同行者はメイドさん
自分で号令かけた割にはさらにサクラと揉めた後、最終的に俺達は俺の意見通り、「レベル40~レベル50」を推奨としたダンジョンに潜り込んだ。
ちなみに、メンバーは俺とサクラ、それに「ユメもいくのぉおお」とせがみまくって俺が根負けしたため、ユメとその護衛達である。
つまり、ユメに三名のメイドさんがぴったり付き添っている。
あ、もう一人忘れていた。
前衛というか、先を進む俺達と一緒に、実はもう一人メイドさんが付き従っている。
アデリーヌが、俺とサクラにぜひもう一人メイドさんを付けたいというので、やむなくこっちから指名したのである。
今朝、メシを持ってきてくれた、エレインという子だ。
薄水色の髪をワンレンの髪型にした人で、片目が隠れたメイドさん。少女漫画風の大きな瞳に似合わず、レベルの50の四天王(レージ呼称)である。
モデルさんかっつーほど、ウエスト細くて足が長い。まあ、メイド服にコルセットがついているせいもあるかもだが。
とにかく、総勢七名! 遠足じゃないんだから、次はもっと減らそう。
いよいよ転移した時、該当する魔法陣の上に立って「出発!」と声を上げると、それでもう、ダンジョン内だった。
本当にこのシステム、手軽だなっ。
「うおっ」
最初俺は、もう転移していると思わず後ろを振り向いたが、もはやそこは何もない壁であり、後ろからついてくるはずの、メイド三名とユメがいるだけだった。
「なんという……このダンジョンがゲームも同然だって? ちょっと信じ難い」
正直、ここは予想以上に凄かった。
触ると、全てリアルな感触があるのはもちろん、さらにかなり広い。
マヤ文明作かと思うような、ぴちっとした煉瓦造りの通路なんだが、その四角い通路の広さときたら、横幅が優に十メートルはある。
天井までの高さも半端ない。
多分、五メートル以上はあるだろうな、これ。
十トントラックだって、余裕でここで爆走できる。
それでいて薄汚れているわけでもなく、どこか青みがかった壁と黒い通路のダンジョンが、ぐねぐねと入り組んで先へ続いている。
壁にはちゃんと、等間隔で松明の明かりさえある。
逆に言うと、松明の明かりが照らす程度の視界しかないということだ。
「じゃあエレインさん、よろしくお願いします」
俺は一応、歩き出した途端、メイド服のエレインさんに一礼した。
社交性レベルは決して高くない俺だが、こう見えて挨拶くらいはちゃんとするのだ。
すると、驚いたことに彼女は髪と同色の水色の瞳を潤ませ、胸に手を当てた。
「同行のご指名を頂いたばかりか、私の名前を覚えていてくださるとは……もったいなきこと」
「ああ、いえいえ……お世話になっているのですし」
というか、アデリーヌ以外に名前を覚えている人がいなかった。
「うおっ」
いきなり微妙に距離を詰められ、彼女の胸が当たりそうになった。
「できましたら、敬語ではなく臣下に命令するようにお話しください……事実、そうなのですから。対等の会話は、畏れ多いことです」
「ええと、わかりました……じゃなくて、わかった」
なんかもう、「いやさすがにそれは」とか言えない感じだからな。
やむなく俺は頷き、ようやく前進が始まった。
先頭が俺達三名で、ちょっと距離を開けてユメ達だ。
ユメは俺と一緒にいたがったが、「とにかく今日だけは我慢しな」と言ってある。まだ俺も、ここがどういう場所か、様子がわかってないからな。
ゲームみたいなものと言われても、本当にそうかどうか確かめないと。
などと人が決意を新たにしているのに、歩き出した途端、サクラが嫌みを言いやがる。
「レージ、もしかして後ろの人の猥褻な写真でも盗撮したの? それで脅しているとか?」
「馬鹿かぁ、おまえっ。全部、彼女達の好意だ!」
からかっているのはわかっていたが、それでも言い返してしまった。
俺達の関係が異様なので疑問なのはわかるが、あまりにもひでー濡れ衣だし。
心配になって背後を振り返ると、エレインはサクラの背中を睨んでいた。
い、今のが聞こえたのかっ。思わず焦ったが、こっちが振り向いたのに気付くと、視線を合わせて微笑んでくれた。
良かった……俺は別に嫌われてないようだ。
いや、サクラだって嫌われたらまずいか。
「おまえな、もう少し口の利き方に」
俺が注意しようとしたところ、サクラが手で制した。
「しっ。早速、最初の敵が来たわよっ」
ま、マジかっ。
はっきり言うが、心の準備は出来てないっ。




