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引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
第四章 聖母騎士団
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アデリーヌの遠謀


しかし、「これだけの規模の屋敷を持つ家が拠点移動するんだから、さぞかし大変だろうな」と思った俺の予想は、よい意味で外れた。


 というのも、例の巨大円卓があったでっかい軍議の間みたいな広間は、床に広間内全部をカバーする魔法陣が敷設してあり、中にあるもの一切合切を転移してくれるのだという。

 つまり、そこと同じ転移の魔法陣が、アデリーヌの所領がある南部のリュトランド家本家の広間にもあり、どばっと一気にそこへ移動可能ということだ。


 もちろん屋敷全体ではなく、あくまでもその広間内の空間に入った人や物だけだが。

 だが、それが可能だということは、移動したい者や人を、軍議の間にどんどん詰め込めばいいだけの話である。

 南部の本家を移動した後は、さらにそこから俺が脳内映像で見た、南部のダルムートとやらへ移動すると。

 こういう手順だな……うう、胃が痛いな。到着してなにもなかったら、どうするよ。


 俺の心配をよそに、翌日の昼過ぎには、既に持ち出したい品の大半は軍議の間に移動完了して、移転の準備は早々に終わってたりして。


 さすが、数十名のメイドさんがせっせと作業しただけのことはある。






「それに、光の種族を自称する連中が、ハンター共を当家に送り込んだのは、むしろ我々にとって幸いでした」


 昼食の場で、アデリーヌは教えてくれた。


「というのも、皇帝はまだわたしに遠慮がある上に、あの男自身は当家に手を出すなど、現時点では考えてもいなかったのです。ですから、昨日の襲撃は早速、皇帝にハンターの暴挙を訴え、『そういうわけで当家は一時、帝都バルバライズから緊急避難します』と通達も終えております。……だって、治安が悪くて怖いですものね」


 口元を上品に手で押さえ、「おほほ」などと微笑するアデリーヌだが――。


 俺はむしろ、それを見越してハンターの死体を全部中庭に並べ、「ほら、こいつら全員、わたしを殺しに来たんですよのっ」と言わんばかりに誇示するこの人の遠謀が怖い気がする。

 現に今、帝室の意向を受けて死体処理の連中が来て、リュトランド家のメイドさん達にペコペコしながら、死体を運び出している最中なのである。


 この件はなんと、「光の信徒達の一部が暴走か! ハンター達の暴挙っ」などという見出しで、新聞記事にまでなっているのだと。

 おまけに、記事タイトルそのまんまで、号外まで出回っているそうな。




 このフランバール世界が俺の思ったよりは進んでいて、既に火薬が発明され、銃器まで出始めているのは、もう前に聞いていたが。


 一部の住人しか読まないとはいえ、さらに新聞まであることにたまげる。


 もっと度肝を抜かれるのは、知る者こそ少ないが、その新聞社のスポンサー的出資者の大元を辿ると、全てこのリュトランド家に至ると聞かされたことだ!

 要するに、某テレビ局が○通の悪口ニュースをあまり流さないのと同じく、リュトランド家を非難するような記事は、まず絶対に帝都の新聞には載らないということである!

 そんなことした日にゃ、「あなたの会社には、もうお金出しません」と、こうなるからな。


 おおお、積極的にメディアの力を利用しようとする聡い人が、こんな時代にもいるとはっ。

 それどころか、時代が早すぎてまだ誰もそんなこと考えてないもんだから、リュトランド家が――いや、このアデリーヌがその力を独占してるぞっ。



「アデリーヌの慧眼けいがんには恐れ入るなぁ」

 俺はシチューを啜りつつ、しみじみと言ったものである。

「お褒めにあずかり、恐縮でございます」

 主人のくせにテーブルの下座に着いた彼女が、恭しく低頭した。


「全ては大いなる君のためです」


 いや、俺に頭を下げられても。


「それにくらべてぇ」

 俺の横に座ってジャムを載せたパンをかじっていたユメが、情けなさそうに眉根を寄せた。

「レイモンやヒューネルは、使えないのよぉ。未だにどこにいるのかわからないもん」

「だよなあ……いや、使えないとかじゃなく、未だに行方不明のままだ」

 俺もあの二人を思い出し、腕組みした。

「どうせ連中も記憶を失っているんだろうけど、どうも帝都にはいないようだな……噂も聞こえてこないし」


「もうクビにしちゃもん~。もどってきても、もうあの子達の席はありませんんんっ」


 ぷくっと頬を膨らませてユメが愚痴る。

 いや、本当は割と心配しているのが、見え見えなんだけどな……見つかるといいな、あのコンビ。

 なんてしみじみとしていると、ノックの音がした。




「お入りなさい」


 アデリーヌの声とほぼ同時にドアが開く。

「失礼します! アデリーヌ様っ」

 メイドさんの誰かが顔を出し、アデリーヌを呼んだ。

 呼ばれた彼女がメイドさんのそばに歩み寄り、しばらく二人で話す。すると、話が終わる頃には、アデリーヌの顔が嫌悪感に溢れていた。


「……なにかありました?」

 戻ってきた彼女に問うと、ため息と共に教えてくれた。

「それが、どうも皇帝自ら、お忍びで当屋敷へ出向いてきたそうですわ。どうやら、わたしが帝都を退去するのを阻止するつもりらしく」


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