2丁目のフリーター アイカ
私のアパートは駅から徒歩10分のところにある。
築30年の1LDKで、現在、妹の愛華と二人暮らしだ。
玄関のドアを開けて部屋の中に入ると、妹が夕飯の支度をしてくれていた。
「ただいま~」
「おねえちゃんお帰り~」
「いい匂い。今日はカレーね」
「うん。なんか辛い物が食べたくなっちゃって」
「おいしそう。夕飯ありがとね」
「こっちこそ。居候させてもらってるし。先食べる?それとも後?」
「うーん、先」
「了解。あ、テーブルの上ちょっと片づけてもらっていい?」
「はいは~い」
テーブルの上に広げられた雑誌を閉じると、表紙のタイトルが目に入る。
『◆月刊勇者◆
今号の特集:国内人気勇者ベスト100
インタビュー:イケメン勇者アイドルグループ“Sword”
美少女勇者アイドルグループ“10✖”
連載:魔物散歩/余った素材で作ってみた/勇者の嗜み/異世界住宅
付録:『携帯版 異世界別 簡単野営レシピ』
「んん!?」
まさかの勇者本だった。
「ちょっ、何この本!?」
「え?月刊勇者だよ」
「あんた、勇者がこの世界にいるって知ってるの?」
「知ってるって…何言ってるの。勇者だよ?いるに決まってるじゃん」
妹も知ってたのか!
「私、全然知らなかったよ!」
「え~嘘。だって、おねえちゃんの中学の時の家庭教師、勇者だったじゃん」
「はああ??」
「まさか、気付いてなかったの?」
「知らない知らない!だってあの人大学生だったよ!?」
「だから~、大学生の勇者でしょ?」
「ええっ!?」
「おねえちゃんも聞いてたじゃん。休みの日は何してるのかって。お兄さん、“薬調合したり、道具の手入れしてる”って言ってたでしょ」
「!!」
それ勇者としての話だったの!?
大学でそういうことする学部にでも入ってるのかと思ったよ!
まさかと思ったけど、本当に、私が気付いていなかっただけなんだ。
どんだけ鈍いんだよ私…。
「で、何この『月刊勇者』」
「なんか、この町に住んでる勇者が結構載ってるらしくて。おもわず買っちゃった」
皿に盛ったカレーをテーブルの上に置きながら、妹は楽しそうに言った。
「へえ。どんな勇者なの?」
私は雑誌を開き、目次を確認する。
「私のバイト先にいるおじさんなんだけど、この人気勇者ベスト100に入ってるんだよ。すごくない?」
愛華が当該項目を指でトントンと叩く。
15P…15P…、あった。
私はページをめくり、今月号の特集である“国内人気勇者ベスト100”の記事を読んだ。