私有地ダンジョン(レベル別対応)
さらに、一階まで下りたら下りたで、昨日見た壁画の正面ホールに、アデリーヌがさりげなく立っていた。
明らかに俺達を待っていたみたいだ。
昨日とはデザインが違うが、今日もまた漆黒のドレスで、コルセットのお陰で胸が目立つ。
「おはようございます、レージさま。本日は、どちらへお出かけでしょう?」
「ああ、おはようございます」
俺はユメの頭もついでに下げさせ、自分も低頭した。
「実は、街へ出てギルドに顔を出し、ダンジョンアタックでもしようかなと。思うところがあって、鍛えたいってことですが」
「それは素晴らしいことですわ!」
たちまち手を合わせ、アデリーヌが破顔した。
「それでは、当家の武器庫から、お好きな武器をお選びください」
――いや、それはっ。
と言いかけたが……よく考えたら、武器もナシにダンジョンでレベル上げとか、無理だわな。
そこに気付いてなかった自分に、我ながら呆れるが。
「重ね重ねどうも。では、お借りするということで――」
「いえいえっ。当家にある品は全て例外なくレージさまのものですわ。さあさあっ」
もう早速、俺の手を握って連れて行こうとするという……どうやらこの人、俺がすぐ遠慮するのを見抜いて、先回りしている気がするな。
ううっ、なんか深みにずぶずぶ嵌まってます感が半端ないっ。
ずるずる連れて行かれるままでなんだが、どんどん借りが増えてないか、俺。
子供のユメは、「わーい、武器、武器ぃ~」と喜んでるけどなっ。
俺もこのくらい素直になれたらいいが……さすがに無理だ。
やっぱ、いろいろ裏を気にしてしまうぜ。
ただ――メイドさん達の部屋がある別館まで移動し、そこの地下へ下りてみて、俺はたまげたね。
地下フロア自体が、本館に繋がってるんじゃないかと思うほどめちゃくちゃ広いんだが、廊下の奥にあった両開きのドアを開けると、いきなりどーんと武器が並んでいた。
この時代、どうも既に銃器まであるらしいが、その銃器を含めてありとあらゆる武器があったぞ。日本の刀にしか見えないような武器も、それこそ壁にバンバン掛けてある。
「どうぞ、お好きなものを……剣でも刀でも、槍でも弓でも。魔法防具や鎧などもありますわ」
「す、凄い……」
「いっぱいあるの~」
きゃっきゃっ笑いながら夢中で見ているユメはともかく、俺は心底、度肝を抜かれた。
貴族ってのは、ここまで平時の準備をしないといけないもんか? ここ、タダの出張屋敷みたいなものだと聞いたはずだが。
「しかもこの剣――」
俺は、一方の壁に掛けられている、巨大な黒い大剣を見つけ、呆然と見上げた。
どう見ても、クラウドが持ってるアレよりデカいぞ、これ。
こんなの、誰が使うんだ?
……と思ったら、アデリーヌが恥ずかしそうに俯いて言ってくれた。
「ああ、こちらはわたくしの予備でございます。でも、お目に叶うなら、お使いください」
「えっ!?」
俺は思わず、アデリーヌの照れた顔をまじまじと見つめた。
この剣、どう見ても重量が何十キロもあるんだが……対するに、アデリーヌは身長こそ俺と同じくらいありそうだが、どう見ても嫋やかな外見で、スプーン持つのもせいぜいそうに見えるがな。
立ち尽くしていると、ユメが小型の刀を指差して俺の袖をぐいぐい引いた。
「パパ~、ユメはアレにするっ」
「ば、馬鹿いえっ」
俺は慌ててぶんぶん首を振った。
ひとまず、ユメを説得して連れ出すのに大汗かいたが、ともあれ俺は無事に武器を入手した。まあ、刀が一振りだけどな。
アデリーヌに訊くと、刀を選択するなら、お勧めがこれだって話なので。
しかも、ようやく屋敷から出ると、アデリーヌはさらに驚くべきことを教えてくれた。
この屋敷の敷地内に、レベル上げに適したダンジョンがあるらしい。
「まあ、ダンジョンだけというわけではございませんが、当家のメイド達が日頃の鍛錬に使う場所へ通じているのです」
俺達を案内しつつ、アデリーヌがさりげなく説明した。
「こちらが、そこへ通じる場所ですわ……ご覧ください」
花壇の裏手にあるなんの変哲もない長方形の空き地まで来ると、アデリーヌは短く三度、間を開けてさらに四度、手を叩いた。
すると、おお……たちまち複数の赤い魔法陣がずらっと並んだではないか。
「そこに立てば、それぞれ特徴あるダンジョンへ通じています。一番左端が、レベル1から初心者用で、右へ行くほど難易度が高くなりますね」
こともなげに言ってくれたが、ここの魔法陣、十個はあるぞ。
まあしかし……ここは一つ、男らしくレベル1用からだな!
と俺が密かに決定していたのに、まだ手を握ったままだったアデリーヌが、普通に右端まで俺を誘導し、笑顔で言った。
「言うまでもなく、レージさまの実力なら、最初からこことなりましょう」
「……は?」
この人、実は俺のこと嫌いなんじゃないか?
ポイント等も含め、ご感想やレビューをくださる方達、いつもありがとうございます。
どんなご感想にも等しく返信する自信がないので、私はずっと返信なしできていますが、いつも感謝しています。
ありがとうございます。