7丁目の勇者 アラン
5年前パパの転勤で二ホンにやってきた。
国内を転々とし、今はとてもエキゾチックでファンタスティックな町に住んでいる。
この町に慣れた頃、僕は異世界のユウシャに選ばれた。
ユウシャとはヒーローみたいなものだ。
モンスターと戦い町の人々を救う。最終的には悪の親玉であるマオウを倒すのがユウシャである僕の仕事だ。
初めて異世界に行った時は我が目を疑った。二ホンには何次元も存在するのかと。アニメやマンガと呼ばれる二次元の文化にどっぷりはまっていた僕は、異世界というファンタジーな世界の中で自由に動けることに狂喜乱舞した。
異世界には魔法が溢れ、不思議な生き物がたくさんいる。ドラゴンを目の前にしたときなんか腰を抜かしてしまった。自分で魔法が使えることにも驚いた。元の世界に戻ってもせめて回復魔法だけでも使えれば、医療に役立つのにと惜しく思ったこともある。
また、こちらの住人も僕がユウシャだということにひどく驚いていた。過去に金髪碧眼のユウシャが召喚されたことはないそうでさんざん、本当にあちらの世界の住人かと疑われた。まあ無理もないと思うけど、勝手に召喚しておいてそれはないと僕は思ったよ。
今はもう誰も僕の事を疑ったりしていないけどね。
そしてなんと、こちらの世界でガールフレンドができた。現在は見習い魔法使いのリアンヌと付き合っている。この世界のレディたちとは最高に相性が良く、僕は骨抜きにされている状態だ。特にリアンヌは…素晴らしい技の持ち主だ。
もちろん注意はしているけど、もしそうなった場合はちゃんと責任を取るつもりだよ。
ああ、こんな素晴らしい世界があったなんて。
僕はなんてラッキーボーイなんだ!
「アラン殿」
「何ですかミスターフィリッツ」
「そろそろ正式な討伐隊を編成したいと思うのですが」
「オウ!そうですね。この前会った人達で僕は構いませんが?」
「ならば彼らに任命しましょう。早速伝令を出しますので、明後日には出発できるように準備をお願いします」
「わかりました」
「では私はこれで」
いよいよ旅が始まるんだな。
当分帰っては来れないと思うから、今夜はリアンヌと二人きりで過ごしたいなあ。
そろそろミセスアイリスのところから帰って来てる頃かな。彼女の家に行ってみよう。
「やあ!リアンヌ」
「アラン!」
「勉強はどうだった?」
「えへへ。今日はアイリスさんに褒められちゃった!」
「それはすごいね!あのアイリスさんが人を褒めるなんて」
「でしょ?私もビックリしちゃった」
「今日これから何か用事ある?」
「ないわよ?」
「明後日から討伐の旅に出ることになりそうなんだ。当分会えないから君と二人で過ごしたいと思って」
「そう…もう行っちゃうのね」
「そんな顔しないで。今夜は君を思う存分堪能したいんだ。それで旅を頑張れる気がするからね」
「アラン…」
「リアンヌ…」
その後、僕たちが濃厚な夜を過ごしたことは言うまでもない。
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魔王討伐の旅に出て3か月。
今日ようやく魔王城に到達した。
各階のモンスターを倒しながら、僕たちは魔王のいる最上階に続く階段を駆け上がっていた。
「「「アラン、準備はいいか」」」
「ああ。これで最後にしようぜ、ジュドー、ハンス、キャリー」
「ハハ。そうだな。これが終われば愛しのモリーの元へ帰れる!」
「俺はジュリアの元へ!」
「私はリチャードの元へ!」
「僕はリアンヌの元へ!!」
僕らは大切な愛しい人の元へ帰ることを励みに、全力を出し切って魔王へ挑んだ。
結果、魔王を討ち果たすことに成功し、その後に残った低級魔物の殲滅も終わった。
愛の力は偉大だと思った。
全てが終わって王都へ帰還したのは旅に出て半年経ってからだった。
僕達は王との謁見が済んだ後、それぞれの待っている人の元へと急ぎ帰った
リアンヌに半年ぶりに会える!
僕は彼女の家に急いで向かった。
最後にここに来た時には何も生えていなかった庭の花壇には、今はきれいな花が咲き乱れている。洗濯物が気持ちよさそうに風になびいていた。
ドキドキする胸に片手を置き、もう片方の手で玄関のドアをノックした。
「はーい」
可愛らしい彼女の声が聞こえ、ドアがガチャリと開く。
「ただいまリアンヌ!」
「アラン!?」
僕は彼女に抱き着いた。
「おかえりなさい!無事に帰って来てくれたのね」
「ああ。全て終わったよ。君に会いたくて城からすっ飛んで来たんだ!」
「ふふ。嬉しい!」
彼女も僕を抱き返した。
「ん?リアンヌちょっと会わないうちに胸が大きくなった?」
「ぷっ。何それ」
「だってなんか弾力が…」
そう言って彼女の体を見ると、お腹のあたりが膨らんでいた。
「え?リアンヌ?」
「うふふ。赤ちゃんができたの。私たち、親になるのよ」
「ワオ!」
思わず彼女を抱きしめていた自分の腕に力が入りそうになり慌てて離す。
そして彼女の瞳を見つめながら真剣に僕の気持ちを伝えた。
「リアンヌ愛してる。僕と結婚してくれるかい?」
「アラン!私も愛してるわ。嬉しい!」
彼女をそっとやさしく抱き直した僕は、彼女の唇にキスをした。
異世界にユウシャとして召喚されリアンヌと出会えたことに、僕は心の底から感謝したのだった。




