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引き取った女の子は邪神の転生体でした  作者: 遠野空
第二章 ご神体(のごとき)扱いのレージ
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今度は人間が敵


 その後、サクラはメイドさんの誰かがギルドまで呼びに出向いてくれることになり、俺はそのままアデリーヌから、転生前のサクラの話を聞いた。

 もちろん、当時は今と全然違う名前だが。


 かつて、ヴァレンティーヌという神の化身率いる闇の軍勢と、人間達の大きな戦いがあった。

 ところがある時、サクラの身内に悲劇が起こる。

 そのヴァレンティーヌに街を攻められた者達が結託し、そこに住んでいたサクラの家族を人質として差し出したのだ。


 まあ、人質というか生け贄だな、この場合。


 そもそも、ヴァレンティーヌが街に接近した時点で、その街の連中は罪もないサクラの家族に八つ当たりし、散々なことをしていたらしい。

 サクラとて、その時は他の戦場で闇の軍勢と戦っていたのに。


 街の連中がサクラの家族にしたことは、あまりに凄惨なんで信じたくないが、どうも事実のようだ。

 その証拠に、ヴァレンティーヌ率いる闇の軍勢がサクラの家族を保護した時点で、既にみんな栄養失調と拷問の傷で死にかけていたのだと。


 闇の軍勢の者達は人間と違い、むしろサクラの家族達を助けるべく努力し、駆けつけた彼女に、治癒して健康を取り戻した家族を引き渡してやったのだとか。

 これだけならいい話だが、あいにくここで話は終わらない。

 敵とはいえ、その時は感謝して家族を引き取ったサクラは、なぜか人間達から「裏切り者」だと思われた。


 自分達こそがサクラの家族を殺しかけたくせに、「闇の軍勢がサクラ達についた!」とねじ曲がった考え方をしたらしいのだな。





 自分達がしたことへの後ろめたさもあって、むしろ逆切れしたわけだ。

 そして結局、さらに大きな悲劇が起こる。


 闇の軍勢との大戦が全て終わった時、サクラ達はよその街へ引っ越していたのだが、前に住んでいた街の連中の一部が、追っかけてきた。

 そしてサクラが留守の時に、彼女の家族を殺し尽くしてしまう。


 もう闇の軍勢は消え、ブレイブハートの用もなくなったし、かつてのことを恨まれて仕返しされることを恐れたんだ。

 直後に帰宅したサクラも闇討ちされかけたが、あいにく彼女に逆襲され、実行犯達は全員がその場で息絶えた。


 しかし……自宅内に血まみれで倒れている家族を見たサクラは、怒り狂ったという。


 まあ、それは無理もない。

 過去の恨みを忘れ、命がけで守りきった人間達が、逆に彼女に牙を向けたのだから。

 復讐の鬼と化したサクラは、かつての街へ戻って首謀者達を見つけ、凶行を白状させた上で、その全員を殺した。報復である。


 しかし、このことは当時のロクストン帝国の帝室にまで届き、最終的に、サクラは王家の放った軍勢によって殺された。

 帝室側としては、サクラの言い分はどうでもよく、もはや用のなくなったブレイブハートが疎ましくなっていたようだ。


 特に、最後まで生き残っていた四名のブレイブハートのうち、サクラが最も当時の王家に反抗的だったのが大きかったようだ。


 守るべき人間を殺したという理由で、三百名を越える選りすぐりの精鋭を、サクラ一人に差し向けた。

 驚くべきことに、サクラはその正規軍を一人で迎え撃ち、重装備の軍勢をことごとく殺し尽くした挙げ句、最後は自分も満身創痍まんしんそういとなって動けなくなった。

 遠目に見ていた目撃者によると、周囲を敵の死体で埋め尽くした状態で、自ら首を掻き切って果てたという。


『守るに値しない人間どもよっ。わたしはこの怒りと哀しみを決して忘れないわ! 覚えているがいいっ、わたしは必ず再び蘇り、今度は人間を殺すためのブレイブハートとして戦ってやるっ。必ずや、おまえ達人間を殺し尽くしてくれよう!』


 ――それが、文字通り血を吐くような、サクラの最後の叫び声だったようだ。






 最後まで聞いた俺は、愕然とした。

 途中から、ユメをメイドさん達のところへ遊びに行かせて正解だったね!

 まあ、聡い子なんで、既に大方はわかってしまったかもだが。


 あのダウナーな雰囲気のサクラに、そんな過去があったとはなあ……壮絶すぎるだろ。

 しんみりとしたところで、いきなり背後から声がかかった。



「本当に、美味しい私有地ダンジョンなんかあるの?」


「おっと!」

 俺は飛び上がりそうになり、振り向く。

 案の定、話題の碧川サクラが、泰然と立っていた。

 いつも通り、素晴らしく愛想がない。こいつを見ると、逆にほっとするな。

 ああ、俺やっぱり特別扱いされるような人間じゃないなと。

「早いな、おまえっ」


「たまたま、朝からギルドに来てたのよ。それより、まさかメイドさんのお使いで呼びつけておいて、嘘じゃないでしょうね?」


 しかし……過去は置いて、この中坊は挨拶という概念を知らんな? 

 何事もそこから始まるんだぞっ。

 



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