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引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
第四章 聖母騎士団
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恋人はレージ

 とにかく、武器を失った男はたちまちエレインと、それから後で駆けつけてきたメイドさん達に腕を掴まれ、その場で拘束されてしまった。


 斬りかかられた当初の皇帝は今にもチビりそな顔で側近達の影に隠れていたが、今や自分を殺しそうになった男そっちのけで、サクラに見とれている。

 エレインが「ひとまず、この男は当家で拘束します」と申し出ても、「うむ、よきに計らえ」と言わんばかりに軽く手を振っただけだ。


 しかし、男は引きずられながらも悪鬼の表情で喚いていた。




「今に見ているがいい、ユリアノスっ(皇帝の名前)。かつて、我々のお陰で国が保たれたことも理解せず、闇の勢力にしっぽを振る男よ、近々必ず――ぐっ」


 最後の「ぐっ」は、引きずっていたエレインが、容赦なく首筋をぶっ叩いて男を気絶させたためで、彼はそのまま屋内に連行されていってしまった。


「あの者は、何を喚いていたのだ?」


 皇帝ユリアノスは、さすがにいぶかしそうに男を振り向き、首を傾げていた。

 そばにいた他のメイドさんが何か答えようとしたが、先にサクラがずばっと断罪した。


「多分、自分が特別な何かだと思っている、勘違いした馬鹿でしょう。ああいうのがいるから、この国は駄目なのよ」


 こそこそと自分も屋敷内に戻ろうとしていた俺だが、サクラの俺に対するのとなんら変わらないがさつな言い方に、思わず足が止まった。

 相手は仮にも大帝国の皇帝なのに、おまえそれ、許されるのか? と思ったんだが……やはり、普通は許されないらしい。

 たちまち皇帝の側近達が目を剥いた。


「お主、このお方がユリアノス陛下だと知ってのことか!」

「メイドのくせに、なんという口の利き方かっ」

「地下牢に放り込まれたいのか!」

 唾を飛ばして喚く連中に、サクラはいきなり言い返す。

「わたしはメイドじゃないわよ、馬鹿」

 切れ長の目がじろっと側近達を睨んだ。


「だいたい、ぎゃーぎゃーうるさいのよ、腰巾着の能なしども! あんた達も眠らせてあげましょうかっ」

「な、なんだとっ――」


 まさかの反論を食らって、全員が気色ばんだが、意外にも皇帝その人が止めた。





「よいのだ! この乙女は予の命を救ってくれた、恩人ではないか。飾らぬ言葉遣いは、むしろ正直さの表れだろう。予は、アデリーヌ同様、この乙女にも借りができたようだな」


 そこまで聞いた時は、俺も「おおっ。この人、見かけによらず度量が広いじゃん。この人が国のトップなら、別に無理に戦う必要ないんじゃないか?」とまで思ったのだが。

 ……あいにく、後がいけない。


 立派な言葉の後は、もう鼻の下を伸ばしてサクラに言い寄りまくり、やれ「城へ来ぬか? 好きな褒美を取らせよう」だの「実は予はな、最近新たな側室が欲しいと思っていたところだ」だの、「そのドレスはあまり見ないデザインだが、どこで求めたのか? 予の妃達にも着せたい」だの、欲望丸出しの言葉が延々と続いた。


 最初、サクラは思いっきり渋面で黙り込んでいたが、「返事がないのは、イエスということかな?」などと皇帝が決めつけ、勝手に手を握ろうとしたところで――さすがに動いた。

 しかも、すぐそばで見物していた俺に目を付け、なぜか駆け寄ってきた。


「レージ、ちょっと!」

「な、なんだよっ」

「いいからっ」


 人の反論を無視して、ユメから俺を引き離して、皇帝のそばへ連れて行く。あまりにもきっぱりした態度だったので、周囲の側近や駆けつけたメイドさん達を含め、誰一人として止められなかった。


「悪いけど」


 とサクラはなぜか俺の手を持ち上げ、勢いよく言う。


「わたし、このレージという恋人がいるからっ」

「なんですとっ――ぐっ」


 誰あろう、この俺が真っ先に驚きの声を上げたのだが、次の瞬間、サクラが容赦なく俺の足を踏みやがり、痛みでなにも言えなくなった。

 こ、この女、中坊のくせになんという馬鹿力っ。


「こ、恋人とな……まことか? 愛し合っているのか?」


 皇帝があたふたと尋ねると、サクラは大きく頷く。

「それはもう……ねえ、レージ」

 人の足をぐりぐり踏みながら、見せつけるように俺の腕を抱え込む。

 サクラの胸が腕に当たったが、足の痛みの方が強くて感動するどころじゃないっ。


「まさか……もうその……深い仲なのか?」


 そこまで訊くか、あんたっと思うような皇帝の質問だったが、サクラはこれにも堂々と頷き、「ええっ。もう毎晩、レージとやりまくりだものねっ」とヤケクソのように言ってくれた。


 皇帝はだいぶショックを受けたらしく、よろめいてしまう。

 サクラの思うつぼかと思いきや、ユメが走ってきて全てを台無しにした。


「大うそつくな~、パパを返せっ」


 俺のもう片方の腕を引っ張り、大声で喚いた。

  


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