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引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
第四章 聖母騎士団
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再び暗殺者


「へぇえええ」


 俺は思わず唸ったね。

「愛されてるんだな、アデリーヌ」

 感嘆の言葉だったんだが、アデリーヌはなんとも言えない顔をした。


「わたし、もう屋敷を退去したことにしますわ!」


 しばらく考えた後、彼女は決然と言った。

 しかも本当に食事の途中で、一礼してこの場を辞してしまったのである。

 ……そこまで嫌わなくても。

 なら、俺はこっそり、皇帝とやらの顔を見に行くかな?




 

 ただ、男の俺がここに滞在していると悟られるのはまずいだろうと思い、俺は密かにユメを連れ、中庭の花壇のそばから皇帝の一行を覗き見することにした。

 ここなら距離も適度にあるし、大丈夫だろう。


 ……しかし、既にそこにはサクラが立っていて、微妙な顔で腕組みしてたりして。


「なんだ、おまえも野次馬か?」

「まぁね。現皇帝の顔くらい見ておこうと思ったけど……正直、引き籠もりっぽい冴えない男だったわねぇ」

「……俺の顔を見ながら言うな、こら」


 文句をつけながらも、俺はユメを抱き上げて、肩に乗せてやった。


「ほら、これならユメも見られるだろ?」

「動物園で、人垣の後ろからパンダ見るんじゃないんだから」

「うるせー」


 上の空で言い返しつつ、俺は屋敷の正面ホール前で揉めている集団を見た。応対に出ているのはこの屋敷で数少ない男の一人で、例の執事さんである。

 アデリーヌが言い含めたように、「主人は一足先に出ました」的なことを告げているらしいが、かっちりと正装した煌びやかなスーツの集団が、まだ押し問答しているようだ。


 皇帝ってのは、おそらくその真ん中にいる、ひょろっとした白い礼装の人だろうな。

 金糸がふんだん使われた派手なタキシード風スーツ姿だが、伸び上がるようにして、ホールの向こうの屋敷内を見ようとしている。


 アデリーヌが本当にいないか確かめたがっているのが、見え見えである。




「惚れてるみたいだなあ、あの人」

「パパの方が、断然かっこいいのよ」


 ユメがぺとぺとした手で俺の頭を撫でてくれた。


「ははは、ありがとうな」

「……変ね」


 サクラがぽつっと言って、俺は首を傾げた。


「なにが?」

「東の方を見て。一人、皇帝の一行に近付く男がいるけど、あいつだけ服が平服よ」

「……む?」


 本当だった。

 皇帝の取り巻きと同じく金髪碧眼には違いないが、そいつはあくまで平服であり、礼装やスーツなどではない。そのくせ、きっちり帯剣している。


「護衛にしても妙だ」

「わたし、様子を見てくるっ」


 思い切りのよいサクラは、早速走り出した。

 俺はといえば、さすがに皇帝を守る義理もいわれもないので、そのまま屋敷の方へ避難することにした。

 ユメがそばにいるからな。

 しかし、事態は俺が思うより遙かに深刻だったらしい。


「その男を止めてくださいっ。侵入者です!」


 なんて叫び声が聞こえたかと思うと、エレインが抜剣したまま走ってきた。おそらく、途中でもう何名か斬ってきたようだ。

 あ……今、警笛の音も屋敷中に響きだした。


 そして、走ってきた男は、剣を抜いてまっしぐらに皇帝を囲む一行へと斬りかかっていく。

 うわ、マジだぞあいつっ。

 今度は皇帝暗殺かっ。


 驚いたが、さすがに今回は一人しか残っていなかったので、暗殺以前の問題だったらしい。皇帝の取り巻きが逃げ遅れ、二人ほど凶刃に倒れたが、肝心の皇帝に斬りかかる前に、サクラが阻止した。





「なんでこのわたしが皇帝なんかっ」


 こんな時まで文句を言いつつ、サクラの聖刀が、受けた賊の刃を押し戻す。


「でも、今は死んでもらうわけにはいかないのよ!」


 自分勝手なセリフを恥ずかしげもなく叫ぶと、長い髪が激しく舞い、一瞬、サクラが身を沈める。その刹那、彼女の長大な刀が、虚空に薄赤い軌跡を刻む。

 下方から男の手元へと、半月系にくっきりと。


 次の瞬間、男の剣は手から飛ばされ、くるくる回ってどこかへ落ちた。

 さすがブレイブハート! 口は悪いが、腕は衰えていないっ。


「おおっ」


 皇帝その人が口を開け、サクラを称賛の目で見てたりして。

「なんと……美しい」

 むう? もしかしなくても、これは惚れられた予感がするぞ。


 あんた、まず間違いなく、あいつの見かけに騙されてるよ!


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