新旧ブレイブハートの激突
「これは失礼しました……」
真っ白い髪を長く伸ばした少年は、優雅に一礼した。
「僕はレナードと申します。陛下の使いで、アデリーヌ様に嘆願に来た者です」
「嘆願と申しますと?」
一人が怪しむように尋ねると、彼は苦笑した。
「いえ、最近顔を見ていなくて寂しいので、一度、アデリーヌ様に城へ遊びに来てほしいとのお話でして。使者に僕が選ばれたのは、ご挨拶と――その他の用件も兼ねているからです」
懐から書面を出してメイドさんに渡す。
それを一人が確認しつつ、もう一人がさらに問い詰めた。
「ご挨拶というのはどういう?」
「はい……私事ですが、僕はつい先日、神の声を聞きました」
うお、いきなり宗教がかった話に!
おまえはジャンヌ・ダルクかっ。
「その瞬間から、僕は自分がブレイブハートであることを自覚するに至りました」
『ブレイブハート!』
おぉおお、そっちかよっ。
メイドさんの声が重なったのはともかく、俺も門塀の陰でドン引きしていたが、少年――レナードはすらすらと続ける。
「僕と同じく神の声を聞いた者は、他にも大勢います。皆、新たなるブレイブハートとして目覚めたようですね。現在ロクストン城では、ここ数日で僕のような者が大勢現れたことについて、様々な見解が飛び交っているようでして、陛下におかれましては、年若き賢者と名高いアデリーヌ様のご意見もぜひお聞きしたいとのことで――」
そこまでなめらかにしゃべった癖に、レナードはふいに黙り込んだ。
俺とユメが観察しているのを見つけ、眉をひそめている。
ヤバい……俺はモロに日本人の姿で、この国の平民っぽくないからな。不審に思われないうちにとっとと立ち去るかと思ったが、むしろ向こうが俺を呼んだ。
「失礼ですが、貴方達」
「お、俺っすか?」
呼び止められたので、やむなく彼のそばまで行く。
ただし、どういうわけかユメは最初から敵意全開の目で睨んでいるし、俺の腕を抱え込んで放そうとしない。
「気をつけて、パパ」
「え、ああ……」
そう言われても、何を気をつけるのか。
「どうも、おはようございます」
とりあえず挨拶などしてみたが、レナードとやらの不審顔は晴れなかった。
「なんだろうな……貴方には何かを感じる……その、小さな女の子にも。前に、どこかでお会いしましたか?」
「い、いやぁ。初めてだと思いますけど」
「そう――ですか」
しきりに首を傾げつつ近付こうとするレナードの前に、メイドさん達がさっと立ち塞がった。
「失礼ですが、アデリーヌ様は今、不在でございます」
「用件は必ずお伝えしますので、今日のところはお引き取りください」
礼儀正しくはあるけど、彼女達もまた敵意を隠せない声音だった。
やっぱりここの人達にとって、ブレイブハートは仮想敵らしいっ。本気で闇の種族として潜伏しているつもりなのなっ。
「おやおや……新たなブレイブハートが現れたって、あんたのこと?」
うわっ。
またよりにもよってこのタイミングで、ややこしいヤツがっ。
というのも、今度はサクラが私道の向こうからやってきて、俺達を面白そうに眺めていた。いつものセーラー服姿で!
だいたいこいつ、この服装がよっぽど好きらしいなっ。
どうせ今日も、ダンジョンアタックさせてもらいに来たんだろう。また嫌なタイミングで現れたもんだ! こいつが来ると、話が妙な方向へ行きそうな予感が。
「……貴女は?」
振り向いたレナードが、これも警戒の眼差しで尋ねると、サクラはニヤッと凄みのある微笑を浮かべた。
「そうねぇ、こう言うと話が早いかしら? わたしは――」
そこでいきなり大きく踏み込み、叱声と同時に電光石火で抜刀する。
「あなたの先輩よっ」
まさに、抜く手も見えない早業である。
「ちょっ!」
『サクラさんっ』
俺とメイドさん達の声が、見事に重なった。




