ユメをまじえて、出発!
「いや、嘘じゃない、ないさ」
俺は文句は喉の奥に押し込め、未だに浮き出たままの魔法陣の列を示した。
「あれがそうだ。あそこに立てばそれぞれのダンジョンに転移するそうな」
「ふぅん?」
実に胡散臭そうな顔で、サクラが稼働中の魔法陣を見やり、そしてアデリーヌを始めとするメイド集団を眺めた。
ちなみに彼女達、今はユメを囲んで遊んであげている最中らしい。
ここは母親役に苦労しなくて助かるなっ。
「……で、推奨レベルはどのくらい?」
さすがにブレイブハートらしく、鋭いことを尋ねる。
「推奨レベル1から、推奨レベル60以上まで、各種ありますわよ」
俺の代わりにアデリーヌが答えると、サクラが大きく息を吸い込んだ。
はっは、やっぱり驚くよな!
「レベル60以上……? そんな人、レージ以外にいるの?」
「わたくし、今のところレベル63ですわー」
こともなげにアデリーヌが言ってくれたので、俺まで一緒になってたまげた!
レベル50以上の四人の中の一人って言うから、その辺りのレベルかと思いますがなっ。
「……ふぅん」
先程と同じ「ふぅん」でも、今のサクラの言い方はちょっと殺気があるような気がするな。アデリーヌはあくまで自然体で微笑しているが。
「それはそうと、レージさま」
アデリーヌが俺ににこやかに教えてくれた。
「申し遅れましたが、ここのダンジョンは血肉の飛び散るリアルな洞窟などではなく、あくまでもそう見えるだけのゲーム的なものです。痛みはありますし、HPがゼロになると死ぬのも事実ですが、訓練するのにそこを省くわけにはいきませんので、そうなっているだけなのです。それに今回、ユメちゃんだけは、痛みと死亡判定を省いてありますわ。さらに、危ないと思えば一瞬で戻れますし。ですから、ユメちゃんが同行しても大丈夫でございます」
「……ゲーム的なもの」
つまり、オンライン体感型3Dゲームみたいなものだろうか。
まあ俺は、強くなれるならなんでもいいんだが。
「ちょっとレージ」
サクラがふいに俺の腕を掴み、隅へ引きずっていく。
「なんだよ、いきなり」
「ここの人達、なにか裏があるでしょう?」
「えっ」
うお……俺がずっと思ってたことを、いきなり指摘されたぞ。
「なぜそう思う?」
「見ればわかるわよっ。メイドの人数が尋常じゃないのは置いても、みんなレベル高いはず!」
「まあ……可愛い子ばっかり揃ってるのは確かだな。器量もよさそうだし、スタイルいいし」
「誰が容姿とかスタイルの話なんかしてるのっ」
サクラが「あんた、馬鹿なのっ」的な目つきで睨みやがった。
「そうじゃなく、戦士としてのレベルを言ってるのっ」
「ああ、そっちな」
それならそうと、言ってくれんと!
俺はおまえと違って、そこより容姿重視なんだから。
「実際、みんなむちゃくちゃレベル高いぞ。おまえより上なのが――」
言いかけ、俺は口を噤んだ。
こいつに「ここは強キャラがザクザクいるぜっ」とか教えると、相手構わず、試合申し込んだり、喧嘩売ったりしそうだ。
「なによう、言いかけたら最後まで言いなさいよっ。誰が強いのよ!」
「やかましい、強面で迫るなっ。おまえに教えると意識するから駄目だっ」
「くぉらああ、パパをいじめちゃだめえっ」
いきなり大声がして、ユメが走ってきた。
問答無用で、来るなりサクラの足を蹴っ飛ばす。あ、パンストに土が付いた。
「ブレイブハートは帰れっなのよっ、塩まいちゃうもんっ」
「こ、こらこら、そんな風に言うもんじゃない」
俺は慌ててユメを抱き締めて止めた。
どうでもいいが、今の可愛い罵声、なんか既視感あるな……気のせいかもしれないが。
「まさかこの子がそうなの?」
呆然としていたサクラが、俺を見る。
「馬車の中でちょっと聞いたけど、ギルドに広告出してた子?」
「まぁな。それより、俺達は早速、ダンジョンアタックするぞ。あまり時間を無駄にしたくない。おまえも来てくれるなら嬉しいが、無理強いはしない」
「――行くわよっ」
サクラは大きく息を吐き、俺や周囲のメイドさん達を見回した。
全員、しんとなってサクラを見返していたな……なぜか。
「そんな高レベル者を対象にするダンジョンなら、行かない手はないわ」
「よし、決まりだ!」
俺は破顔して手を叩いた。
「まずは、最高レベルから少し下の者を対象にしたトコなっ」
ついでにはっきりと自己主張もしておく。
最初から最高レベル対象のダンジョンアタックとか、死にに行くようなもんだ。




