カオル君の介入
俺達がキョロキョロしている間に、声は若干、厳しさを増した気がした。
『返事を頂けないようなら、自動防衛システムによって攻撃を行いますが?』
などと表明した途端――。
アデリーヌやサクラはもちろん、他のメイドさん達が一斉に俺の周囲に集まり、身構えた。
誰も合図してないのに、なんという統制の取れた素早い動きっ。
じゃなくて、押しくら饅頭じゃないんだから、そんなぎゅうぎゅう身体を押しつけられると、いろいろとヤバい。
特に、俺の前を塞ぐように密着しているサクラとアデリーヌ!
「なんだよ、二人共。もう少し離れないと、一網打尽にされるぞっ」
「自分がトップだっていう自覚が足りないわね、レージ」
サクラが振り向きもしないで言う。
「組織のトップが死なないように守るのが、下の者の役目でしょうに」
「大変遺憾ながら、わたくしもこのブレイブハートと同意見ですわ」
アデリーヌも笑顔で頷いた。
「いやだからって――」
『有効と思えるお答えを、まだ頂いていません。盗掘者と見なして攻撃するまで、あと十五秒の猶予を与えましょう』
機械的な宣言の後、いきなり俺達の周囲の天井各所がパタパタと軽快に引っ繰り返り、その裏側にあったらしい、黒光りする銃器みたいなのをこっちに向けた。
その間、僅か数秒!
か、数が半端ないぞっ。物騒な部屋だなっ。
「ふん、そんなの全部、わたしの刀で叩き斬ってやるわよ!」
早くも膝をたわめて跳躍しようとするサクラの肩を、俺は危ういところで掴んだ。
「待てって! 自動防衛機能とやらと全面戦争してどうすんだ!? おい、コンピューター声の君、俺は壁の認証部分に掌を置いた時、正式に認証されたはずだぞっ」
『貴方が上のダミー遺跡で、認証を試みたシステムログは残っています。しかし、この基地で認証されるべき手形ではありませんでした。なのに貴方はなぜかあそこをパスした……益々怪しいと判断せざるを得ません。――あと、八秒。七、六』
「うわっ」
カウントダウン継続してたのかあっと俺が戦慄した瞬間、脳裏に声がした。
『レージ! 非常事態だし、他に方法はなさそうだ。僕と一時代わりたまえ』
俺は大きく息を吸い込んだ。
カオル君かっ。おまえこそ、しばらく出て来ないと思ったら、こんなギリギリに登場すんなよっ。
しかし、攻撃されるまであと数秒もないだろうし、俺はユメを抱き上げて心中で叫んだ。
(なんとかできるなら頼むっ)
――次の瞬間、俺の意識はぶっつり途切れた。
素っ気ないカウントダウンで五秒と言われた時、わたくしは当然、次に来る攻撃に備えようとしていました。
部下のメイド達と共に、まずはマジックシールドで敵の攻撃を防ぎ、その後、即座に反撃に出るつもりで。
しかし、なぜかわたくしの肩に置かれ、レージ様が落ち着いた声で言われたのです。
「アデリーヌ、後は予に任せよ」
「……うっ」
「なんですって!」
わたくしと、そしてブレイブハートの女が同時に振り向いた時、ユメちゃんを抱き上げたレージ様は先程までの苦悩が嘘のように微笑しておいででした。
『二秒、一秒――』
「待て、マリア! おまえは私を知っているはずだっ。かつて教えたはずだぞっ。次におまえに会う時は、おそらく私は別の姿で現れるだろうと」
『……どうして私の名前を』
カウントダウンは中断され、謎の女は狼狽の声を上げました。
「当然、知っているとも!」
わたくし達が見つめる中、レージ様……いえ、レージンフィルス様は朗々たるお声でお告げになりました。
「知らぬはずはない。なぜなら私はおまえの創造主であり、ここに集う全ての者の創造主だからだ」




