2丁目の勇者 ゲンジ
俺は今、異世界に来ている。
なぜかというと、俺は勇者で、村を襲っている魔獣を退治しないといけないからだ。
目の前には、水牛を二足歩行にした感じの巨大な魔獣が立っている。こちらを真っ赤な目で睨み、牙をむきだしにして口から涎をたらし、俺を威嚇しているようだ。
俺は速さと攻撃が二倍になる呪文を唱えながら、剣を両手で握り直す。魔獣が飛びかかって来たのを軽くかわして相手の懐に入り込み、すかさず喉から剣を突き刺し脳天を貫いた。そのまま背負い投げする感じで地面に叩きつける。魔獣はピクピク痙攣したあと、息絶えた。
「ふう」
「ゲンジさん、お疲れ様です!」
「おう。そっちもお疲れ~」
「今回は早く戻れそうですね」
「そうだな。日も昇り始めたし、後は聖水撒いときゃなんとかなるだろ」
仲間たちと一緒に、聖水を撒きながら村の周辺を見回る。
俺が飛ばされたこの世界は、ひと月ほど前に魔王を討伐したばかりだ。今はこうして生き残った小クラスの魔物を一掃している。強大な魔王という存在を失い、魔物達の力は衰えはじめてはいるが、戦闘経験のない一般人には倒せる相手ではない。
この世界の魔物は、今のであらかた片付いたな
そう思いながら、俺は置きっぱなしにしていたリュックを背負い、仲間たちに集合をかける。
「みんなお疲れさん。たぶんさっきので俺の手がいるクラスの魔物は最後だと思う。スキル使って世界全体を確認したから、まあ、間違いないだろ。というわけだから、俺は元の世界に戻る。後のことはよろしく頼むぜ」
「「「はい!ゲンジさんお疲れさまでした!」」」
「おう、みんなも達者でな!」
そう言って俺は呪文を唱え、王都へ瞬間移動した。街で買い物をしてから城へ向かう。衛兵に軽く声をかけ城内に入り、途中出会った顔見知りの者に手を上げながら挨拶をして、王のいる部屋に入った。
「おお。ゲンジ殿」
「こんちわ王様。今回で俺の仕事は終了するんで、元の世界に帰ります」
「そうか!ごくろうであったな」
「またヤバくなった時に呼んでください」
「うむ。そなたには苦労をかけるが、よろしく頼む」
「これが勇者の仕事ですから。じゃ、転移の先生をお願いします」
「宰相!転移魔法士をこれへ」
「は!」
そうして俺は、約2か月ぶりに元の世界へ戻って来たのである。
とりあえずシャワーを浴びて小奇麗にする。むこうでためこんだ汚れた服を一気に洗濯して、埃っぽい部屋の掃除をした。たまった郵便物に目を通し、ゴロンと畳の上に寝転がる。
「あ~疲れた。何かうまいもん食ってビール飲みてえ!」
そう呟いて勢いよく立ち上がると、財布とスマホをジーンズのポケットに突っ込み、俺はアパートの部屋を出た。
近所の食堂に入ると、顔なじみのこの店のおやじさんが声をかけてきた。
「おう久しぶりだな」
「しばらく勇者業やってたもんで」
「そいつぁご苦労さん」
「生一つ。あと何か適当にうまいもん見繕って」
「あいよ」
カウンター席に座り、置いてあった雑誌を何気なく手に取る。
『月刊勇者』?なんでこんなもんがこの店に…
「それ、お前載ってるぞ」
「へ?」
「その、ベスト100ってところ」
俺はパラパラとめくり、「国内人気勇者ベスト100」のページで手をとめた。
『第40位 ゲンジ 勇者歴15年』
おお、本当だ。俺、人気なんてあったのかよ。
しかも40位って。すごくね?
「ほい、生お待たせ。あと、これな」
「ん。ありがとう」
とりあえずビールをあおる。喉を潤したところで、出された料理に手を付けながら、俺は雑誌に視線を落とす。
あ。ムネチカさん1位だ!やっぱそうだよな。あの人最強で最高だもん。マジ尊敬するわ。お、他にもうちの町の奴らが載ってるじゃん。
俺は『月刊勇者』を酒の肴にしながら、うちの町の勇者ってすげえのな、と思った。