奥の手が二つとマスキング・スキル
低頭した後、エレインは付け加えた。
「ただ、見る限りではMPの消費も激しいので、そこだけはご注意を」
「わかりました。いや、わかった!」
元気よく答えたところで、蚊帳の外に置かれたサクラが、早くも歩き出す。
「さあ、もっと進むわよ」
「仕切るなっ」
文句を言いつつ、それでも俺はユメを優しく押し返してやる。
「ほら、また向こうのおねーさん達といるといい。あ、俺が礼を言ってたと伝えてくれな」
「……うん。でも、次はいっしょに歩こうね」
「わかったわかった」
何度も振り向きながら元の位置に戻るユメに、俺は手を振ってやる。
まあ、ユメは痛みもない設定にしたって話だし、ホントに血肉が飛ぶわけじゃないから、それでもいいかもしれない。
倒したら消えてしまうしな。
俺は「テレビゲームは犯罪の温床」とか吐かす批評家には反対の立場である。
そして、今度こそ俺のハイパー奥の手が唸るぜっ。
などと期待して歩き始めたはいいが、よく考えたら奥の手のMP消費量とかチェックしてなかったな。
よし、今のうちに見ておくか。
俺は歩きながら、小声で「ステータス前面表示」と囁く。
出てきた画面の中からスキルの項目を選び、目当てのスキルを調べた。
「げっ。パーフェクトタイムの、なんとエグいMP消費量!?」
すると、横からさっとサクラが顔を突き出し、俺のステータス画面を勝手に覗きやがった。
「……パーフェクトタイムのMP消費量が600ぅ? なんでこれ、そんなとんでもない消費量なのよ?」
「俺に訊くなっ。こっちが知りたいわ!」
ていうか、600といえば、俺のショボいMP数値からして、ほぼ半分くらいは消えるじゃないかっ。
なんというMP馬鹿食いスキルっ。
「むむむ、最大使えても二回か……まあでも、これを何度も使えたらシャレにならんもんな。それで当然か」
「どんなスキルなの?」
「ふふふ……それは秘密だ」
自分も初使用のくせに、俺が思わせぶりに言うと、サクラは顔をしかめた。
「だいたい、おかしくない? レージは初めてダンジョンアタックしたわけでしょ? なんで最初からスキルなんてついてるの? 普通は戦って相手から奪って、初めて使えるようになるものだと思うけど」
「え、そうなのか!?」
「そうよ! 最初からあってたまるもんですか」
サクラは大きく頷く。
頷きつつ、分岐のT字路を当たり前のような顔で右に曲がったが……おまえそれ、なにか右を選んだ根拠でもあるのか?
ていうか、不覚にも今気付いたが、さっきからこいつ、自分の好きな方を選んでるな。
次の分岐では、断固俺が選ぶぞ!
みみっちいことを俺が考えていると、サクラはさらに捲し立てる。
「それに、見なさい。まだ表示されていないだけで、マスキングされたスキルで、項目欄が全部埋まってるじゃない! ということは、レージは潜在的に、これを全部持ってるということよ。なぜかまだ表示されてないけど」
「表示されてなかったら、意味ないだろうが! しかし……マスキングだったのか、これ。俺は昨晩見た時、なんで既に書かれた文字の上に、いちいち太線なんか引いてるかと思ってた」
あと、よくエレインは俺がこれを使えるって知ってたな……あ、でも彼女は、さっき俺のステータス画面開いていろいろ教えてくれたから、その時か。
むしろ、昨晩とさっきと二回も見てるのに、ちゃんと確認していなかった俺がボンクラすぎる。今更だが、俺はまさにマスキングテープを貼ったみたいに、ずらずらと太線で消されたスキル欄を見た。今すぐ使えるのは二つしかないというていたらく。
そのうちの一つが、これから使う気でいる「パーフェクトタイム」で、もう一つが、カオル君が教えてくれた元祖奥の手である。
「この、ソウルプリズンってなに? だいたい、スキルにかなり詳しい方なのに、なんでわたしは二つとも知らないのよっ」
「なんで俺が怒られるんだよ。奥の手については秘密だし、おまえの知識量について文句言われても、知らんっ。大方、おまえじゃ未来永劫、覚えられないスキルってことじゃ――」
などと言い返しかけた俺は、ぎくりとして足を止めた。
いきなり突き当たりの角から、ひょこっと敵が現れたのだ。
今度は普通の狼に見えるが……大きさは標準狼の三倍くらいある上に、体毛が真紅という。そんなのが都合四匹もいた。
「い、いちいち数が多いな、くそっ」
「先頭の二匹はわたしが引き受けるわ」
早くも抜刀したサクラが、横目で俺を見た。
「自慢の奥の手の力を見せてもらいましょうか」
「は、ははは……任せたまへ」
いかん、声が引きつった。




