色気を漂わせていた。おもむろに手を上げたかと思うと俺の頬をやさしく撫で掌で包み込んだ。


「好きです。ユウタさん」


 そう言ってデイルは俺の唇にキスをした。

 突然のことに固まっていたら舌まで入れられた。ハアハアとデイルの息が荒くなっていく。


「んん~んっ!!??」


 俺はデイルの肩を強く押し返して濃密なキス攻撃から逃れる。


「な!?なにすんだよっ!」

「今度いつ会えるかわかんないですから。やるなら今だと思って」

「いやいや、俺たち男同士だから!」

「?性別なんて関係ないでしょ」

「俺にその気はないから!ほんとに!」


 涙目で訴えたけどデイルはお構いなしで俺を抱きしめてきた。


「愛しています」


 とんだ伏兵が!


 俺の顔は魔術師の女に嫌われるだけでは済まなかった。

 デイルという最強の剣闘士の男を虜にしてしまったようだ。


 魔王攻略どころか、俺が攻略されようとしている…


 数年後の転移に恐れを抱いたのは言うまでもない。


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