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引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
第四章 聖母騎士団
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鈍化した時間の中で動くもの

 こちらをはっと見上げた彼女達に、口元を両手で囲って、「ハンターだ、ハンターが接近中!」と注意を喚起する。


 幸い、彼女達はなぜか俺を信頼してくれているので、そこで躊躇なく一人が吹き笛を吹いた。

もう一人は抜剣し、早速、戦闘に備えようとする。


「そこからは死角に当たるけど、数分もかからない距離まで来ているっ。十分注意してくれっ」


 最後に大声で叫んでおいて、俺は自分も見張り台から駆け下り、屋敷内へ戻った。





 というのも、なにも今見た連中が最初の集団とは限らないからだ。

 まさかとは思うが、先に侵入した連中がいるかもしれない。そいつらが、ユメのいる部屋に現れたらどうする!?


 極小の可能性だとは思うが、皆無とは言えないはず。


 心の中でカオル君に呼びかけてみたが、あいにく彼の気配は消えていた。くそっ、自分で調べるしかないなっ。

 裏門からの警笛のお陰で、そろそろ騒がしくなってきた屋敷内を、俺は全力で駆け抜けた。

 廊下を走り、呼び止めるメイドさん達の声も悪いが無視して、ひたすら自分の部屋がある方へ走った。


 すると――なんと、最上階に出た途端、ガラスが割れて、廊下に飛び込んできた連中がいたっ。まさかと思ったが、本当にユメを……あるいは俺を狙ってきた連中がいたらしいっ。


 裏門からここまでそんな早く来られるはずはないし、途中で誰かに制止されたはずだ。空を飛んできたとしか、思えなかった。




「おいおまえらっ。敵ならここにばっちりいるぞおおっ」


 俺はわざと大声を上げ、連中の注意を引いた。

 同時に、即座にダンジョンで支配下に置いたファミリアの召喚に入る。こういう時のために、ダンジョンアタックしてたんだからなっ。


「ケルベロス、レッドウルフ、我が召喚に応じて敵を討ち滅ぼせ!」


 叫ぶと同時に右手を突き出すと、もう見慣れた青く輝く魔法陣が眼前に出現し、回転を始める。直後に、呼び出したケルベロスとレッドウルフが、それぞれ四頭ずつ出現し、獰猛な唸り声と共に廊下を駆けていった。


 なぜ幻像に見えたこいつらが、このリアルワールドでもちゃんと使役できるのか不思議だが、今はファミリア(使い魔)が使えることが有り難いっ。


 さすがに侵入者達(十名もいた!)もこいつらを無視できず、慌てて武器を構えて迎え撃つ。

ただ、最悪なことに、俺の部屋のドアが開いて、ユメが顔を覗かせたっ。


 どうやら、この騒ぎを聞いて、様子を見に出てきたらしい。





「ユメ、危ないから部屋へ戻りなさいっ」

「パパ、パパっ」


 ユメがこちらを見て、部屋に戻るどころか走ってこようとした。


「駄目だ、早く部屋へ――」


 言いかけ、俺は唇を噛んだ。

 既に、部屋へ戻るのを阻止するように、手空きの敵がユメの退路を塞いでしまった。やむなく俺は最後の切り札を使った。


「パーフェクトタイム!」


 ガギィンッ、ともはや聞き慣れた音がした刹那、世界から色が抜け落ち、正常な音が全て消え失せた。

 何もかもが動きを止め、単調なハウリングだか高周波みたいな音が持続して聞こえる中、俺は一人でひたすら走り、ユメの元へ駆けつけたっ。


(よし、間に合った!)


 俺の元へ駆けつけようとして懸命に走る途中のユメをそっと抱き上げ、とりあえず、すぐ近くの別の部屋まで運び入れ、しっかりとドアを閉める。

 そこはメイドさんの控え室みたいな場所らしかったが、まさか連中も一瞬でここへ移動したとは思うまい。


 そして、この時の流れを独占している間中、俺は持続時間があと何秒残っているかはっきりわかるのだが――この時点で、既に六秒使っていた。


「あと三秒っ」


 抜刀し、最もユメに接近していた人相の悪い男を、俺は躊躇なく斬った!

 これが自分のためなら、まだそこまで思い切ることはできなかったかもしれないが、ユメが危ないとなれば、話は別である。


 どういうつもりで俺達の部屋に襲撃かけたのかはわからないが、この際は可能な限り、ユメに迫る危険を排除する決意である。


「ふざけんな、ちくしょうっ」


 斬り殺した奴は放置し、俺はさらにそのすぐ後ろにいた男の首筋も、刀で斬り裂いた。ユメのことを思っていたせいか、手が震えることもなかった。


 あと残り一秒だが、あいにくもう届く距離にはいない。


 後は解除後に、できるだけ悪あがきしてやろうっ。

 そう決意した途端、俺のすぐ背後に気配がした。


「なにっ。まだ俺の時間は終わって――」


 振り向こうとした瞬間、いきなり背後から刺された。絶対に、直前まで後ろに誰もいなかったのに。



「貴方の好きにはさせません!」



 女性の叱声と同時に、まっしぐらに心臓を貫かれ、青白い魔力付与の剣先が胸から突き出た。


「……ぐっ」


 俺の意識は、たちまち闇に引きずり込まれてしまった。


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