大いなる君よ
一礼して出て行ったエレインがドアを閉めたので、俺は早速、もらった小さいカードを見た。
む……これは……何を意図したカードかわからんな。
エレイン・ルアーブルという名前と、十五歳という年齢が書いてあり、手書きの地図みたいなのがある。どうも別棟二階の見取り図みたいだが、一カ所に黒丸が打ってある。
多分、自分の部屋の印かな?
部屋番号も書いてくれてあるのに、えらく親切な。
以下、細かい字で身長やら体重やらのスペックが書いてあったりする。
胸囲とか胴囲とかのサイズまであるけど、そんなの男の俺に知られていいのか!? 次は三日後ですとか、わけのわからん文字もあるが。
「ぬうう?」
首を捻りつつ、裏も見る。
うお……今度はまた……ていうか、これマジか。
☆レベル計測値☆
Lv50 HP8022 MP10054 武器:ダークファンタジー×2 魔法付与Lv4
(細かい他の数値がお知りにないたい時は、いつでも開示致します)
「マジか、マジなのかこれっ! ブレイブハートのあいつより上だぞ、このスペック」
しかも、サクラはかつての戦いの記憶を引き継ぐ、転生戦士らしいのに。
つまりは、ブレイブハートの中でも最エリートである。ベジータもびっくりの女だぞ。
ヤバい……ここのメイドさんは半端ない。おまけに、括弧書きで他の情報もいつでも開示するとか書いてくれてある。
なんという、痒いところに手が届く親切さ。
ていうか、俺がそんなの知って、どうすんだ。
「つよいねー。すごいねー」
いつのまにかまた頭を出して覗き込んでいたユメが、感心したように何度も頷く。
見てわかるのか、おまえ?
「パパ、この人、スカウトしてきてぇー」
「スカウトって、闇の軍勢に?」
「うん。ユメとパパのやみのぐんぜいに」
ユメは真面目な顔で頷く。
「多分、ここの人達はみんな、言えば入ってくれる気がするのよ」
「まあ確かに。ちょっと信じ難いほどみんな親切だからな。しかし俺は、あんまりそういうので甘えたくないな……一応、声はかけてみるが」
などと――ユメと雑談しながら朝食を摂ったせいか、食べ終わるのにだいぶ時間がかかってしまった。
しかし、ちゃんと服を着替える頃にはまた別のメイドさんが来て、使った食器などを下げていってくれた。
しかも、なぜかその人も最後に大いなる君がどうのの挨拶をした後、自前のカードをくれるという……ホントにこれ、メイド喫茶のキャラカードみたいなアレじゃないのか。
エレインのと同じく、細かい自己紹介が書いてあったが、驚いたのはそのピンク髪の人も、レベル47とかなのだな。サクラには及ばないにしても、限りなく近い。
だいたいあそこのギルドじゃ、サクラのすぐ下がレベル10とかだったぞ!?
なんだこれっ。
ここの屋敷のメイドさんは、全員ヴァンパイアとかじゃないだろうな……いや、それなら昼間にうろうろできないか。
だいぶ驚いたが、今日は俺にもやろうと思っていることがある。
そこで、着替えた後でユメと手を繋ぎ、早速、一階に降りた。さすがにユメは連れて行けないが、どう言おうかな……。
なんて考えつつ歩いていると、メイドさんが多いせいで廊下や階段などでバンバン出会うのだが、その度に皆さん、過剰とも思えるような挨拶をして下さる。
その場で片膝をついて「大いなる君よ」と呟き、頭を垂れる人がいるかと思うと――。
……エレインみたいに、その場で右手の拳を左肩にびしっと当て、「全ては、大いなる君のために!」と声を張り上げる人もいる。
こ、これがこの世界のメイドさんの挨拶かっ。
ていうか、本当にここは貴族の屋敷かっ。旧ドイツ軍の、作戦本部とかと間違ってないか!
金髪のアデリーヌ、尊敬されまくってんな……しかし、俺は今のところ「ご、ご苦労様です」と引きつった声で返してるけど、もしかして俺も少し真似した方がいいのか?
同じように挨拶返すべきかね……アデリーヌには世話になってんだから。
「みんな、パパをそんけーしてるねー。ユメもうれしいのっ」
なぜかユメが嬉しそうな声で、素っ頓狂なことを言うので、俺は苦笑した。
「大いなる君は、アデリーヌのことだよ。昨日の金髪おねーさんな」
「えー! ユメはパパのことだと思うのよっ」
嬉しそうに声を張り上げやがる。
ていうか、確信ありげに言うなよ、おい。俺が本気で勘違いしたら、どうするんだ。




