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引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
第三章 レベル対応型、私邸内ダンジョン
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サクラの実力


「むっ」


 ギィィィンという、エグい音が響いた。

 首筋を狙った横殴りの一撃は、抜剣したレナードの件が防いでいた。

 ただ、ここで驚いたのは、サクラはそもそも「防がれたのが予定の行動」みたいな動きをしやがったことだ。


 受けられたと見るや、流れるような動きでさっと身を屈め、左足を旋回させて、レナードの足元を豪快に払ったのだ。

 こいつ、実戦慣れしてやがるなっ。


「――っ!」


 たまらず、白いスーツの長身がバランスを崩し、倒れそうになる。

 その、いかにも不安定な状態のレナードめがけ、満を持してサクラの第二撃が襲った。低い位置から、彼の急所へとまっしぐらに。


 長い黒髪が派手に舞い、サクラの瞳がぎらりと光る。


 完全に倒れる寸前のレナードにとって、これはおそらく決め手の剣撃となったはずだが、それでもこいつは宙に浮いた状態から身を捻り、無理に避けた――ように見えた。


 ブォンッととんでもなくいい音がして、サクラの刀が空を切る。

 鮮やかな薄赤い軌跡が虚空に刻まれ、その後はサクラ自身も大きく後方に跳んで間合いを開けた。


 レナードといえば、倒れる寸前のところを片手を大地について側転し、なんとかまともに着地を果たした。

 ただ……首筋には明らかに赤い筋が残り、鮮血がじんわりとしたたっている。

 明らかに、必殺の第二撃は、サクラが手加減したということだろう。さもなくば今頃、彼の首と胴体は泣き別れだったはずだ。





「ふーん、だいたいわかったわ」

 何事もなかったように立ち位置に戻っていたサクラは、しれっと刀を収めていた。


「さすがに、わたし達の時よりそれぞれの力量は落ちるみたいね。……まあ、他に覚醒した奴も手合わせしないとわからないけど」


 なんてことを言いつつ、思わせぶりに俺達の方を見たが、いや、おまえなに言ってんだよ、なにを!

 俺でさえ「こいつ、なに考えてんだっ」と思ったほどだから、当然ながら、殺されかけたレナードなんか、めちゃくちゃむっとしていたな。当然だが。


「いきなり何をするんですかっ」


「……別に。だいたい、あんたも多少の訓練にはなったでしょ? 実力者とやらないと、腕なんか上がらないし。言っとくけど、今のはわたしが手加減したけど、もししてなかったら、あんたはもう死んでるわよ? ブレイブハートとして覚醒したっていうなら、喜ぶばかりじゃなく、もう少し修練積みなさいな」


 俺達はもちろん、二人のメイドさんまで、唖然としてサクラを眺めていた。

 こいつやべー……キ○ガイに刃物とは、まさにこいつのことじゃないのか?






 その場は一応、「サクラがブレイブハートの先輩風吹かせて、無理に試合を挑んだ」ということで話はついた。

 いや、たまたま静まり返ったその場に、アデリーヌを乗せた馬車が戻ってきて、当主の彼女自身がにこやかに話をつけたからな。

 そうでなきゃ、まだ揉めていたかもしれない。


 とはいえ、レナードと名乗った少年は、自分が未熟だったことは大いに認めたらしく、最後はサクラに「かつてのブレイブハートなら、ぜひ今後も練習相手を」なんて頼むほど、機嫌は回復していたが。

 しかしサクラはそれにも、素っ気ない返事だったな。


「それはどうかしら……だってわたし達は、そのうち殺し合いするような関係になるかもしれないわ。今だって、いわば敵情視察で斬りかかったようなものだしね」


 ――この捨てゼリフである。

 とはいえ、不思議だったのは、彼が帰った後、メイドさんから事情を聞いた当主のアデリーヌが、あまりサクラに文句を言わなかったことだ。

 文句を言わない代わりに、彼女はずばっとこう尋ねた。


「来たるべき戦いでは、貴女は我が闇の軍勢に味方して頂けるものと考えていいのかしら?」


 意味わからんが、目は完全に本気だったな。

 そして、その時のサクラはどこか暗い瞳で静かに答えていた。


「忘れようとしても忘れられないことがあるのよ。いずれにせよ、今度わたしが戦う時の敵は、人間そのものと光の軍勢を自称する連中となるはず」と。


 そうか……おまえやっぱり、普段は忘れたような顔してても、かつての哀しみを引きずったままなのな。

 こいつの過去を聞いただけにしんみりしていたら、ユメが抱きついてきて、「戦いになったら、ユメがいっぱいかつやくするのよ~。パパのためにっ」なんて明るく言ってくれて、ぎくっとした。


 いや……むしろ戦いが避けられない時は、俺に戦わせろよ、ユメ。

 それが父親役の務めだろ。


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