サクラの微微デレ
「あの……お気になさいませんよう」
ワンレン水色髪のエレインが、そっと俺の手に触れた。
「私を含め、皆が感激してお勤めさせて頂きました。できればその……毎晩の入浴時にもお願いしたいのですが」
いきなり熱心に迫ってきたりして。
「私や他のメイドにとって、本来、レージさまのお世話が一番重要なのです」
「い、いやあ」
あまり言葉が意味を持って聞こえてこないな。ショック過ぎて。
それより俺は、十名のメイドさんがせっせと全裸の俺を洗う光景を想像して、死にたくなっているというのに。
「ユメもぉ~、ユメも洗ったのよ! 全部、なにもかもっ」
しかもトドメに、ユメが嬉しそうに腕をひっぱるのだった。
君ら、俺のダメージを増やして、そんなに楽しいか? 心の中で喚いていると、またサクラが割り込んだ。
この際、こいつの無愛想な声が有り難い。
「こんな時になんだけど、記憶も戻ったことだし、当初の予定通り、わたしも移転先についていっていいかしら」
サクラの申し出は、相変わらず唐突だった。
「元々、ロクストン帝国の連中や、それに恩知らずの臣民達と戦うのが、わたしの望みだったのよ。記憶が戻ったことで、激しい感情も再び蘇っている。レージ達についていくのが、戦う一番の早道だと思うし」
胸に手を当てて、珍しく俺に訴えてきた。
「ぶれいぶはーとは、敵だもんっ。だいたい、サクラは最後の最後まで敵だったし!」
記憶が戻ったユメが早速、ベッド脇のサクラを素足でげしげし蹴飛ばした。
ちなみに、エレインも主人を支持するみたいな感じで、大きく頷いてたりして。
「なんでよっ。今のわたしは敵じゃないでしょっ」
「知らない。あっちいけ!」
可愛らしく頬を膨らませる。
……だけではなく、やっぱり素足でげしげしサクラを蹴るのだった。お陰でユメのガウン風の夜着の裾が盛大にまくれて、太股まで見えてたりしてな。
「はしたないぞ、ユメ」
俺は見かねて止めた。
「それと、サクラをのけ者にしちゃ駄目だって。こいつは口は悪いし無愛想だし、のべつまくなしに文句ばかり言ってるが、これでも決める時はばしっと決める奴だからな。おまえには必要な戦士だと思う」
「……前半のせいで、後半褒められても、あまり嬉しくないわね。だいたい、プリンセスはわたしの力になんか期待してないし」
サクラがぶすっと言う。
「わたしだって、必要としてくれる人のために戦いたいわよ」
しかし本気で怒っているわけじゃない証拠に、俺を見て一瞬だけ微笑んでくれた。
「それならわたしは、自分の復讐のため以外に、レージのためにも戦ってあげる。プリンセスを守るよりは、まだやりがいあるだろうし」
プリンセスってのは、たまにサクラがユメを呼ぶ時のあだ名みたいなものである。
しかし……俺のためってのは意外な言葉だな。あくまで復讐優先かと思った。
「おまえは俺になんか、洟も引っかけてないと思ってたよ」
笑って言ってやると、サクラは真面目な顔で俺を見つめた。
「本当にそう思ってるなら、最初からこの屋敷にだって寄りつきはしないわ。今だってわたしは、レージがいるからここに来てるの」
「……えっ」
さすがにぎょっとしてサクラを見返すと、ユメやエレインまで仰け反りそうな顔でサクラを見た。
特にユメは、俺の腕をまた抱え込み、一段とおっきな声で喚いた。
「パパをだますしょうわる女は、帰れっなのよ!」
「性悪女って……あんたねぇ」
さすがに顔をしかめ、サクラはいつもの調子に戻った。
「真剣に話すだけ馬鹿らしいわね。……とにかくレージ、わたしも一緒に行っていいわね?」
「お、おお……どうせ俺もおまえに頼みに行っただろうから、そりゃ渡りに船だ。じゃあ、俺はユメを守るから、おまえはたまにでいいから、俺の背中に注意しててくれ。また刺されたら、たまらん」
最後のセリフは比喩的な意味で言ったんだが、またしてもエレインとユメが俺をまじまじと見たりして。だから、これも挨拶の範疇だって。
柄にもなく俺が握手など求めると、サクラはびっくりしたような顔をしたものの、ちゃんと応じてくれた。やたらと照れくさそうに目を逸らしつつ。
そして、俺の手を握って適当に振った後、なぜかドヤ顔でエレインやユメを見る。
「ほら、あんた達の大事な大事なレージも、こう言ってるわよ?」
いやおまえ、俺の後ろ盾なんかあんまり意味は――と思ったが。
「ぶれいぶはーとは、いますぐ帰れぇーーーっ」
「……くっ」
なぜかユメとエレインは、すげー悔しそうにしているという。
まあ、なんでもいいや。サクラは仲間のつもりでいるしな、俺は。
とにかく、こうして俺達の拠点移動は本決まりとなった。
(昨日、書き込むタイミングずれたので、もう一回だけ)
新しい長編連載も始めたので、気が向けばどうぞ。
「魔王殺しが、王女のために出世を目指す(仮)」です。




