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1丁目の勇者 ムネチカ

 勇者になってから今年で49年目になる。


 こちらの世界ではとうに会社の定年を迎え、退職金も長年コツコツ貯めてきたお金も、まだ十分にあるから老後は困らないと思う。


 だが、家にいるより外に出ている方が性に合うので、可愛い孫へおもちゃを買うためという名目で、週2~3日の1日3~4hでシニアでも出来るバイトをしている。

 バイト先には20~60代まで、幅広い年代の男女スタッフが働いており、彼らと話をするのが最近の楽しみでもある。


 また、勇者として要請があれば、あちらの世界へ討伐に出かけたりもする。

 正直この年になると、激しい戦闘は体力的にかなりキツイ。年齢とともに依頼量も減ってはいるが、あちらの住人はとにかく勇者使いが荒い。


 一時期、ジョブチェンジをするかどうか本気で悩んだこともあったが、勇者以外はあちらの世界に永住しないとできないような職業ばかりだったため、諦めた。

 勇者ならこちらとあちらを自由に行き来できるので、家族との生活を犠牲にすることもない。



 初めて勇者としてあちらの世界に転移されたのは、17歳の時だ。当時まだ高校生だった私は、人として知識も経験も乏しかった。そんな私が『勇者』として、魔王討伐隊の一員に選ばれたのだ。


 インターネットが当たり前の現代の高校生なら、経験は乏しくとも知識は豊富だろう。私が高校生時代のこの国では、まだ情報通信業が発達しておらず、一般家庭にインターネットは普及してはいなかった。


 そんな私が、異世界でまともにやっていけるわけがない。なんで俺が勇者なんだ、と幾日もそればかりを考え、悩み続けた。始めの数ヶ月はひどかった。

 不甲斐ない勇者に誰もが蔑む視線を送ってきた。自分も他人も、勇者という存在を否定した。


 魔王城を目指す旅を続けて半年が経過した頃。

 私には多少の異能力が身についていた。何度も魔物と対峙して戦闘経験を積み、年長者からの助言を心に刻み、就寝前には体を鍛えることを怠らなかった。鍛錬することで己の力が確実に強くなっている。そのことに喜びを感じるようにもなった。


 そんな勇者としての努力が、私を見る周りの目も変えていた。連携技の成功率もあがり、種類も増えた。みんなが私を支えてくれている。そう思うと、私も勇者としてこの国の為に、みんなの為に魔王を必ず倒して見せる!という闘志が湧いた。


 魔王城に到達したのは、旅を続けて3年目の寒い季節がやってきた頃だった。


 切り立つ崖の谷底に、人が通れるくらいの洞窟があり、そこから魔王城の地下2階に入ることが出来た。私たちは魔物を倒しながら一気に地上1階まで駆け上った。


 1階には、中ランクの魔物が5匹も待ち構えており、2階には魔王の右腕と呼ばれる高ランクの魔物が2匹、魔王がいるのは地上3階だった。


 私たちはボロボロになりながらもなんとか1階の魔物を倒し、2階へと上がった。高ランクの魔物は強かった。今まで旅をしてきた中で最強だった。私たちは戦力を多く失い、結果から言うと魔王を討伐できずに撤退した。


 それから幾度と魔王に挑み、5年の歳月をかけてようやく、討伐に成功したのだった。


 最近は、異世界へ転移された時から異能力を持っていたりするそうだが、私の時代にはそういう転移者はいなかった。だが、5年間魔王討伐に力を注いできたおかげで、私は最強の勇者と呼ばれるまで成長できたのだ。良い経験を積んだと思う。


 魔王討伐が果たされ魔物の脅威もなくなり、勇者としてすることがなくなると、元の世界へと帰ることが出来た。しかし、何年か経つとまた新たな魔王が現れる。その度に、勇者としてまた異世界へと転移させられるのだ。


 トゥルルルル、トゥルルルル


「はい」

「あ、ムネチカさんですか?」

「そうです」

「すみません、ちょっとやっかいな魔物が現れまして。お願いできますか?」

「わかりました。いつでも大丈夫です」

「では10分後に転移させますので。よろしくお願いします」

「了解です」


 今日もまた要請があった。10分後にはあちらの世界で魔物相手に戦闘だ。そろそろ新たな魔王が出現するかもしれない。


 70過ぎてからの魔王討伐だけは遠慮したいものだ…


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