ハンター接近
詳しく、今のをもっと詳しくだ!
大いにやる気が出て、俺はいよいよ熱心に掌で地図を撫でた。触れた先で脳裏に光が差し、ふいに広大な何かが見えたので、慌てて手を止める。
今度は人差し指に切り替え、今見えたあたりを集中的に指先で触れていった。
「どこだ、今のはどこだった!?」
そして……ついにある一点で指が止まった。
「ここだ! 地上じゃない……大事なものは、全て地下にある。忘れられた土地、そして忘れられた空間。その地下には――」
言いかけ、俺は今見えたものに生唾を呑み込んだ。
……これは、マジか。
本当にこの地にそんなものがあるのかっ。
深呼吸してからゆっくり目を開くと、俺の人差し指はある地名をびたっと指していた。
「……ダルムート? 同じ南部でも、場所はそこだ! その地こそ、俺達が行くべき場所の気がする」
静まり返った円卓の皆をぐるっと見回し、俺は割としっかりした声で告げた。
ご神託のつもりは毛頭なかったのだが、少なくともアデリーヌの反応は劇的だった。
「ならば、これで決まりですね!」
歓喜に溢れる声で叫ぶ。
ついさっきまで、所領に戻る的なことを言ってたはずなのに。
既に彼女は立ち上がっていたが、その場で俺の眼前に歩み寄ると、恭しく跪いた。
「我が大いなる君よ、全ては御心のままに」
『御心のままに!』
女主人に倣うように、他のメイドさん達まで一斉に席を離れ、跪く。
おぉお……なし崩し的に、今後の拠点が決まっちまったらしいぞ。俺、実際はそんなトコに行ったこともないのにっ。
責任とってくれ、カオル君っ。
頭がぐるぐるしてきた俺は、方針が決まって会議(軍議?)が終わると同時に、ユメには先に部屋へ戻ってもらい、屋敷の屋上へ外の空気を吸いに出た。
ここは、屋根の上にも何カ所か見張り台みたいなのがあって、屋敷の周囲を見張れるようになっているのだな……俺も最近知ったんだが。
今はちょうど、円卓会議みたいなのがあって全員集合だったので、たまたま誰もいない。
そこで、柱と屋根のみの吹き抜け構造になっている見張り台に一人で立ち、遅まきながら頭を抱えた。
「……参ったな。到着して何もなかったら、笑って済む問題じゃないような」
『君は、ダルムートに着いた後の心配より、当面の危機を心配した方がいい』
カオル君の声が再びして、俺はぎくりとした。
「しばらく出て来なかったのに、今日はヤケに饒舌じゃないか? 何か不吉なことでも迫っているのか?」
『そういうこと。アデリーヌは定期的に帝室へ使者を送って、まだ皇帝の信頼を得ているけど、その皇帝の権威を持ってしても、止められない勢力がある。……言うまでもなく、光の神を信仰する、戦士集団さ』
「それは、いわゆる光の種族ってヤツか?」
『そう。神の声を聞いて続々と新たなブレイブハートが生まれているのは、当然ながら君達闇の種族を倒すためだ。そして、彼らは君達と同じく、独自の価値観で動く。例えば、皇帝がどれほどアデリーヌに好意を寄せ、彼女のリュトランド家に敬意を払おうとしようが、そんなことは彼らには関係ない。最大の行動基準は信仰であり、闇を撲滅するという強固な使命感だからね……やっかいなことに』
仮想敵は別にして、そりゃアデリーヌと同じじゃないかと思ったが、俺は余計なことは言わず、囁くように尋ねた。
幸い、今のところここには他に誰もいない。
「で、当面の危機ってのは?」
『さすがに、まだブレイブハートは動かないと思うが、軽挙妄動がお家芸のような連中がいる……光の神を信仰するグループの中でも、手が付けられない無法者が多く含まれているのさ。彼らは自分達のことを、(闇の種族を狩る)ハンターと自称しているけどね』
「そいつらがどうしたっ」
『……振り返って、そこから屋敷の裏門の方を見たまえ』
俺は慌てて振り返った。
「うわっ」
裏門付近は、帝都バルバライズを囲む防壁のすぐそばにあるのだが。
門の周囲はリュトランド家の私有林で囲まれ、無愛想な防壁が直接見えないようになっている。その私有林の方から、人目を忍ぶように、男女の集団が接近してくるのが見えるのだ!
全員武装している上に、どう見ても侵入する気満々に見えた。
裏門にも警備のメイドさんがいるが、連中が死角から接近しているためか、彼女達はまだ怪しい人影に気付かずにいるらしい。
「おーい! 敵が近付いてるぞおっ」
俺は躊躇せず、全力で怒鳴った。




