ダルムートが廃墟だった件
最後は結局、「俺はサクラの恋人で、毎晩やりまくっている男」というのはサクラの大嘘だってのは皇帝にバレたが、代わりに「そもそも、お主とその子はアデリーヌ家とどんな関係なのか?」という、余計な質問をされてしまった。
やむなく、俺はとっさに「俺もこの子も孤児でして、多少の絵の才能があるので、アデリーヌ様がパトロンについてくれたんです、ははっ」という風にごまかしておいた。
実際、彼女はその手の援助もあちこちでしてるそうだしな。
ただしユメはともかく、俺に絵の才能なんざ、皆目ないが。
なんとかごまかせたとは思うんだが……ただし、サクラに関しては、あのユリアノス皇帝が諦めたとは思えないな。
今どこに住んでるのかとか、しつこく訊いていたし。
そして、未練たっぷりの皇帝が引き上げた後、いよいよ俺達は帝国南部の、リュトランド家の所領へと移動した。
もちろん、広間から広間へと転移するだけなので、時間もほとんど掛からなかったな。
帝都の屋敷にいたメイドさん達も俺達に同行したが、一部は暗殺者達の尋問のためにしばらく遅れるそうだ。
リュトランド家の領地と屋敷は、それはもう豪華絢爛なものだったが、俺達は落ち着く暇もなく、そのままそこからダルムートへ移動した。
誰あろう、この俺が指定した場所である。
もうアレだ……馬車に乗って移動中、俺は気が気じゃなかったんだが、数時間後にはそのリュトランド家の領地も出てしまい、そこからさらにしばらく走った途端――
なぜか、馬車の中がめちゃくちゃ揺れ出した。
もうホント、ユメが大喜びで笑い出すほど、上下左右に激しくシェイクするのだな。本当に、揺れると言うより、シェイクと称した方が当たってる。
街中で、石畳の道を走ってる時だって馬車はかなり揺れたのに、今やそんな比ではない。
「な、なにごとっ」
慌てて窓から外を覗くと……なんと、西部劇に出てくるような荒野を馬車が走っているではないか。一応、雑草みたいなのは所々に生えているし、雑に石をどけてちょっと整備しただけ的な、細い道もあるっちゃある。
しかし、舗装的なことは、一切されてない。
本当に後は、全方位的になんにもない荒野であり、地平線まで見渡せる。
たまに、岩山のでっかいのみたいなのがポツポツそびえ立っているが、それを見ても、モロに西部劇の世界っぽいぞ。
そんな中、ほとんど道とも言えないような場所を、リュトランド家が送り出した馬車の列が、延々と列を作って走っているという……。
「なんという、シュールな光景!」
「パパぁ、カウボーイとかガンマンは?」
唖然とした俺の膝を、ユメが嬉しそうに揺する。
「いや……本当に、そんなのが出そうだが。しかしこれ、大丈夫か? ダルムートって、こんな場所だったのか」
「ダルムートを指定したのは、レージだけどね」
正面に座ったサクラが、愉快そうに言いやがった。
「聞いた時、わたしも耳を疑ったわ。転生前の記憶があるから、どんな場所かはだいたい知ってたもの。あそこって、単なる廃墟だと思ったけど」
「うわぁあああああ」
思わず頭を抱えたが、文句を言おうにも、「その地こそ、俺達が行くべき場所~」的なことをフカしたのは、俺自身だからなっ。
どうすんだ、これ!
アデリーヌは本気で総力を上げて移動するつもりみたいで、馬車だけで何十台も連なって走ってんだぞ。今更「なにもナッシング」では済まないっ。
「大丈夫よ、パパ。パパが明日は晴れるっていえば、本当に晴れるんだもん」
「は……はははっ」
ユメがわけわからんこと言って、頭を撫でてくれたが……ううむ。
できれば、もう少しマシなところでありますようにと俺は祈ったが、あいにく最後に馬車が止まったのは、荒野の中のオアシスみたいな場所だった。
しかも、今も稼働中の、心安らぐ現役オアシスではない!
どう見ても、「あ、これはここ千年以上は、誰も来てないね!」と一発でわかる、砂塵にまみれた廃墟群である。
まあ、その廃墟にあった建物も、乾燥煉瓦とかが材料のショボい家々だったが。
一つだけ助かったのは、既に先に来ていたアデリーヌが俺の到着を待っていて、俺が馬車から降りた途端にこう言ってくれたことだ。
「レージさま……おそらく、入り口らしきものを見つけたように思いますわ」
「そうですかっ」
現金にも声が弾んだが、しかしすぐに首を傾げてしまった。
「入り口、らしきもの?」
「はい。どうぞ、こちらへ来てご覧ください。見て頂いた方が早いと思います」
さりげなく腕を引かれ、俺は廃墟の街路を歩き出す。
……連れて行かれた先が、とんでもない場所じゃないといいが。




